第222話 エドガーの報告と三年目の発展

 ヘルミーナの結婚式出席から、まさかの大乱闘に発展した事件から数日後。

 要塞村を訪れたエドガーは、トアに囚人服の男の件を報告した。

 トアはエドガーからの話を聞き、すぐにピンときた。というのも、エドガーの話す男の特徴は、以前クラーラとエステルがパーベルで戦ったという八極のリーダー・ヴィクトールに酷似していたからだ。

 すぐさまトアはローザを呼び出し、エドガーの話を一緒に聞いてもらうことにする。


「ふむ……ヴィクトールで間違いないじゃろうな」


 ローザはエドガーの話から、結婚式場近くに現れた男をヴィクトールだと断言した。


「それで、クレイブの容態は?」

「ぶっ飛ばされた時は気を失っていたけど、今はピンピンしているよ。ケイスさんにはまだ無理だと言われていたが、こっそり鍛錬も再開しているみたいだな」

「ははは、クレイブらしいや」


 それに、反応が同じくヴィクトールにかなわずに敗れたクラーラと同じという点も、なんとなく彼らしさを感じられた。


「かっかっかっ! クラーラにしろクレイブにしろ、敗北を前にしてなお立ち上がろうとするその気概は見事じゃ!」


 高らかに大笑いのローザだったが、すぐにハッと我に返り、


「とはいえ、クレイブに襲いかかったことは咎められるべきもの……ヴィクトールに代わってワシが謝る。すまなかった」

「いやいや、確かに最初に勝負をふっかけてきたのは向こうだけど、クレイブが乗っちまったっすからね。……あいつも自分より強そうな人を見つけると戦いたくなる性分なんすよ。エノドアに来てからは丸くなっていたんすけどね」


 一通り喋り終えたエドガーは、重苦しくなり始めていた空気を入れ替えるように深呼吸を挟んだ。


「にしてもマジかぁ……あのおっさん、伝説の勇者だったのかよ……」

「でも、なんでまた町中で暴れていたんでしょうか」

「それがよぉ、事件の後に聞き込みをしてみたんだが、どうやら最初に吹っ飛ばされた男が悪酔いしていたらしくて、あっちこっちにケンカをふっかけていたみたいだな。周りがそう証言してくれたが……いかんせん、相手が悪かった」

「まさか八極最強の勇者がいるなんて思わないよねぇ」


 災難というべきか、自業自得というべきか。

 また、エドガーはこうも述べた。


「一緒にいたセリウス軍の特務兵で、勇者ヴィクトールを追っているステッド・ネイラーっておっさんは、『あいつは騒ぎを起こすが、時には山賊や海賊に制圧されかけている村や港を救ったりもしている』とも言っていたな。……ただ、脱獄犯であることには変わりないから、『捕まえて、しっかりと罪は償わせる』とも言っていたけど」

「それが正しい道じゃな」


 ローザはそう言って紅茶で満たされたカップに口をつけた。

 その様子からは特に驚いたように映らなかった――が、よく見るとカップを持つ手が微妙に震えていることに、トアとエドガーは気づいたのだった。



  ◇◇◇



「平静は装っていたみたいだが、結構動揺していたんだな」

「……ヴィクトールさんとローザさんってもしかして――」

「男女の仲だったのかもな。っと、男女の仲といえば、あのヘルミーナさんに春が来たかもしれないぜ?」

「え? そうなの?」

 

 トアとエドガーは世間話をしながら要塞内部を歩いて回る。すると、ドワーフをはじめとするさまざまな種族が元気に働いている場面へと出くわした。


「随分と賑やかじゃねぇか。今夜は宴会か?」

「宴会は明後日やる予定だよ。ほら、建設中だった橋の完成記念に」

「あれって結構前に完成していなかったか?」

「ファグナス様がセリウス王都へ呼ばれて留守なんだよ。戻ってきたら、獣人族の村に住む人たちも招待して盛大にやるつもり」

「なあ、それって俺たちも参加しても大丈夫か?」

「もちろん!」

「よっしゃ!」

 

 エノドア組の参加も決まり、橋の完成記念宴会は大きな盛り上がりを見せそうだ。


「――で、話は戻るけど、なんでこんな騒がしいんだ?」

「実は……要塞村の一部を定期市を開くために商業区として開放することにしたんだ」

「商業区?」

「パーベルやエノドアにあるお店をこっちにもいくつか出店する予定でいるんだ」

「ほうほう。てことは、これまで住んでいた村人以外にも、かなりの人数が移住してきそうだな」

「行商が立ち寄る中継ポイントにもなるし、そうそう、宿屋も造る予定なんだ。……あと、すでにホールトン商会とも提携済みなんだよね」

「なっ!? ……はは、マジかよ」


 自分の知らないところですでに身内の手が回っていることに、エドガーは呆れを通り越して乾いた笑いしか出ない。


「エドガーたちが結婚式についていっている間にナタリーさんが村に来て、『そういうことなら是非とも協力を!』って申し出てくれたんだ」

「ったく……商魂たくましいことで。新しいビジネスパートナー見つける前に生涯のパートナーを見つけろよな」

「誰が行き遅れのババアだって?」

「ぬおっ!?」


 エドガーの背後から現れたのはまさに今話題の真ん中にいたナタリーだった。


「し、心臓に悪いだろ!」

「あんたの悪口が聞こえてきたものだからつい、ね?」


 これに関しては何も言い返せないエドガーだった。


「それよりトア村長、うちからも何人か出店させてもらいたいんだけど」

「ホールトン商会直営ってことですか?」

「ええ。うちでも腕利きの商人を五人ほど。あ、そうそう! それからガドゲルさんが『ジャネットが世話になっている要塞村になら、うちの武器を置いてもいい』って言ってくれたのよ!」

「鋼の山の武器……こりゃ人が殺到するな」


 八極のひとり、鉄腕のガドゲルが監修した武器ならば飛ぶように売れるだろう。


「しかし、人が押しかけてきて大丈夫か? ここの種族はあまり人間と交流をもたないのが多いからなぁ」

「むしろ、みんなもっと交流したがっているんだ」

「それは私たち人間側からしても喜ばしいことだわ。帝国との戦争終結後、人間と他の種族の間にはどこか壁みたいなものができているように感じていたから……この要塞村をきっかけにそんなわだかまりがなくなっていくことを願うわ」


 ナタリーの言葉に、トアとエドガーは同時に頷いた。


「さて、まだまだ時間もあるし、俺も手伝いますか」

「え? いいの? 今日はお休みだったんじゃ……」

「これだけ活気あるところを見せつけられて帰れるかよ。要塞村の新しい挑戦に、俺も協力をさせてもらうぜ」


 エドガーは腕まくりをすると、作業している村民たちの方へ走っていった。


「新しい挑戦に俺も協力、か……あの子にしてはいいこと言うじゃない」


 ナタリーは弟分でもあるエドガーの成長に目を細めていた。

 こうして、三年目の要塞村は新しい挑戦に向かって歩き始めたのだった。






【 あとがき 】


いつも「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」をお読みいただき、ありがとうございます。


本作はカドカワBOOKS様より、2月10日に書籍第1巻が発売されます。これも読んでいただいたみなさんのおかげです。本当にありがとうございます。


現在、ツイッターにてキャライラストや予約情報などを掲載中です。

これからも要塞村の面々をよろしくお願いいたします。<(_ _)>


キャライラストや予約情報などはこちらから! 

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