第119話 突入! 植物城

「「「「「ウゴゴゴゴ!!」」」」」


 襲い来るプラント・ゴーレムに対し、要塞村メンバーは冷静に対処していった。


「このぉ!」


 まず威勢よく飛び出していったのはクラーラだった。

 剣戟を振るい、プラント・ゴーレムたちを斬り刻んでいく。


「ゴアッ!」

「!?」


 背後から飛びかかってきた相手に対しても、片足で地面を強く蹴り、体を反転させてこれを回避。すかさずカウンターの一撃をお見舞いして勝利を収める。


「まだまだ斬り足りないわ! さっさとかかってきなさい!」


 体力的にも、まだまだ余裕がありそうだ。


「マフレナ! 久々に大暴れしてやれ!」

「うん! シロちゃん、ちょっと待っていてね」

「がうっ!」


 守護竜シロを近くにあった切り株の上に座らせると、マフレナは深呼吸をしてから「はあっ!」と気合の雄叫びをあげる。

 すると、美しい銀色をしていた髪や尻尾は金色へと変化。銀狼族の中でも百年にひとり現れるかどうかと言われる金狼の姿へと変貌する。


「村を襲おうとする悪いモンスターを成敗します!」


 金狼状態になったマフレナは得意の格闘術でプラント・ゴーレムを蹴散らしていく。そんな娘の活躍に声援を送るジンだが、自身も襲い掛かってくるプラント・ゴーレムを打ち破っていった。


「工房にこもってばかりでしたから、たまには体を動かさないといけませんね」


 そう言って武器を手にしたのはジャネットだった。

 四方をプラント・ゴーレムに囲まれているが、その表情には余裕がうかがえる。


「さて……やりますか」


 ジャネットは愛用の武器――自分の背丈よりも遥かに大きく、重量もあるハンマーを振り上げると、襲ってきたプラント・ゴーレムを吹っ飛ばす。小柄で細身の体つきながら、その巨大なハンマーを木の枝のごとく自由自在に操り、次々と敵を葬っていった。


「あなたが戦っているところを見るのって初めてかも。やるじゃないの、ジャネット」

「ありがとうございます♪ クラーラさんこそ、さすがの強さですね」

「毎日鍛えているからね」


 クラーラとジャネットはお互いの健闘を称え合うと、再びプラント・ゴーレム狩りへと戻った。


「さて、そろそろワシらも暴れるとするか」

「はい!」


 クラーラたちの戦いを眺めていたローザとエステルの師弟コンビはゆっくりと杖を構えて詠唱を開始。植物相手なら炎が常套手段だが、ここで派手に炎魔法を使おうものなら、あっという間に森林火災が起き、要塞村もただでは済まない。

 なので、ここは風魔法を使い、プラント・ゴーレムたちを斬り刻んでいく。


「はあっ!」


 もちろん、村長トアも負けてはいない。

 ジャネット特製の剣を振るい、プラント・ゴーレムを倒すトア。


「気合が入っているな、トア村長。キレのある良い動きだ」

「ありがとうございます!」


 八極でも戦闘を専門にしていたシャウナからそう言われると、トアは笑顔で答える。

 ――しかし、シャウナは感じ取っていた。

 キレのあるトアの動きも見事なものだが、それ以上に全身から溢れ出ている強力な魔力に目を見張った。それは同じ八極であり、魔法の専門家であるローザも同様であった。


「神樹の魔力か……あれをモノにできれば、彼はヴィクトールをも越えるかもしれない」


 シャウナはトアにかつて自分たちを誘った八極のリーダーであるヴィクトールの影を見ていた。それだけでなく、プラント・ゴーレムを相手に圧倒的な力差を見せつける他の仲間たちは自分たちと被る。


 以前、ローザはトアたちを新生八極だと言っていた。

 それは冗談半分の言葉で「まだまだ若い者には負けん」とローザは語っていたが、こうして戦っている姿を見ていると、あながちその話も的外れではないのかもしれないとシャウナは思った。


「? シャウナさん? どうかしましたか?」

「……いや、なんでもない。それにしても、数が多いな」


 状況はトアたち要塞村組が圧倒的有利であるのに変わりはない。何事もなくあっさり倒しているので勘違いしそうだが、プラント・ゴーレムもまともに戦ったらそれなりの戦力が必要になる強敵だ。


 そんな敵を難なく蹴散らしていく要塞村メンバーだが、問題は数だ。

 森の奥から現れるプラント・ゴーレムの勢いは衰えを見せず、無尽蔵にさえ感じてくる。


「このままじゃキリがない……奥へ行って元凶を叩かないと」


 きっと、その元凶の近くにリディスたち大地の精霊がいるはずだ。問題はどうやってこの大群の中をかき分けていくかだが――頭を悩ませるトアの前に、聞き慣れた少年の声が耳に飛び込んできた。


「トア! 無事か!」

「収穫祭の段取りの打ち合わせに来たんだが、おもしろそうな連中を相手にしているじゃねぇかよ!」

「新しい住人――なわけないわよね」


 エノドア自警団の一員であり、友人でもあるクレイブ、エドガー、ネリスの三人であった。さらにそれだけでなく、新たな増援が加わった。


「遅くなって申し訳ありません、マスター」

「こいつはまた難儀な事態になっているな」


 要塞村での仕事があって到着が遅れていたフォルとゼルエスだ。さらにまだ続く。


「トア村長! 私も加勢するぞ! 黙ってみておけぬ状況のようだしな!」


 クラーラの父アルディも参戦を表明する。

 援軍到着を知ったトアは咄嗟に叫んだ。


「! みんな! 援護を頼む!」

「分かった!」

「任せろ!」

「後方支援は弓術士である私の十八番よ」


 トアは合流したエノドア組に後方からの支援を要請。それを耳にしたシャウナはすぐさまトアの狙いに気づき、要塞組のメンバーへ声をかけた。


「エステル! クラーラ! ジャネット! マフレナ! それにローザとフォル! 君たちはトア村長と共にあの植物城へ向かうんだ! ここは私たちに任せておけ!」


 ローザの声に反応したメンバーはすぐにトアのもとへと集まり、リディスたちがいると思われる植物城へと向かって走り出した。

 

「……さて、何が出るのやら」


 走り去るトアたちの背を見送りながら、シャウナはひとつ息を吐いた。少し視線をずらせばエノドア組がプラント・ゴーレム相手に善戦をしている。さらに、ジンとゼルエス、さらにはエルフ族のアルディも必死に戦っていた。


「アルディ殿たちはさすがの一言だが、エノドア組は……ふむ。なかなか見込みのある若者たちだ。なんだか私まで興奮してきたよ。こんな気分はいつ以来かな」


 笑って、シャウナは目を見開く。

 その瞳は――蛇のそれだ。


「この《黒蛇のシャウナ》……久しぶりに本気で戦わせてもらおうか」


 静かに告げると、シャウナは不敵な笑みを浮かべながら戦線へと加わっていった。

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