北綾瀬攻略7

おれとエクステンペスト、両者の中間に当たる天と地の狭間で紅き光の咆哮と虚空へと繋がる針は相見えた。


エクステンペストの放った『尖紅龍鱗砲』は体表の爆鱗の内、急所を除いた実に八割もの爆鱗を風によって圧縮している。もしこの一撃が少しでも別の物体に触れたのなら内部の爆鱗が大連鎖を引き起こし古代樹の森を丸ごと吹き飛ばすような大爆発を起こすことであろう。

対する俺の放った《虚空針》は周囲の空間に存在するあらゆる物を取り込み虚空へと消し去りながら飛び続け、音もなく『尖紅龍鱗砲』と衝突した。

二つの圧倒的な力を伴う攻撃同士は、その威力に反してとても静かに衝突している。『尖紅龍鱗砲』が《虚空針》の吸収限界を超過し食い破ろうとすればすかさず俺が追加の霊力を与えて許容限界を増加させる。逆に虚空針が『尖紅龍鱗砲』を完全に飲み込み切ろうとすればエクステンペストが『尖紅龍鱗砲』の先端部分の爆鱗を意図的に爆発させて一時的に《虚空針》が吸収する必要のある体積を増加させることで、吸収速度を鈍化させてその間に持ち直している。


少しでも制御を乱せば一瞬で自分の攻撃が相手に食い破られてしまうのでお互い全く気を抜けない。するとあちらも埒が明かないと感じたのか残りの全エネルギーを一気に吐き出すかのように勢いを強めて来た。

こっちがポーションを飲みながら持続させていると言うのにエクステンペストは霊力の回復を一切行わずに俺と拮抗するどころか上回りかけているのは流石は龍なのだということだろう。


だがなぁ、確かに互いの攻撃は拮抗していて他の何かに手を回す余裕はない。そう、俺たちは・・・・だ。


「ジークフリートォッ!」


「この時を待ちわびたぞマスター!」


「悪りぃな。だったらその鬱憤、存分にぶちかませ!」


「心得た!」


俺の横に霊体化状態を解いて突如として現れたジークフリートにかなり驚いたのかエクステンペストの動きが一瞬乱れた。


「行けっ!」


“ドッ!”


俺のように『無窮歩法タキオンステップ』なんかの【特殊能力スキル】を使わずにただの脚力のみで飛び上がったジークフリートはエクステンペストとの距離を一瞬にしてゼロにし、その手に担ぐ大剣を振り上げた。


「宝具解放。“これは邪悪なる竜を穿ち屠りし一撃なりて…”『邪竜魔剣バルムンク』!」


「アアアアアッ!?!!?」


突然の真横からの一撃で体制を完全に崩されたエクステンペストの『尖紅龍鱗砲』は完全に途絶え、既に放たれていた分も一瞬にして《虚空針》に飲み込まれた。


「いっけえぇぇぇぇぇ!」


“ブチュッ”


《虚空針》がエクステンペストの胸を瞬時に突き抜け大穴を開ける。


邪竜魔剣バルムンク』を食らって崩れていた体制は遂に僅かなバランスも取れなくなり墜落していく。


だがここで一瞬気を抜いたのがいけなかった。


「ッッッッッアアアアア『尖紅龍鱗砲』ッ!」


「なっ!?」


エクステンペストが墜落しながら近くにいるたった今強烈な一撃を放ったジークフリートではなく俺めがけて先程と比べてもかなり威力の落ちた『尖紅龍鱗砲』を放ったのだ。


先程の《虚空針》にほぼ全ての霊力を注いでいたので今だけは霊術が使えない。使えても精々通常威力の《虚空玉》が関の山だ。瞬刻思考の中でいくら時間を引き伸ばしても無駄。回避も防御も不可能だ。ならばここは一か八かの賭けに出よう。

そうしてた俺は迫り来る『尖紅龍鱗砲』が心臓のど真ん中・・・・・・・に当たるよう・・・・・・身体を動かした。


“ドオォォォォォン!”


本当に威力が減衰しているのか疑問に思う程の大爆発が巻き起こり周囲一帯のあらゆるものを吹き飛ばした。


「マスターッ!」


「大丈夫だ。ただの致命傷だ。」


そして爆心地からひょっこりと無傷の俺が出てくる。


「」



「なんだよそのなんか言いたそうな顔は。」


「…致命傷で何故生きている?」


「そういや見るのは初めてだったか?これが【神格】ってやつの三回無敵能力だ。」


祝寿癒聖福賀慶縁幸光希恵稲望穂日月輝陽芽唯天護弾防繋一始栄繁養啓宝験瞬宙遍広治生


心臓付近から盛大に緑色の感じの羅列をばら撒きながら爆心地から歩み出る。


無傷で現れた俺に驚愕の眼差しをエクステンペストが向けてくる。


「よう!ダメージ食らい過ぎてもうバゼルギウスを食べた分の捕食再生はもう切らしたみたいだなぁ。」


ダメージの回復も出来ていないようでまた飛び立つ気配も無い。


「さあ、こっからはガチンコ勝負だ!」


【深月夜刀 上弦】と【浅月夜刀 下弦】を《亜空庫インベントリ》に仕舞い、代わりにMPポーションと俺のメインウェポンを取り出す。


死線観測デッドホライズン

無窮歩法タキオンステップ

『無限思考』

『神速読』


そして…


啓示板オラクルチャンネル


を並列発動。


「いくぞジークフリート。」


「心得た。」


超加速して接近からの職業【剣豪】の【特殊能力スキル】を太刀10の追加補正で発動。


「『雷霆一閃・轟』」


“ギイィィィィィン!”


雷を伴った神速の一撃がエクステンペストの体表の爆鱗を勢いよく削り取る。


「アアッ!」


真下まで来た俺を吹き飛ばす為の尻尾の横薙ぎが迫る。だがいいのか?もうここにいるのは俺一人じゃ無いんだぞ?


「やれ、ジークフリート」


「心得た。」


“斬!”


宝具を使ってすらいないただの膂力に霊力で補正をかけただけの純粋な攻撃。だがそこは竜殺しの英雄、そんな一撃でも弱っていることもあってか容赦なくその尻尾を斬り裂いた。


溢れ出る大量の血を被りつつ悶えているエクステンペストに一気に近づき心臓付近に突き刺さったムラクモを抜き取る。


そして俺は左手にムラクモ、右手にメインウェポンを構えてエクステンペストを睨みつける。



龍に限らずどんなモンスター、果ては人間であっても手負いの生き物はとても危険だ。下手に安全性よりスピードを取ったりすれば手酷いしっぺ返しを食らう。それで死んだ冒険者だって少なく無いのだ。


「アアッ!」


エクステンペストが風を纏ってながささと切れ味の格段に上がった爪を振り回してくる。


俺はそれに刃を添えてまるで鱗めくりでもするように爆鱗を剥ぎ取る。


「アアッ!」


“………”



「アアッ?」


エクステンペストは恐らく剥ぎ取られた爆鱗を起爆しようとしたようだが爆鱗はピクリとも反応せずただそのまま地面に落ちた。


「悪いがそれはもう貰った。」


間抜けづらを晒したエクステンペストの顔を右手のメインウェポンで切り刻む。


“ドン!”


すると傷口から小爆発が何度も起きて傷を広げる。


「やっぱ爆発耐性持ち相手じゃあんまり意味ないよな。」


エクステンペストはそう呟く俺…いや正確にはおれの右手に持つ刀、より正確に言えばその刀身に生えた爆鱗・・・・・・・・に対して本日何度目かもう分からない驚愕の表情を見せた。


さっきからメインウェポン、メインウェポン言っているこの刀。勿論これにもちゃんと銘がある。その名も【簒奪竜刀 チギリ】である。あの懐かしきドスアングラスと戦った時に使っていた【賊竜刀 ダツ】の成れの果てである。あの後ドスアングラスやいろんなモンスターの素材で強化し続けた結果、こいつはかなり変わった【武装技能ウェポンスキル】を獲得した。その名も『簒奪ノ牙グリードバイト』、斬り裂いた相手の持つ能力を一時的に奪う力。これで俺は一時的とは言え『爆鱗を操る能力』を奪ったのだ。


「これでお前の力は半減だ。」


「アアアアアッ!」


爆鱗が使えないならば風の力をと言わんばかりにエクステンペストの周囲の風が強くなって行き風の槍を生み出す。これで時間を稼いでまた嵐の鎧を生み出す気だろう。

だからその前に決着を付ける。


亜空庫インベントリ》から《蓄》属性のお札をもう一枚取り出し鞘に仕舞った【簒奪竜刀 チギリ】に貼り付ける。

そしてムラクモを小脇に抱えてクラウチングスタートの構えをとる。


「あれは任せたぞジークフリート。」


「了解した。」


霊体化したジークフリートを取り込み『無窮歩法タキオンステップ』で一気に加速する。


アアアアアアアア『尖風芯槍』ッ!」


次々と解き放たれる風の槍、それを『死線観測デッドホライズン』で見極め瞬刻思考と『無限思考』の併用で無理やりかわし続ける。



「右、左、前、前、後、上、左、後、前、右!」


自分で言っておきながら何の必殺技コマンドだよと思いつつもかわし続ける。


幾多もの風槍の雨を抜け遂にエクステンペストの眼前に躍り出る。


「死に晒せっ!」


ムラクモを抜き放ち真っ直ぐに心臓付近を狙って飛び出て抜刀。


「獲った!」


そう確信した。

だからこそその絶好のチャンスを爆鉄龍は己の命を対価に待っていた。


アアアア尖風龍砲ッ!」


本来嵐の鎧に回す筈であったリソースの全てを口内に溜め込み必殺の一撃を用意していた。例えこの一撃で先程のような不自然なダメージ軽減が発生しようと、吹き飛んだ先で海に突き落とし溺死で殺せる。その知能故か野生の直感か、エクステンペストはたった一度で【神格】のじゃくてんを見抜いていた。


だが、ここに来てもまだ足りない。


「宝具解放。“我が身は邪竜の血にて、岩よりも硬からん。”『邪竜血鎧イビルドラゴンズブラッド』」


防御に特化した宝具を発動したジークフリートが俺の前に立ちはだかりエクステンペストの一撃から俺を守る。


「背中借りるぞ。」


「承知した。」


おれはそのジークフリートの背中を使って一気に駆け上がり勢いをつけて跳ぶ。


「アアアッ!」


空中に飛び出た俺を睨みつけながらしっかりと俺の動きをしっかりと見ている。奴にとって致命の一撃となりうるのは右手のムラクモから放たれる攻撃と先程放った《虚空針》だけだ。いまから《虚空針》を撃つのはチャージをしていないのもあって無理だと見抜かれているだろう。だからこそ奴の目はムラクモの動きを見逃すまいと、視線がムラクモに集中している。


だがらこそ俺はムラクモを明後日の方向へ・・・・・・・放り投げた・・・・・


「アアアッ!?」


驚きの声をあげ、そちらに視線が釣られてしまったエクステンペスト。だけどその隙は見逃してやれない。


「太刀系統奥義…」


刃が鞘から抜けないように抑え込む形で貼られていた《畜》属性のお札が輝く。しっかりとこいつは納刀という状態を蓄えてくれた。

刃が抜けないように押さえつけているお札を無視して力技でひきぬけるよう構える。


形にするのは光さえ置き去りにする居合。


「皆既月蝕閃」


“シャン”


刀を抜き放つ心地いい音が響く。


だがその時俺は既にエクステンペストの背後にて納刀を済ませている。


“チャン”


そして遅れて今度は納刀の音が響く。


“ツーーー”


薄っすらとエクステンペストの首筋に赤い線が浮かんだ次の瞬間


“ドオオン”


エクステンペストの首が斜めに滑って落ちた。


音より早く抜き放ち光に追いつかれる前に斬り終える居合。

そんな風に言ってみたがこんな威力は本来絶対に出ない。《畜》属性のお札あってこそのあの威力である。


そして肝心の報酬、このダンジョンに挑戦した意味。


《ダンジョンボスモンスター【爆鉄龍 エクステンペスト】を討伐しまた。》

《【称号】『龍殺し』を獲得しました。》

《深層級ボスモンスター討伐報酬として【乱数箱シャッフルボックス】が贈られます。》

《ダンジョンソロ踏破ボーナスとしてステータスポイントを20ポイント贈られます。》

《深層級ボスモンスター討伐報酬としてステータスポイントを30ポイント贈られます。》


【神器】は出なかった。


─────────────────

【TIPS】

全てのダンジョンはシステムが浅層、中層、深層に分類しており、段階ごとに難易度が極端に上昇する。これは特に【階層煩雑迷宮 新宿】においては更に顕著で、只でさえ“巨大”がテーマと化している新宿ダンジョンでも深層では洒落にならないような巨大ボスモンスターが徘徊している。

具体例としては【人造巨人 巨神兵】や【地母神 マム・タロト】などが確認されている。

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