第192話・一方そのころ

 マリアの別荘下の海岸。

 ここはプライベートビーチになっていて、別荘の敷地内にある階段を下りないと入ることはできない。

 プライベートビーチの砂丘はなかなか広く、崖下なので覗かれることも、邪魔が入ることもなかった。まさに絶景、まさにバカンスにはもってこい。

 そんな別荘を拠点に、ライトたちは【傲慢】の大罪神器を捜索していた。

 常夏の国というだけあって気温は毎日30℃を超える。当然ながら薄着で活動し、数日に一度は休日を挟んで行動した。

 そして、今日は休日。

 プライベートビーチで日光浴、そしてスイミングを楽しいでいた。


「はぁ……日差しが気持ちいいですわね」

「暑いだけだろ。つーか、シンクとメリーをなんとかしろよ」

「リンに任せますわ」


 マリアとライトはビーチパラソルの下でのんびりしていた。

 ライトは海水パンツ。マリアは大胆に露出した赤いビキニで、背中の紐を外してシートの上に寝そべっている。

 ライトは冷えたエールを飲みながら、素っ裸で砂に穴を掘るシンクと、シンクに水着を着せようと躍起になっているリンを見た。


「シンク!! お願いだから水着を着てよっ!!」

「いらない」

「ああもう、女の子なんだから肌は見せちゃダメ!!」


 一方、メリーは……意外なことに泳いでいた。

 しかも、速くてフォームも綺麗だ。

 『天魔族』の修行に、水中で肉体に負荷をかけながら動くということもやったので、泳ぎは得意なのだ。それに、メリーは泳ぐのが好きだった。

 メリーを眺めながら、ライトは聞いた。


「なぁ、最後の大罪神器……【傲慢】ってどんなやつだ?」


 聞く相手は、相棒のカドゥケウスだ。


『ギルデロイの野郎はクソったれのキザ野郎だな』

『ギルデロイの下衆は最低のカスったれ野郎ね』


 カドゥケウスだけでなく、マリアの髪飾りになっている歪な羽、シャルティナからも声が聞こえた。

 大罪神器【傲慢】ギルデロイ・ピッチカート・スロウス。カドゥケウスたちの意見は参考にならないが、やはりまともではないらしい。

 マリアは身体を横に向け……水着がずれるのも構わず……ライトに言う。


「【傲慢】さんを見つけたら、ファーレン王国へ?」

「ああ。勇者レイジをぶっ殺す……悪いが、こいつだけは遠慮しない」

「そう……女神は?」

「ついでに殺す」

『あ、そうだ。言い忘れてた』

「あ?」


 カドゥケウスが、あっけらかんと言った。




『祝福の女神フリアエを殺したら、全ての人間から《ギフト》は消失するぜ』




 と───あまりにも普通に、とんでもないことを言った。


「ど、どういう」

『まんまの意味だっつの。魔の女神や愛の女神みてーな魔力とか愛とかはともかく、《ギフト》っつー異能は完全に消える。ケケケケケケケケッ、全ての人間が能力を失う……どんな世界になるか楽しみじゃねぇか!!』

「「…………」」


 マリアは身体を起こし、ライトと顔を合わせる。

 そして、二人は言った。


「ま、別にいいか」

「そうですわね。わたしたち、初めから《ギフト》なんて持ってませんし……」

「だな。そんなことより、女神フリアエは強いのか? 俺等もけっこう強くなってるし……」

『さーな。でも、一度だけ使える切り札を忘れんなよ? 相棒がどうなるかわかんねーが、オレの勘じゃけっこうイケると思うぜ』

「胡散臭ぇ……」

『ケケケケケケケケッ。オレだけの切り札だ。シャルティナたちにゃ真似できねー』

『……あんた、まさか』

『おーっと、ネタバレ厳禁だ』


 すると、いきなり裸のシンクがライトに飛び込んできた。


「ライト、リンが追っかけてくる」

「うわっ!? おいシンク、離れろって」

「やぁ……」


 水着を嫌がるシンクはライトに抱き着き、シンクを追っていたリンは何故かマリアの百足鱗に掴まっていた。


「ちょ、マリア!? な、なにすんのよっ!!」

「うふふ。最近リンとのスキンシップが少ないので……少し触りっこしません?」

「はぁ!? ばば、馬鹿なこと言ってないで放してよっ!! ってふゃわわっ!?」

「あぁん!! リンってばやわっこい……」


 マリアはリンの身体をまさぐり、ライトは必死にシンクを引き剥がそうとして……泳ぎ疲れたメリーが海から上がり、ギャーギャー騒ぐ四人を見て言った。


「楽しそう……」

『関わんないほうがいいわよ』

「んー……泳ぎ疲れちゃった。寝る」


 一行は、ワイファ王国を満喫していた。

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