第136話・頂上に潜むモノ

 翌朝。朝食を済ませて出発したライト一行。

 朝から吹雪がひどく、馬での移動は困難を極めた。なので、馬二頭をリンの影の中に入れ、ライトたちも影を使って移動した。

 影での移動は第二相の時に経験している。

 リンはマルシアを抱っこして、雪道を進んでいく。


「マルシア、ありがとうね」

『きゃうん』


 マルシアはリンの胸に抱かれ、気持ちよさそうだ。

 ライトとマリアとシンクを見ると唸り声を上げるが、リンにだけはとてもよく懐いている。シンクは抱っこしてみたがっていたが、マルシアが許さなかった。

 

「いいなー」

「シンク、先輩と後輩に餌やってくれ」

「はーい」


 馬の世話をシンクに任せ、ライトは影の中でどっかり座る。

 地面という概念はないが、座ると硬くて冷たい。木というよりは岩を加工して作られた床のような感触だ。

 ライトの隣にはマリアが座る。


「第三相……聞いたことありますの?」

「ない。というか『八相』は正体不明なのが多い。第一相や第二相、第四相みたいな奴はわかりやすいけど……戦ってみないと対処できないな」

 

 第一相マルコシアスや第四相ジェリー・ジェリーは相性で勝つことができた。第二相クレッセンドはライトの新しい能力と、仲間たちの協力で勝てた。

 今回もどうなるかわからない。


「シンクには悪いけど、少しでも不利になったら加勢する。『八相』は祝福弾にできるみたいだし……力が手に入るならどんな手段でも使うさ」


 八相祝福弾という強力な弾丸を、ライトは三つ持っている。

 最終的に八つ手に入れば、勇者や女神に対する強力な力となる。

 階梯も順調に上がっているし、ライトは確実に強くなっていた。


「わたしも強くなりたいですわ……もっと、もっと」

「なれるさ。正直、お前と正面からぶつかったら勝てるかどうかわからない。おまえは強いよ、自身もて」

「えっ……」


 マリアは、驚いてライトを見たが、ライトはマリアを見ようとしない。

 気恥ずかしいのか、座ったままカドゥケウスを弄んでいた。


「……ふふっ、ありがとうございます」

「…………ぁぁ」


 ライトは、ほんの少しだけ返事をした。


 ◇◇◇◇◇◇




 まだ、気付いていない─────。




 ◇◇◇◇◇◇


『…………妙だな』

「ん、どうしたカドゥケウス」

『いや……なんかこう、変な感じがする』

「はぁ?」


 山頂近くなり、吹雪が止んだ。

 しかも、雲が消え日差しも暖かい。まるで春のような陽気に、ライトたちは徒歩で山頂を目指すことにした。

 第三相がいると思われていたが、どうもそんな気がしない。

 魔獣も現れないし、天気もいい。雪山登山するには最高の環境だった。


『マリア、用心なさい……』

「シャルティナ?」

『シンク、あなたもです。爪を戦闘用に変えなさい』

「? わかった」


 シャルティナもイルククゥも警戒していた。

 ライトたちは何も感じないが、第三相が近いのかもしれない。

 カドゥケウスを抜き、祝福弾をチェックする。


「……とりあえず、いつものコンボを装填しておくか」


 『硬化』と『強化』。

 全身の防御力を上げ、さらに肉体強化する。これならどんな状況でも戦える。

 装填できる弾丸は6発。祝福弾をシリンダーに装填し、鉄くずを掴んで通常弾を装填する。通常弾も6発だが、こちらは装填だけされて目に見えない。


「カドゥケウス、近いのか?」

「シャルティナ、どうしたの?」

「……イルククゥ?」

「みんな、どうしたのよ?」


 【暴食】、【色欲】、【嫉妬】の三人が黙ってしまう。

 そして、ついに山頂に到着した。


「着いた……」


 山頂はまるで広場のようだった。

 木々が刈り取られ、運動場のようになっている。

 第三相の正体はわからないが、このメンバーならどんな相手でも戦える。

 そして、カドゥケウスが呟いた。




『マジかよ─────』

「カドゥケウス?」

『やばい、やばいぞ相棒。本当にヤバい……ヤバい!!』

「お、おい?」




 カドゥケウスが、取り乱していた。

 それだけじゃない。シャルティナとイルククゥもだ。


『なんてこと……』

「シャルティナ? どうしたの?」

『これは誤算ですね……』

「イルククゥ?」


 チリッ─────チリッ、チリッ。

 何かが、いた。






「あらら~? 招かれざるお客様ねぇ♪ ま、見てたけど」






 そこにいたのは、17歳ほどの少女だった。

 桃色の長い髪、背中に生えた天使のような羽、雪山に似つかわしくない薄いワンピース。

 少女は、ライトたちに優しく微笑みかけている。


「ふふ、こんにちは。大罪神器とその所有者たち」


 ゾァァァッ……と、全身に怖気が奔る。

 カドゥケウスの取り乱す理由がわかった。こいつは今までとレベルが違う。

 少女は、にこやかにほほ笑んで自己紹介した。






「初めまして。私は『愛の女神リリティア』……よろしくね♪」






 ようやく、気が付いた。

 この山に第三相なんていない。

 この山は、勇者レイジたちが愛の女神に会うために登った山。


「……女神」


 この場で、ライトだけが嗤っていた。


 始まってしまった。


 宿敵である女神との戦いが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る