第122話・第二相『氷結の女帝』クレッセンド・ロッテンマイヤー

 吹雪は、ますますひどくなってきた。

 もう、雪山を登っているのか下りているのかリンにもわからないが、マルシアの案内で山頂を目指し進んでいた。

 ライトは、リンの腕の中で甘えるマルシアを見る。


「なんでこいつにはわかるんだ?」

「さぁ……嗅覚とか?」

「こんな吹雪の中、匂いもクソもあるかよ。適当に進んでるんじゃねぇのか?」

『ぐぅるるるるる……』


 ライトに向かって唸るマルシア。マリアもだが、シンクにも懐いていない。マルシアが心を許すのは、飼い主であるリンだけだ。

 ライトは肩をすくめ、戦いたくてウズウズしているシンクに言う。


「確認する。第二相はお前ひとりで戦うんだな?」

「うん。第七相は戦えなかったけど……久しぶりに強い四肢を狩れそう」

「……死体は残せよ。俺が喰う」

「ん」

「それと、これだけは言っておく。お前が死にそうになったら加勢する……いいか?」

「なんで?」

「……お前は大罪神器の所有者だ。俺の目的のためにも、死んでもらっちゃ困る」

「ふーん。まぁいいや。死んだらつまんないし、満足したら手を出してもいい。でも、四肢は狩る、これだけは譲れない」

「……わかった」


 四肢狩り。

 相手を生かしたまま四肢を落とすことから付いた異名。女子供関係なく、狙った獲物は必ず狩る。

 シンクに狙われた第二相は、もう狩られたようなものだ。


「……シンク、約束通り手は出しません。ですが、お気を付けて」

「うん。ありがとう、マリア」

「第二相……第一相と第四相は倒したけど、相性勝ちみたいなところがあったからね。いいシンク、絶対に油断しないこと」

「うん。ありがとう、リン」


 マリアとリンも、シンクを心配していた。

 いつの間にか、仲間のように打ち解けている。最初に殺し合いをしたのがウソのようだ。

 

「……ま、俺とマリアも似たようなもんか」

「ライト? どうしましたの?」

「いや……なんでもない」

『きゃうん!! きゃんきゃん!!』

「わわ、どうしたのマルシア?」


 マルシアが急に吠えだしたので、リンは外の様子を確認する。そこには……青い氷でできた王城があった。

 そして、吹雪が王城から発生していることに気が付き、リンは慌てて影の中に潜る。


「あった、大きな氷の城……あそこから冷気が出てる」

「第二相はいたか?」

「ううん……でも、城の中にいるかも」

「じゃあ行く」

「待て、真正面から踏み込むのは危険だ。この冷気じゃ辿り着く前に凍り付くぞ」

「では裏口かしら?」

「あればだけどな。吹雪の影響が少しでも少ない場所を探そう」

「むー、めんどい」


 リンの影は、氷の城の壁伝いに移動を始めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 雪山の山頂にある氷の城。

 どういう原理か不明だが、城そのものから吹雪が巻き起こり、雪山全体を覆いつくしている。原因は間違いなく第二相。

 リンの影は、氷の城の真裏に移動した。だが、入口らしきものはない。ドアはあるが、見かけのドアで開く構造にはなっていない。

 

「すごい彫刻……第二相って、こんなの作れるんだ」

「どうでもいい。それより、入口を」

「んー……ドアと床の隙間とか探したけどないわね。壁を登れれば可能性があるけど、さすがにそこまではできないし……」

「ちっ……やっぱりあそこしかないか」

「ええ、正面ですわね」


 氷の城の正面は、ドアが解放されていた。

 まるで、入って来いと言わんばかりに。


「仕方ない、正面から影で進むぞ」

「やっぱそれしかないのね……」


 リンの影は、氷の城の真正面に回り込み、正面の門から中へ入る。

 中に入ると、そこには─────。


「あれが、第二相……?」


 中に入ると、ダンスホールのような空間だった。

 そこで、青い肌に氷柱のような髪をした美女が一人、クルクルと踊っていたのだ。

 間違いなく、人間ではない。だが、魔獣にも見えない。


「なんだ、こいつ……」

「…………」


 シンクは─────嗤っていた。

 爪をガキガキ鳴らし、リンの影から飛び出した。


「お、おい!? 待て!!」

「シンク!!」

「シンク!!」


 もう遅い。

 シンクは、第二相『氷結の女帝』クレッセンド・ロッテンマイヤーの正面に躍り出た。

 すると、青い美女は踊るのを止め、シンクに向かって華のような笑みを浮かべる。


『あら、あららら? お客様……お客様よ!! 氷の城のお客様、ああ、おもてなしをしなくっちゃ!!』

「初めまして……あなたを、狩りにきた」

『かる? 狩る狩る? 私を狩る? ああなんだ、お客様じゃなかったのね……残念、残念残念。でもいいわ。ここに来た以上私のお客様。これからずっとずーっと、私といっしょに遊びましょう!! 私の大好きなお人形さんごっこなんてどうかしら?』

「いいよ。壊れたお人形さんでよければ……ボクが作ってあげる」


 シンクの巨大爪がバカっと開き、赤い髪が吹雪でなびく。

 第二相クレッセンド・ロッテンマイヤーは両手を交差すると、吹雪が意志を持ったようにぴたりと止まる。そして、氷の蛇が何匹も、何匹も床から生えてシンクに立ちふさがる。


『遊びましょう。じゃあさっそく、最初はダンスなどいかが?』

「うん。踊ろっか……あなたの四肢、ちょうだい?」


 野獣のようなシンクと、姫のようなクレッセンド。

 赤と青の戦いが、ここに始まった。

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