第109話・ダイアウルフ討伐
「…………ってわけで、ダイアウルフと盗賊退治だ」
ライトは、ハンターから得た情報をリンとマリアに伝えた。
先程までじゃれついていたが、二人は真面目に話を聞き、さっそくこれからのことを話し始める。
「わたしとリンがダイアウルフ、あなたは一人で盗賊退治、と言うのでしょう?」
「あー……やっぱりマリアもそう思う? 私もライトならそう言うかもって考えてた」
「……よくわかったな。そうだ、俺が盗賊退治、お前たちはダイアウルフ退治を任せたい」
ライトの考え。
祝福弾作りは人間相手でないと意味がない。それに、盗賊の規模はそれほどでもなく、ハンターの情報からアジトの位置は絞れている。数が多くても祝福弾があるし、ライトは第四相の祝福弾・『
ダイアウルフは、リンとマリアなら問題ない。大きな肉食のオオカミ程度、この二人なら造作もなく倒せるだろう。
「ハンターに聞いたが、ダイアウルフは血の匂いに敏感だそうだ。近くの森で魔獣の1匹でも狩れば、その匂いで誘き寄せられる。あとはリンとマリアに任せる」
「なるほど。楽そうですわね」
「ああ。悪いが、今回は楽な方で頼む。まぁ、俺も楽勝だけどな」
「…………ダイアウルフってけっこう強い魔獣だけどね。盗賊だって大変だと思うよ?」
リンは冷静だった。自分の影を足でトントン叩くと、子狼のマルシアがぴょこっと顔を出し、リンの太股の上に飛び乗った。
「よしよし……ダイアウルフの捜索にマルシアの鼻が使えるかも」
「ふふ、では明日、行動開始ですわね」
「ああ。馬車はお前たちが使っていい。俺はアジトまで飛んで行くからよ」
「わかった。気を付けてね」
「ああ」
話し合いは終わった。
本当なら、銀級の冒険者グループが招集して対策を練る程度に危険な魔獣と盗賊団なのだが、大罪神器の持ち主2名と元勇者1名のパーティは余裕が感じられる。
「さて、メシまでもう少し。下でホットワインでも飲むか?」
「あ、いいね!」
「お供しますわ」
ライトたちは、一階の食堂へ降りていった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇
◇◇
翌日。
ライトたちは、それぞれ出発した。
宿泊を二日ほど延長し、それぞれ狩りに出かけた。
リンとマリアはダイアウルフ、ライトは盗賊退治……己を鍛えると同時に、ライトは祝福弾も作れる。間接的だが、村にとっても悪いことではない。
もちろん、ライトたちは村の住人に『狩りに行きます』とは伝えていない。
英雄になるつもりは全くないし、ただ強い敵を狩って鍛えたいだけだから。
「えっと、とりあえず……」
リンは、村から離れた森の近くに馬車を止めた。以前、このあたりでダイアウルフが現れ、猟師数名が亡くなったそうだ。
二人で馬車から降り、馬を撫でる。
「リズ・ドーム」
リンが魔術を発動させると、氷のドームが二頭の周囲に形成される。
念のための防護壁。この世界最高クラスの魔力量を持つリンが作った氷のドームは、勇者クラスでなければ破壊は不可能に近い。
「ちょっと待っててね。すぐに戻るから」
「リン、器用ですわね……」
氷のドームにはドアがあり、驚くべきことに閉式だ。二人は、ここに来る途中で襲ってきた魔獣の肉を袋から出し、森の中に投げた。
マリアが殺し、派手に解体した肉は温かく、血が滴っている。
「あとは待つだけ……」
「リン、さっきの氷のドームをもう一つ。いっしょに温まりましょう♪」
「いいけど……」
氷のドームを出し、中にシートを敷いて並んで座る。持参したポットの中にはホットワインが入っているので、マリアと一緒に少しだけ飲む。
「あったかい……」
「ですわね……はぁ、温泉に入りたいですわ」
「わかるわー……あと、鍋が食べたい。宿の女将さんに聞いてみよっか?」
「いいですわね。お鍋……ライトだけ食べるなんて、許せませんわ!」
「…………」
「リン?」
「あのさ、マリア。気になってたんだけど……ライトの事、好きなの?」
「? 好きとは?」
「その、異性として」
「いえ? わたしが愛してるのはリンですわ」
「え……いや、だって。なんか認め合ってるような、いい雰囲気のときがあるし」
「背中を預けるのに信用はしていますわ。誓約がなかったら抱かれてもいいですわね。でも……ライトもわたしも、望むのはそういう関係ではありません」
「…………」
「ライトもきっと同じ。わたしを信用しています。以前と違い『女』として見てくれるようですし……」
「そ、そう、なんだ……」
「ええ。わたしはリンを愛しています。それは絶対に変わりませんわ」
「う……」
真っ直ぐなマリアの想いが、リンに伝わる。
きっと、マリアは嘘を付いていない。ライトの事は好きだけど、愛じゃない。それはきっとライトも同じ。共に戦う事で愛とは違う絆が芽生えたのだ。
『……グゥルルル』
「っと、マルシア?」
「……どうやら、お出ましですわね」
リンの影からマルシアが飛び出し、唸りを上げる。
二人も気付く。獣臭……そして、複数の気配。
「……来た」
リンは刀を抜き、マリアはコートを脱ぎ、背中から百足鱗を四本出す。
氷のドームが消え、目の前に……大型バスのような大きさの、白い狼がいた。
そして、部下なのか、軽自動車のようなサイズの灰色の狼も20頭以上いる。
「まさか、こんなにいるなんて……」
「狩り甲斐がありますわねぇ……っ!!」
マリアは野獣のような笑みを浮かべ、ゆっくりと前に出る。
「シャルティナ、狩りの時間ですわ」
『そうね……最近、鈍ってるからね。暴れちゃいなさい』
「ええ、ええ……うふふふふっ!!」
「マリア、私もやるからね」
「うふふ、一緒ですわ♪」
マリアの背中の鱗百足がグネグネ動く。まるで本当の百足のように。
『ハァルルルルルル……ッ!!』
ダイヤウルフも警戒し、全身の毛を逆立てる。
灰色の狼たちも唸りを上げ、マリアたちを包囲した。
「さぁ……躍りましょうっ!!」
マリアの叫びと同時に、狼の群れが襲ってきた。
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