第101話・冬支度
ライトたち一行は、フィヨルド王国に向けて馬車を走らせていた。
街道の青々としていた木々が茶色くなり、枯葉が多く目立ってくる。そして、遠目に見える山の頂上が白くなっているのに気が付いた。
「お、雪か」
「うん。ライトとマリアは雪を見たことある?」
「ファーレン王国は四季が巡るからな。俺はある」
「わたしは一度だけ。寒いのは苦手でして……」
「わかるわかる。暑いのは耐えられるけど、寒いのは無理だよねー」
女子二人が楽し気に会話している。
これからリンは、マリアに身体を差し出すというのに随分気楽だ。無理やりはしないと思われるが、それでも同性というだけで緊張するはずなのに。
ライトだったら、男に身体を差し出すと言われただけで拒絶する。持てる全ての祝福弾と能力を持って相手を倒すだろう。
リンのすごいところは、身体を差し出すのに抵抗がない決断だったことだ。それとも、男と女では意識が違うのか……。
「ん、どうしたのライト」
「いや、別に。それより、明日には町に到着する。宿は」
「もちろん、温泉付きですわ。お金に糸目はつけません」
「わかった。俺は別のところに泊るから、どうぞごゆっくり」
「ちょ、ライト! ライトも一緒に」
「断る」
「うふふふふ。リン、楽しみましょうねぇぇ~」
「さ、触んなばかっ!」
三人の旅は、騒がしくも仲良く続いていた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ライトたちは、フィヨルド王国国境の町に到着した。
ここに来る道中、ずっと思っていたことをライトは呟く。
「さ、寒い……」
気温が低い。それだけじゃない、木々はすっかり禿げ上がり、地面は硬く、町を行く人たちは厚着をしている。ライトやリンは元より、背中剥き出しのドレスを着るマリアは、すっかり震えていた。
「マリア、あったかいコート買おう。このままじゃ風邪ひいちゃうよ」
「そ、そうです、わね。うん」
「まずは宿だ。温泉のある宿は?」
「わたしが案内しますわ」
マリアは、ガイドブック片手に御者席へ。喧嘩するわけでもない、いがみ合いをするわけでもない。仲がいいわけでもないし、なぜか二人の距離は近くなっていた。
本当に、何があったのか。リンにはさっぱりわからない。二人も語らないし、確認しようがない。
「……まさか、マリアがライトを?」
恋愛……ではない。でも、不思議と認め合っている。
リンには、二人の関係性がわからない。でも、喧嘩して険悪になるよりはずっといい。
「そこを曲がってください」
「右?」
「ええ。そしてすぐに左」
「わかった……あ」
「左とおっしゃったはずですが?」
「もっと早く言え、ほら、次は?」
「もう、使えませんわね……右」
「ふん……」
まぁ……殺気を撒き散らさないだけ、いいのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
温泉宿に到着した。
ヤシャ王国の敷地なだけあり、ヤシャ王国内で借りた貸し住居にそっくりの外観だ。
この宿は母屋と離れがあり、離れは高い料金だが個別の温泉もあり、ゆっくりできる。
もちろん、マリアは離れを借りた。一泊一名金貨6枚という値段も意に介さず、金貨90枚を支払った。
「……おい、俺は別の場所で」
「別に、離れて泊まる必要もないでしょう。行先は同じなのですから」
「…………」
「さ、荷物を置いたら馬の防寒具やわたしたちの装備を整えましょう」
「うん、そうだね。……ふふ」
「なにか?」
「ううん、別に」
きっと、マリアはこう言いたかったのではないか。
『仲間だから』と。
ライトは何も言わずに荷物をまとめ、宿の中へ入っていく。
マリアとリンは、その後に続いた。
◇◇◇◇◇◇
荷物を置き、再び町へ出た。
国境の町ということだけあり、なかなか栄えている。旅人や冒険者だけでなく、フィヨルド王国から来た商人や観光客もいた。
「おい、あれ……馬じゃないよな?」
「わぁ……トナカイかな? 大きい」
毛に覆われ、巨大なツノを持つ四足歩行の動物が、荷車を引いていた。
ライトも初めて見る動物で、目を奪われる。
『ひっひぃぃぃん!』
「っと、悪い悪い。お前のがすごいって」
「ふふ、嫉妬してるのかな?」
「はは……」
【嫉妬】。
この先、フィヨルド王国に向かえば、シンクと会うこともあるだろうか。
あの異常な奴が、フィヨルド王国に行った可能性もないわけではない。
どこで遭遇するかわからない。警戒は怠らないようにする。
「まずは馬用の装備だな」
馬用のコートを買い、馬専用のグリーブを買って履かせた。全身がすっぽりと覆われ、これなら吹雪が来てもへっちゃらだ。
ライトたちも、動きやすいコートとブーツを買う。
マリアは、百足鱗を出すと服が破れてしまうため、背中の空いたドレスを着ていたが、雪の王国であるフィヨルドではそんな恰好はできない。なので、非常時の場合のため、同じようなコートを何着も購入した。
他にも、雪山や冬用の野営道具など、必要な物を買い込む。
そして、荷車も冬用に新しいのを購入した。
滑り止めの付いた金属製の車輪で、車体も軽金属製の6人乗りに。完全な箱型で雪が降っても安心の荷車だ。
荷物が増え、馬一頭では心配だったので、もう一頭馬を購入する。これで、冬の装備は完了だ。
「新しい馬とも仲良くしてくれよ」
『ブルル……』
『ひぃぃんん!』
寒さに強いとおススメされた馬を購入し、今いる馬と顔合わせ。
互いに頭をこすり合わせていたので、問題なくやれるだろう。
全ての買い物を終え、三人は宿へ戻ってきた。
宿に入るなり、マリアは嬉しそうに言った。
「さぁリン、温泉に入りましょう♪」
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