第74話・遭遇
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「…………」
「…………」
「ねぇ二人とも、少しは喋りなよー……」
三人は馬車に乗り、ワイファ王国で買い出しを済ませた。
次に向かうのは東のヤシャ王国である。ヤシャ王国は秋の国で、とても美しい紅葉がいつでも見れるそうだ。
ライトとマリアは、事故でキスをしてから一度も喋っていない。責任はリンにあるが、会話のない旅はとてもつらかった。
なので、話題を提供する。
「次の目的地はヤシャ王国だけど……あそこの王子様はちょっと厄介なのよね」
「あら、何かあったんですの?」
「う、うん。その、旅をしていたとき、ヤシャ王国の第二王子に求婚されたんだよね」
「な、なんですってぇぇぇぇぇっ!!」
「ちょ、マリアうるさいっ!」
「わ、わたしのリンに求婚ですって!? おのれ……わたしとリンがどのような間柄か、その第二王子とやらに教える必要がありそうですわね」
「……間柄って、そんな大層な間柄じゃないでしょ」
「まぁ、昨夜はわたしをあんなに愛してくれたではありませんか」
「し、してないっつの!」
「きゃんっ!」
リンはマリアを小突くが、ライトは全くのってこない。
御者席の後ろを見ると、眠そうな顔で欠伸をしているライトがいた。
マリアもライトを無視しているし……。
「はぁ……」
「リン、第二王子との仲を詳しく」
「……ふぁぁ」
第二王子の話をせかすマリアと、興味なしとばかりに欠伸するライト。
これからヤシャ王国に向かうというのに、どこか緊張感が抜けていた。
そう、緊張感が抜けていた。
◇◇◇◇◇◇
ワイファ王国から出て東に向かい、ヤシャ王国を目指して馬車を走らせる。
西のウェールズ王国か東のヤシャ王国かで悩んだが、最終的にはクジで決めた。
「ヤシャ王国は和風……えっと、ファーレン王国やワイファ王国と違って、趣のある……うーんと、雰囲気のある国よ」
リンに言わせれば『和風』な国。異世界風に言えば『独特な文化』の国だ。レイジやリンが初めてヤシャ王国に入ったとき、懐かしさを覚えたのは気のせいでない。
「ヤシャ王国か……」
「行ったことある?」
「ない。でも噂で聞いたことがある、あそこは『八相』の第四相と第七相が潜んでいるって」
「八相……」
リンは、太ももで丸くなるマルシアを見る。
可能性の話だが、『八相』は人間かもしれない。女神を殺したいほど憎んだ人間の慣れの果てで、このマルシアに身に何があったのか、リンにはわからない。
「第四相と第七相か……今度は油断しない」
「戦う気満々なのね……」
「当然だ」
ライトは、『
これほど強力な祝福弾はそう見つからない。切り札の一つとして申し分ないだろう。もし八相全てが祝福弾になるとしたら……。
「ヤシャ王国に到着したら冒険者ギルドに向かうぞ。討伐系を繰り返す」
『おい相棒、忘れちゃいねぇだろうな? 大罪神器も忘れんなよ』
「あ、そういやそうだったな……わかってるよ」
『ほ~んと、他の連中は何やってんのかしらね? 好き勝手しちゃってさ』
『おいおい、おめーに言われたくはねぇだろうよ』
カドゥケウスとシャルティナがギャーギャー騒ぐが、マリアもライトも聞いていない。
ワイファ王国からヤシャ王国までは馬車で一月ほど。いくつかの町や村を経由して向かう予定だ。
現在、街道沿いを進み、森の中を走っている。
「ライト、マリア、旅をする仲間なら仲良くしなきゃ!」
「「仲間?」」
「ほら、相性はバッチリなんだからさ、キスしたことは……」
「おいリン、やめろ気持ち悪い」
「こちらのセリフですわ。この汚物が」
「はっ、女として終わってるお前のがよっぽど汚物じゃねぇか」
「男のくせに女を知らない坊やのがよっぽど情けないのではなくて? あなたの婚約者が勇者に寝取られたせいで不能になったのかしら?」
「……殺してやろうか、クソ女」
「命がいらないようですわね、不能男」
「もぉいい加減にしな
突如、馬車が揺れた。
「っ!?」
「なっ……」
「えっ!?」
何かが屋根の上にいる。
そして、馬車の屋根が破られ、得体の知れない剣がライトめがけて伸びてきた。
「っくぉ!?」
「ライトッ!!」
ライトは剣?を摑んで自分の体に刺さるのを食い止めるが、摑んだことによって制約の痛みが発生、顔を歪めつつ叫ぶ。
「馬車を止めろ!!」
「ど、どうどう、止まれっ!!」
マリアは素早く馬車から飛び降り、背に二本の『百足鱗』を出現させる。
馬車の屋根を見るが、襲撃してきた何かはいない。
「────────きれいだね」
「えっ」
そして、マリアは背後に何かいるのを察知。振り向こうとした瞬間、恐ろしい衝撃がマリアを襲い、そのままゴロゴロと地面を転がった。
「っぐ……な、なにが」
「バカ油断すんな!!」
「ッ!!」
マリアはライトの声に押され、反射的に百足鱗を蜷局に巻いて背中をガードする。すると、再び衝撃が走り、鱗がバラバラと砕けるのがわかった。
「────────きれい」
マリアはうつ伏せ状態から横に転がって仰向けになり、襲撃者の正体を見極めようとする。そして見た。
「あっちも、きれい」
襲撃者は、燃えるような赤い髪をしていた。
ボサボサで伸びっぱなしの赤髪は膝下まであり、身長は低く幼い少女に見えた。年齢も15歳くらいだろう。
服と言っていいのか、水着のビキニで胸を隠し、下半身は下着のような短パンを履いて、その上に分厚いコートを羽織っている。コートのボタンは留めていないので前が丸見えだ。
「なっ……なんですの、これ」
だが、真に驚くべきは、顔立ちや服装ではない。
目の前の赤い少女の四肢は、
「あなたも、あのひとも、あのこも、みんなきれいだね」
「え……」
少女の四肢は、金属でできていた。
ただの金属ではない。両手が巨大な『爪』のようなになっていた。
鋭利な漆黒の金属義手。そして金属義足。燃えるような赤い髪と瞳が、マリアを見てぐにゃりと歪む。
「きれいな手、きれいな足……
「ひっ……」
マリアは、目の前の少女に恐怖した。
この少女は普通じゃない。
ここで、ようやくライトが馬車から飛び出し、『異形の四肢を持つ赤い少女』に向けて発砲した。
「このやろぉぉぉぉっ!!」
「ん」
だが、弾丸は巨大な爪型義手によって軽く弾かれた。
赤い少女はライトに向き合い、両手の爪をガチャガチャさせて嗤う。
「あなたも、きれい…………【嫉妬】しちゃう」
「…………まさか、お前」
「ねぇ、おててちょうだい、あしをちょうだい?」
【嫉妬】の大罪神器を持つS級賞金首『四肢狩り』、シンクとの出会い──────。
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