第69話・海賊と海坊主②
ライトたちを乗せた商船は、順調に海の旅を続けていた。
三人は、潮風に当たり、看板で海を眺めながら作戦会議をする。
「いいか、殺す前にギフトを聞け。武装系は軒並みダメだ、肉体強化系や特殊系のギフトだったら俺に教えろ」
「……面倒くさいですわね。というか、なぜあなたが仕切っていますの? わたしがその命令に従う義理はありませんわ」
「ほぉ……お前、俺に借りがあるよな? 昨日の海で、素っ裸で」
「ッ⁉ ひ、卑怯な……っ‼」
「へ? なんのこと?」
「な、なんでもありませんわ‼ っく……わかりました、今回は命令を聞いてあげますわ」
「最初からそうしろ。ったく」
「っく……」
マリアは、リンにみっともない姿を見せたくないようだ。
まさか、海で泳いでいて水着が岩に引っかかって破け、全裸の状態でライトに助けられたなど、知られたくはない。
ライトとしては、マリアの裸に興味はない。今回のことで従わせるのはこれっきりにするつもりだった。いかに気に喰わなくても、約束は守る。
「私は……?」
「お前は後方支援。魔術で援護を頼む」
『きゅうん?』
「そいつはどこかに隠しておけ、そんなナリじゃ戦えないだろ」
「ん、マルシア、大人しくしててね」
『くぅぅん……』
リンは、マルシアをカバンの中に入れ、顔が出せるようにしておく。
ギフトのないリンは、刀による斬撃と水魔術しか戦う術がない。並の相手なら十分だが、賞金首相手では少し心許なかった。
「よし、来るかどうかは知らんが、気を引き締めておけ」
「……ふん」
「わかった」
いつの間にか、冒険者でもないライトが仕切っていた。
◇◇◇◇◇◇
看板で風に当たること二時間……。
マリアとリンは船室に行き、ライトは一人で看板にいた。
そして。
「…………カドゥケウス」
『ん?』
「どうやら、飯の時間みたいだ」
『ふーん。相棒、腹減ってんならさっさとメシ喰って来いよ』
「バーカ」
ライトはカドゥケウスを抜き、目の前に突き付ける。
そして、直後に大声が響いた。
「か、海賊船だぁーーーーーッ!! 海賊が来たぞぉぉぉぉーーーーーッ!!」
商船の前方数キロ先に、髑髏の描かれた青い帆の船が姿を見せた。
異常なまでの視力を持つライトは、見張りをしていた監視員より先に見えていた。そして、看板の船員たちが慌ただしく動き始め、リンとマリアはライトと合流する。
「来たぞ、稼ぎ時だ」
「準備はいい?」
「もちろんですわ」
一気に戦意を漲らせる3人と、ドタドタと慌てたようにライトたちの元へ走ってくるポルテ。
「ぶっへーっ、ぶっへーっ、ぶっへーっ……し、仕事だぞ冒険者! くっそ、なんとかしてくれぇぇぇっ!!」
「お、落ち着いてください。さっきも言いましたけど、私たちに任せて」
「頼む! この積み荷を奪われるわけにはいかんのじゃ! あぁ……こんなことなら船を出さなきゃよかったぁぁぁぁ……」
「「…………」」
ライトとマリアには、愚図るポルテが醜い豚のように見えた。涙と鼻水をダラダラ流しながらリンに縋り付き、さすがのリンも渋い笑顔だった。
「おい」
「ええ」
ライトはマリアに言うと、マリアはリンの背中に思いきり抱き着いた。リンの背中でマリアの胸が潰れ、マリアは恍惚の表情を浮かべる。
「はぁ~……リンの匂い♪」
「ちょ、マリア⁉」
「行くぞ。掴まってろ」
「え、ライト!?」
ライトは自分に『浮遊』の祝福弾を撃ち、リンの腕を掴んで浮かび上がる。
「へ? ふ、浮遊?……れ、レアギフト!?」
「ポルテさん、海賊は私たちに任せてくださーいっ!!」
ライトは思いきり上昇し、海賊に気取られないように雲に隠れて近づく。
マリアもリンも、空を飛ぶことに対する恐怖はないようだ。
「よし、作戦通りに行くぞ」
「うん!」
「ええ」
『きゃんっ!』
ライトは、海賊船めがけて急降下した。
◇◇◇◇◇◇
海賊船のど真ん中に着地したライトは、近くにあった木樽に左手を伸ばして摑む。
「なんだお前ら!!」
「装填」
周囲を見ると、ガラの悪そうな男たちが武器を持って興奮している。
スキンヘッドに上半身裸が多く、剣や斧を持っている。上空からいきなり現れたライトたちに動揺しているのか、武器を構えたまま近づいてこない。
「悪いな、船を襲うってんなら容赦しない」
「では、ダンスの時間ですわね」
「……行きます」
ライトは全弾発砲し、その全ての弾丸が海賊の頭部に命中。
マリアの背中から『百足鱗』が二本飛び出し、近くにいた海賊の腹を削る。
リンは刀を抜き、スイッチを入れるように目を細めた。
ライトの弾丸を喰らった海賊は即死、マリアの百足鱗を腹に喰らった海賊は内蔵が零れ落ちた。
そして、海賊たちは戦闘態勢に入る。
「こ、こいつら、やっちまえお前ら!!」
「「「「「おぉぉぉっ!!」」」」」
武器を持った海賊たちが、一斉に襲い掛かってきた。
◇◇◇◇◇◇
ライトは、迫りくる海賊たちの武器を躱しながら、近くにある物を弾丸にして発砲していた。
木樽や手すりを弾丸にして撃つと、木製の弾丸なのに頭部を綺麗に貫通する。
それに、海賊たちの練度も低く、騎士団で揉まれたライトからすると児戯に等しい剣術だった。
ライトは気付いていない。海賊たちは戦士系のギフトの持ち主で、決して練度は低くないということ。ギフトなしで騎士たちと渡り合ったライトの身体能力が高いということに。
「……強化はいらないな。それにクイックシルバーも必要ない、か」
「うおりゃぁぁっ!! っへぶっ!?」
海賊の剣を躱し、足を引っかけて転ばせ頭部に一発。
そして、今更ながら気が付いた。
「……やっべ、ギフトを聞いてなかった」
ギフトがわからないと、弾丸を作るときに酷い痛みが生じる。
戦士系ギフトは大抵が武器に関する能力だ。『剣士』や『槍士』、『短剣士』や『斧士』など、殆どが刃物に関係している。
以前、盗賊を祝福弾にしたときの痛みは味わいたくない。
「……まぁ、一人残せばいいか」
大ぶりの斧を躱し、隙だらけのところを頭部に一発。実に単純な作業だった。
「船長おぉぉっ!? くっそてめえぇぇぇっ!!」
「え? こいつが船長なのか?」
確かに、船長っぽい服装に帽子だ。だが、ライトはあっさり殺してしまった。
さて、どうするかと悩む。
降伏すれば命は見逃すと言ってみようか……と、ライトは考えた、が。
「ほぉぅ……なかなかの使い手じゃな」
「あ?」
「う、海坊主さんっ!!」
「海坊主? ああ、確かに海坊主っぽいな」
ライトはカドゥケウスを海坊主に向ける。
二メートル近い身長、上半身裸に鍛えられた身体、手には巨大な薙刀、剃り上げられた頭部に鬚もじゃの男がいた。
「船長が死んだ。なら、今日からワシがこの船の船長じゃ!! 異論はないなお前ら!!」
「「「「「うおぉぉぉぉっ!!」」」」」
海坊主の叫びに、海賊たちは咆哮を上げる。
隙だらけだったので、ライトは海坊主の頭めがけて発砲する……が。
「ん~……痒いのぉ」
「……弾丸を弾いた?」
海坊主の頭部に当たったはずの木製の弾丸が砕け散った。
すると、海坊主の身体中の血管が膨れ、身体中が赤くなっていく。
「くっくく、女神様のくれた《
「マッスル……肉体変化系か。欲しいな、そのギフト」
ライトは不敵にほほ笑み、カドゥケウスを海坊主に向けた。
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