第65話・勇者レイジの復活


「う、っぐ……ぁ」

「レイジ!」「レイジ!」「レイジ様!」

「ぁ…………ぁれ?」


 明滅する視界。自分をのぞき込む3つの顔……。

 勇者レイジは、ぼんやりする頭を押さえながら起きた。どうやら祭壇のような場所に寝かせられているようだ……裸で。


「おはようございます、勇者レイジ」

「フリアエ様……あれ、ここは?」

「…………ゆっくり、思い出してごらんなさい」

「…………」


 レイジは、ゆっくり記憶を遡る。

 セエレと一緒にファーレン王国を出て、常夏のワイファ王国に向かった。目的は海で泳ぐことで、セエレと二人きりでバカンスを楽しもうと。

 その前に、簡単な仕事を終わらせ…………………。




「────────セ、エレ」




 全て、思い出した。

 セエレは、木っ端微塵になった。

 レイジの前で、銃を構えた悪魔が、セエレを殺し────────。


「あ、あぁ……あぁぁぁぁぁっ!! セエレ、セエレはっ……フリアエ様、セエレはっ!!」

「……………」


 祭壇から飛び降りたレイジは、掴み掛かる勢いでフリアエに詰め寄った。

 女神フリアエは……ゆっくりと首を振った。


「そ、んな……うそ、うそだよな? セエレは生き返る。お、オレだって、オレだって、死んだはず、なんだ。でも生きてる、生きてるんだ!! なぁ女神様よぉ!! セエレは生き返るんだろ、なぁ!?」

「…………」


 レイジは、ついにフリアエの胸倉を掴んだ。

 とんでもない無礼な行為だがフリアエは咎めない。それに、レイジの力はあまりにも弱々しかった。

 

「…………っくぁ」


 レイジはフリアエの胸倉から手を離し、振り返る。

 振り返った先には、アルシェとアンジェラ、そしてリリカが……泣き腫らした目でレイジを見つめていた。

 きっと、レイジが起きる前に真実を聞き、悲しんでいたのだろう。


「肉体が一部でも残っていれば蘇生は可能ですが……【暴食】の少年はセエレの全てを喰い尽くしました。肉も魂も、完全に消滅しました」


 完全な消滅。

 セエレという少女が復活することは、もうない。


「ち、く……しょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 レイジは叫び、リリカは拳を握り、アンジェラはアルシェに抱きついて泣いた。

 そして、聖剣勇者たちは1つの答えに辿り着く。


「ライト、あのクッソ野郎……絶対に許さねぇ」

「……セエレの仇を討つ、そうだよねレイジ」

「当たり前だッ!! あの野郎、肉片1つこの世に残さねぇ!! 絶対に、絶対に殺してやる!!」

「私もやる……返す借りが増えた、セエレのために……殺してやる」


 レイジは、愛する三人の少女達に言った。


「もう一度、旅に出る。新しい『魔刃王まじんおう』……いや、『魔銃王まじゅうおう』の討伐だ!! 聖剣勇者たち、行けるな!!」

「私は行く。この『鬼太刀』の真の力、そして……新しいギフトと共に!」

「私も参ります。この『壊刃』、まだ役目は終わっていません」

「わ、わたくしもです! 『斬滅』の力を完全には引き出せませんが……一緒に戦います!」


 勇者レイジと、三人の少女の、新たな旅が始まろうとしていた。

 そして、女神フリアエは告げる。


「レイジ、リリカ、アルシェ、アンジェラ……私が進むべき道を照らしましょう」

「「「「はいっ!」」」」


 レイジたちは、フリアエの前に並んで返事をする。

 女神の言う事を微塵も疑わず、決意の眼をしていた。




「勇者たちよ。まずは北。極寒のフィヨルド王国へ向かいなさい。そこで力を付けるのです」




 フリアエは、ライトたちがいる場所・・・・・・・・・・から反対方向へ向かう・・・・・・・・・・ように告げた・・・・・・




 何故、とは誰も聞かなかった。

 フリアエの言葉は続く。


「北の地にいる『愛の女神リリティア』が、あなたたちに新たな力を授けるでしょう」

「あ、愛の女神……ですか?」

「ええ。女神は私だけではありません。人々の信仰心が集まったおかげで、人間界に来ることができるようになったのです」

「じゃあ、愛の女神様が、私たちに……?」

「はい。奇跡を授けるでしょう」


 行き先は決まった。

 北。極寒のフィヨルド王国。

 愛の女神リリティアから、新しい力を授かるために向かう。

 ここで、リリカは赤面しながら言った。


「れ、レイジ。その、服を着ないと」

「ん……ああ」


 レイジは、素っ裸のままだった。

 だが、そんなことを気にすうる余裕はないし、むしろ今は好都合だ。


「いや、丁度いい。お前ら全員寝室に来い。セエレの分まで可愛がってやる」

「……うん」

「……はい」

「……ええ」

「セエレの死は忘れない。いいか……セエレは、オレたちとずっと一緒だ」


 フリアエに一礼し、四人は去って行った。





「…………ふふっ」





 祝福の女神フリアエは怪しく微笑んだ。

 その胸の内を知る者は、誰もいない。



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