第33話、ドラゴン討伐作戦
リンに当てた弾丸は『強化』の力。
強化とは、全てを強化する。身体能力はもちろん、魔力や魔術も強化される。
この戦闘では、俺はサポートに回る。
「さぁ、行くよライト!!」
「ああ、ぶちかませ!!」
リンはドラゴンに向かって特攻。とんでもない速さで大地を駆け、持っていた剣でドラゴンの足を斬り付け……。
「……チッ!!」
剣は粉々に砕け散った。
ドラゴンの外皮に傷一つ付けられず、牽制にすらなっていない。
『グァァァァァァァッ!!』
ドラゴンは、リンを捉えていない。
俺は遠距離からカドゥケウスを構えた……狙いは、あそこだ。
「見える……」
『ケケケッ、硬いところが効かねえんなら、柔っこいところだ』
リンに気を取られているので、俺が狙ってることも気が付いていない。
というか、この取っ手付きの棒から何かが発射されるだなんて思っていないだろ?
「喰らえっ!!」
発射。
弾丸は、俺の狙った通りの場所に着弾。鮮血が飛ぶ。
『ギュォォォォォォォォォォンンンッ!?』
そう、狙いは眼。
外皮が硬く弱点の腹が隠れているなら、それ以外の急所を狙えばいい。
さすがに、眼だけはガッチガチの鱗に守られていない。俺の視力でよく見えるし、狙えば簡単に射抜けた。俺が凄いのか、カドゥケウスが凄いのか……。
「リン!!」
「了解!! リズ・ピラー!!」
『ギャオォォッ!?』
リンが作りだした氷の円柱がドラゴンの真下から突き出した。
放った張本人のリンが驚いてる。そりゃそうだ、強化の祝福弾の力で、魔力も魔術の規模も強化されてるからな。ドラゴンの巨体を持ち上げるくらいの氷柱くらい出せる。
「ライト!!」
「おうっ!! カドゥケウス、重量変化、硬化!!」
『あいよっ!!』
ドラゴンには翼がある。そもそも、こいつは空を飛んできたんだろう。
眼が潰されようと翼は無傷、身体が浮き上がる衝撃で宙を舞ったことくらいわかるだろう、空を飛んで回避しようとするはず。
だから、そうはさせないんだなこりゃ。
「リン、頼む!!」
「了解!! リズ・ギムレット!!」
リンはドラゴンの真下に巨大な氷の円錐を生み出した。
俺は空を舞うドラゴンに向かい、重量変化の祝福弾を喰らわせる。
『ッグァァッ!?』
「っしゃ!! どうよ、いきなり翼が重くなった感覚は?」
「ライト、最後!!」
「ああ、わかってる……硬化!!」
そして、氷の円錐を硬化で硬める。
重量が増したドラゴンは羽を動かすことが出来ず、硬化で強化した巨大円錐の真下に、腹から激突。大量の血飛沫で円錐が真っ赤に染まり、口から血を吐き出してドラゴンは動かなくなった。
「……か、勝った?」
「ああ、俺たちの勝利だ」
「や、やったぁぁっ!!」
「へへっ」
俺とリンはハイタッチし、それぞれを労った。
『どうよ、オレの作戦は。互いの特性を最大限に
「つまんねーよバカ。まぁ、とりあえず感謝しておく」
「ありがとね、カドゥケウス」
『相棒はともかく、嬢ちゃんはいい動きだったぜ。身体強化魔術だな?』
「ええ。私は勇者パーティでも非力だったから、少しでも身体を強くして戦ってたの」
「ヘェ……それ、俺も使えるかな?」
「訓練さえ積めばできるよ。私が教えてあげようか?」
「ああ、使えそうだ。頼む」
「うん!」
リンの剣、折れてしまった……。
町で新しいのを買わないと。というか、リンの装備を整えないとな。
すると、ボロボロの鎧を着た騎士の男性1人がこっちに来た。
「あー、キミ達」
「ん?……あ、もしかしてワイファ王国の」
「ああ、我々はワイファ王国騎士団だ。この近辺にドラゴンが出現したと聞いて来たがこのザマだ。キミ達がいなかったら全滅していたかもしれない……感謝する」
騎士の隊長らしき男性が、俺とリンに深々と頭を下げた。
よかった。騎士ってだけで高圧的な態度を取るやつもいるからな。この人は礼節をわきまえてそうだ。
すると、リンが思い出したように言う。
「あ、そうだ。怪我人は?」
「今、負傷者の手当てをしている。増援部隊が間もなく到着する予定だ」
「それなら、私も手伝います。回復魔術が使えますので、重傷者を診せてください!」
「な、なんと!? その若さで回復魔術を!? それはありがたい、さっそく頼む!」
騎士さんと一緒に、負傷者の元へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
リンは、重傷者から回復魔術を使って治療を続けた。
驚いたのは、リンの魔力量だ。
「リン、お前……疲れないのか?」
「ん? 別に?」
「いや、でも、あれだけ大規模な魔術を連発して、魔力を喰う回復魔術を連続して使ってるんだぞ? 上級魔術師だってぶっ倒れるぞ」
「ああ、私ね、魔力量だけならレイジより上だから」
「…………」
勇者ってやつは、改めて恐ろしいと実感したよ。
でも、おかげで怪我人は殆ど回復した。
そして、増援部隊と一緒に別の作業が待っている。
「あのドラゴンはキミ達の物だ。助けてくれた礼と言うわけではないが、騎士団で買い取らせてくれないか? 相場の5倍の値段で買おう」
「…………ご、ごば」
騎士さんは、彫りの深い笑みを浮かべていた。
ドラゴンの素材は稀少だ。この外皮や鱗は強靱な鎧になるし、牙は鍛えれば名剣になる。内臓や血は薬になるし……捨てるところがない。まぁ血は殆ど流れちゃったけど。
すると、リンが言う。
「あの、牙一本と鱗一枚だけください。あとは買い取りでお願いします」
「わかった。増援部隊にドラゴンを運ばせるから、キミ達はこの先の町で待っていてくれ」
「わかりました」
騎士さんは、紋章の刻まれた手形を俺に渡す。
「これはワイファ王国の発行した通行手形だ。王家の紋章が刻まれているから、王国領土内ならどこへでも最優先で入る事が出来る。それと、これは私からの気持ちだ。これでいい宿に泊まって待っていてくれ。到着次第、迎えを出す」
騎士さんは、ジャラッといい音のする袋を渡す。中身は金貨……50枚はある。
「私はワイファ王国騎士団第二部隊長ハワード。また会おう」
そう言って、俺たちが何かを言う前に隊員の元へ向かった。
おいおい、こんなに大量の金貨受け取れないぞ……。
「……もらっておきましょう。正当な報酬だと思えばいいわ」
「そうだな……よし、町に向かおう。疲れてないか?」
「うん、平気。それより、ドラゴンの報酬も入るし、武器の素材も手に入れたし、町に到着したらグレードの高い宿に泊まりましょうよ! 久しぶりに広いお風呂入りたいわ」
「あのな……まぁ、いいか」
俺とリンは、自分たちの馬車に乗り込み出発する。
騎士たちは後始末……仲間の死体処理をしている。
『あーあ、喰いたかったぜ』
「うるさい」
カドゥケウスを黙らせ、この先の町に向かった。
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