第28話・大罪神器【暴食】カドゥケウス・グラトニー
「喰い殺す……私を?」
「……」
ライトは、左腕に力が満ちるのを感じた。
ボコボコと脈動する腕は、自由自在に動かせる。そして、近くの岩に向けて手を伸ばすと、まるでゴムのように伸びた。
そのまま岩を掴むと、クッキーのように岩が砕ける。
「装填」
『まっずい岩だねぇ……』
岩を喰って弾丸に変換。そのまま引き金を引くと尖った岩の弾丸が発射される。
だが、リリカは弾丸を容易く鬼太刀で受けた。
「ふぅ~ん、私に負けた負け犬ライトが、私に挑むのね?」
「俺に顔面を潰されたリリカ、今度はその顔、治らないくらいグッチャグチャにして殺してやるよ」
「うっっふふふ、こんな粒を飛ばすのがライトのギフトね……城で見た時は驚いたけど、冷静に見れば大したことないわ」
「そうやって油断してろ。まぁお前の死は変わらないけどな」
すると、リリカはバカみたいに高笑いした。
「ねぇライト、魔刃王討伐の話、リンから聞いた?」
「…………」
「あのね、魔刃王には強い側近が何人かいたの。その1人……名前は忘れたけど、すっごい力持ちで、家一軒持ち上げちゃうような怪物がいたのよ。さて問題、そいつをどうやって倒したでしょう?」
「…………」
ライトは沈黙……つまり、わからない。
魔刃王討伐の話や、側近を撃破したという情報は伝わっていたが、細かい内容まではわからない。
「答え、私が倒しました……『鬼太刀』の真の能力を使ってね」
そして、リンは鬼太刀を構えてニヤリと嗤った。
「震えろ────────
すると、鬼太刀が巨大化し、リリカの姿も変わる。
筋骨隆々になり、頭には二本の長いツノが生え、口には牙も生えた。
鬼太刀は2メートルを越える大太刀になり、身長が2メートルを越えたリリカはその剣を軽々と掴み持ち上げる。
「鬼化……これが鬼太刀の真の力。ふふ、レイジの前でも見せたことないの。光栄に思いなさいな」
「…………ぶっさいくな姿だな。吐き気するわ」
「…………死の覚悟は出来たようね」
ライトは、全く恐怖を感じていなかった。
カドゥケウスを握ると恐怖が消えていく。まるで、勇気が流れているかのように。
「さぁ……死にやがれライトぉぉぉぉぉぉーーーっ!!」
「…………」
ライトは、岩の弾丸を連射したが、鬼リリカの皮膚に傷一つ付けられなかった。
迫り来るリリカの大太刀を躱すため、鬼リリカの動きをよく見る。
「……見える」
リリカの動きがよく読めた。
身体能力は変わっていないが、それも問題ない。
「カドゥケウス、『強化』だ」
『おう、任せろ』
ライトは、自分の頭に銃口をくっつけ、そのまま引き金を引く。すると『強化』の弾丸が発射され、ライトの身体能力が強化された。
母のギフトが、ライトの力になる。
本来の使い方ではないし、単発のギフトはオリジナルの劣化版。身体能力の強化は劇的なものではないが、騎士として鍛えた下地があるライトの強化は、僅かな強化でも変わる。
「オォォォッ!!」
巨大化した鬼太刀を振るリリカの攻撃を、紙一重で躱す。
最初は見えなかったが、今ではよく見えた。頭のモヤが晴れ、戦うことに集中できるからだろうか。
「このっ!!」
「見える」
ライトは、巨大化したことで大振りになった瞬間を狙い、懐に潜り込んだ。そして、ガラ空きの腹にカドゥケウスを乱射する。
「ん······!?」
「痛い、うぅん······痒いわねぇ?」
弾は、リリカの腹筋によって止められた。
僅かな血が流れているが、貫通まではしていない。
「鬼をナメんなぁぁぁぁぁっ!!」
「チッ!!」
ライトは素手で殴ろうとするリリカの拳をギリギリ躱し、距離を取る。
「おい、効かねーぞ」
『しょうがねぇだろ? あのブサイクなバケモンの防御力が、『石弾』の威力を上回ってんだ』
「じゃあ······『祝福弾』を使う」
『ケケケっ、戦い方をわかってきたじゃねえか、相棒』
ライトはポケットにある祝福弾を取り出す。
「父さん、レグルス、ウィネ······力を貸してくれ」
『重量変化』、『硬化』、『液状化』装填。
「ふふ、万策尽きた感じかしらぁ?」
「いや······お前を殺す算段が付いた。ケリをつけるぞ」
「いいわぁ······来なさいよ!!」
醜悪な鬼のリリカは、鬼太刀を振り回しながらライトに迫る。
対してライトはひどく落ち着き、リリカの太刀を眺めていた。
「······やっぱり、見える」
今までは見えなかったが、よく見える。
ライトは気付いていなかったが、ライトの右目は真紅に染まっていた。右目だけ異常なまでに視力が向上していたのである。
「オォォォウッ!! シャァァァッ!!」
「···········」
そして、ライトを一刀両断しようと振り下ろされた鬼太刀をギリギリで回避し、鬼太刀に向けて発砲した。
弾丸は鬼太刀を傷付けることなく、地面を大きく割る。
「バカが!! そんなちっぽけなモンでこの鬼太刀を傷付けることなんてできるかっ!!」
そう言って、剣を持ち上げ────────。
「────────!?」
リリカは、鬼太刀を持ち上げることができなかった。
剣に当たった重量変化の弾丸により、鬼太刀の重量を変化させたのだ。
「重量変化、そして硬化」
剣に気を取られたスキに、腹に一発弾丸をもらう。
「はっ、そんなの効か────────!?」
リリカの身体が硬直して動かなかった。
「レグルスは、初めてギフトを発動させたとき、身体が硬直して二日ほど動けなかったらしい。こいつは劣化版だから二日とはいかないと思うけど······お前を殺すには十分だ」
「な、な、な······うご、か」
「まずは、腕をもらうか」
ライトはリリカの利き腕に向けて発泡。すると、リリカの右腕が肩からドロリと溶けてなくなった。
「液状化。ああ、こいつはウィネのギフトだ。これで剣は握れない」
「う、うで!? 私の腕、腕ぇぇぇっ!?」
「黙れ糞溜が」
ライトは、強化された拳でリリカの顔面をぶん殴る。硬化した顔は硬かったが、ライトの力でも傷付けることはできた。
「覚悟しろリリカ······テメェは生きたまま内臓引きずりだして殺るからな」
リリカの顔が青くなった。
◇◇◇◇◇◇
リリカは鬼化を解き、ライトを怒鳴る。
「わかってるの!? 私を殺したらレイジが黙ってないわ!! もう終わりよ!! あんたは指名手配されてる、逃げ場はない、勇者レイジを敵に回しぶっげぁ!?」
「やかましい口だなぁ·····少し、黙ろうか?」
ライトはリリカの顎を力任せに開け(骨が外れた)、その口の中に全力で拳を叩き込む。
リリカの歯は殆ど砕け、喋ることすらままならなくなる。
「はふぁ、ひふぇ!?」
「はぁ、はぁ······」
ライトは、今までされた苦痛を思い出す。
父と母、二人の親友が血に濡れた光景を思い出し、両手が震えた。
涙を浮かべてライトを睨むリリカ。
もう、我慢できなかった。
「り、リか······りぃぃぃリカァァァーーーーーっ!!!!」
「こっぶぇ!?」
ライトは、リリカを全力で殴った。
硬化の効力が切れ、リリカの顔面は再び陥没。鼻が千切れドロドロした血が流れた。
「お前が、お前が、お前が、お前がァァァーーーーーっ!!!」
馬乗りになり、顔面を殴りまくる。
最初はバタバタ暴れていたが、次第にビクビクと痙攣していた。
それでも、ライトは止まらなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ······」
真っ赤に染まった両手を見て、ライトはようやく止まる。
腫れ上がり、原型を留めない顔を見ても、全く気が晴れないのは何故だろうか。
カドゥケウスを持って立ち上がり、銃口をリリカへ向けた。
『一つ言っておくぜ相棒。こいつのギフトは剣、オレが喰って弾丸にしても、相棒には使えない』
「冗談言うな、こんな糞屑喰うわけねぇだろ!! 殺して内臓引きずり出して魔獣の餌にしてやる!!」
『おーこわ······まぁ相棒は正義の味方ってわけじゃねぇし、好きにすればいいさ』
痙攣するだけの醜い肉の塊に銃口を向け、ライトは言った。
「この世から失せろ、ゴミクズが」
脳天目掛けて弾丸が発射され────────。
「雷刃!!」
セエレの刃によって、弾丸はあっさり叩き落とされた。
◇◇◇◇◇◇
「まさか、ここまでやるとはな、ライト」
「セエレ·······ッッッッッッ!!!」
怨嗟に満ちた瞳を向けると、セエレは息を吐く。
「ライトが私たちを憎む理由はよくわかる。でも、ここでリリカを死なせるわけにはいかない」
「安心しろ、お前も殺してやるからよ!!」
「······今はやめといた方がいい。疲弊したライトじゃ私に勝てない、それに今はリリカを治療しなくちゃいけないからここまで」
「んだと······っ!!」
セエレは、バチバチと放電して土煙を巻き上げ、放電から逃れるためにライトは距離を取る。
「さよならライト。私たちを狙うのはいいけど、女神様の天罰に触れないようにね」
土煙が晴れた場所には、何も残っていなかった。
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