第21話・リンとの会話

『おい、起きろよ』


 …………ん?


『ったく、寝すぎだぜ兄弟。お嬢ちゃんが苦労してるぜ』


 誰だ……。


『おいおい、オレを忘れたのかよ? 兄弟に力くれたありがた~い存在をよ』


 ちから……そうだ、勇者レイジを。リリカを、セエレを……父さんと親友を殺したクソどもを。


『生きてるぜ。まぁ、覚醒したばかりのヤワな一発で死ぬような奴じゃねぇ。それに、今の勇者は女神のバックアップもある。ラルシド……ああ、魔刃王だっけ? あいつが戦ったころとは別格だろうさ』


 ちくしょう……俺は、死んだのか。


『アホ。起きろっつたろうが。おめーは気ぃ失って倒れたんだよ。それを黒髪の嬢ちゃんが必死こいて運んでるんだろうが』


 黒髪?……ああ、リンか。


『とにかく起きろ。てめーの足で歩けよ兄弟。そんで、オレと楽しいお話でもしようぜ』


 ……つーか、誰だお前?


『ああ、名乗ってなかったな』


 …………。


『オレは【暴食】の大罪神器タイザイシンキ、天の女神の宿敵にして地の魔神最強の一柱。その名も『カドゥケウス・グラトニー』だ。よろしくな、兄弟』


 …………。


『さ、起きろよ。楽しい現実の時間だ』


 ◇◇◇◇◇◇


「はぁ……はぁ……っく」

「ん……」


 身体が、ゆさゆさと揺れていた。

 いい匂いがする……甘いような、花のような香り。なぜかさらさらと頬に触れるのは……ああ、これは髪の毛だ。

 そうか、俺……リンに背負われてる。


「う……り、リン?」

「ライトさん……よかった、起きたんですね」

「ああ、悪い。降ろしてくれ」

「はい……」


 リンは、俺を地面に降ろした。

 というかここ、どこだ?


「ここは?」

「たぶん、ファーレン王国郊外の森だと思います。城から抜け出すだけで精一杯で……」

「城……そうだ、勇者は!!」

「お、落ち着いてください。レイジは……勇者たちは城にいるはずです。たぶん、女神と一緒に」

「女神……あの羽の生えた女か」

「ええ。話したいことが山ほどありますけど、まずはファーレン王国の領外に出ましょう。あれだけ大騒ぎしたんです、追手が来ないとも限りませんし、たぶん……ライトさん、ううん、私とライトさんはファーレン王国に指名手配されていると思います」

「なっ……くそ、王国にはまだ母さんが」

「駄目です!! 今戻ったら今度こそ逃げられません!!」

「知ったことかよ!! 父さんが殺された!! レグルスとウィネも殺された!! あのクソ勇者ども全員ぶっ潰してやる!!」

「落ち着いてください!! お願いします、今は耐えて……」

「耐えるだと? ふざけんな、リリカとセエレは母さんのことを知ってる、このままだと母さんは殺される!!」

「ですから、それが狙いかもしれないんです!! 今やレイジはこの国の王なんです。そのレイジの妻であるリリカを滅多打ちにしたんですよ!? 絶対にあなたを追ってくる!!」

「だったら迎え撃つまでだ……!! リリカだろうとセエレだろうと、勇者レイジだろうと、俺はあいつらを殺す!! いいか、お前の同郷だろうと勇者レイジは許さねぇ!! あいつだけは内蔵引きずり出して殺してやるからな!!」

「……ライトさんの怒りはわかります。私だってギフトを失って、戦う力も止める力もありません。でも……今は耐えてください。私だってレイジのバカを許せません、でも、一国の王になったレイジに、無策で挑むのだけはやめてください!! ……お願い」

「…………」


 俺は、勇者レイジとその仲間が許せなかった。

 内臓引きずり出して殺してやりたかった。

 でも、一人で向かうのは確かに無謀……リンも力を失ったとか言ってるし、役に立たない。


「…………わかったよ」

「よかった……じゃあ、ここから離れましょう」

「…………」


 よし、適当な場所で撒くか。


 ◇◇◇◇◇◇


 ファーレン王国郊外の森は薄暗く、正確な時間がわからない。

 こんな時にあれだが……腹減った。


「確か、国境までは数日の距離ですね……どこかで馬を借りれば」

「どこに行くつもりだ? というかお前、なんで俺を助けた」

「なんでって……なんでだろう? 自然と身体が動いちゃって」

「…………バカか」

「し、仕方ないでしょう! それに、ギフトを没収された時点でもう私の価値はなくなりました。あのまま城に残っても追い出されるだろうし、レイジの奴が王になった今、どんな扱いを受けるか……」

「だから、俺を助けた?」

「……ええと、あのですね、私のいた世界では、レイジみたいな奴が王様になっても碌なことにならないんです。それに女神ときて、私もギフトを没収されて……あの国は地雷です」

「ふーん」

「それと、ライトさんみたいに、土壇場で覚醒!! するような人は、きっと何かを成し遂げるような人です。だからライトさんを助けたんです」

「何かを成し遂げる……そうか、復讐だな」

「……レイジの奴は、もうダメでしょうね」

「どうでもいい。あいつは殺す」


 それっきり、リンは無言だった。

 森を歩くこと数時間、川を見つけた。


「あ、見て下さい。果物が生ってます。あれは……リンコですね」

「そうみたいだな……腹減った」

「じゃあ、採って食べましょう」


 川岸になるリンコをいくつか収穫し、川で洗ってかぶりつく。

 瑞々しく甘酸っぱい味が口に広がり、空腹も相まって手が止まらない。

 リンもリンコを1つ完食した。


「はぁ……旅の荷物、ぜんぶ城に置きっぱなしでした。今あるのは……小銭入れと……あ、レイジの奴からもらった宝石か。換金すればお金になるかな」

「…………」

「ええと、ライトさんの服や装備を整えないと。私も丸腰だと不安だし、剣を買いましょう」

「ああ……」


 よくしゃべるやつだ……めんどくせぇ。

 でも、丸腰と言うのは当たってる。どこかで剣を調達しないと────────。






『つれないねぇ……どうせならオレを使ってくれよ、兄弟』






 どこからか、そんな声が聞こえてきた。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺とリンは周囲を警戒する。

 さすがというか、リンは勇者パーティーだけのことはある。一瞬で目つきが変わり、落ちていた棒を摑んで立ち上がった。


「誰!!」

『おいおい、ここだよここ。足下』

「え……?」

「あぁ?」


 すると、足下に……取っ手の付いた黒い筒が落ちていた。

 こんなの、ここになかった。どういうことだ。

 それにこの声……どこかで。


「なにこれ、黒い……拳銃?」

「ケンジュウ? なんだそれ」

「ええと、引き金を引いて弾を発射する武器です。弓の超進化系みたいな武器ですね」

「チョウ、シンカ?」

「あー……その、とにかく! 弾を発射する筒です!!」

「お、おう……それで、なんだこれは?」


 リンは、棒切れで黒い筒をツンツンする。


『くっすぐってぇな、やめろっての』

「え……」


 声は、この筒から聞こえてきた。


『兄弟、さっき言っただろ? 外でお喋りしようぜって』

「……この声、夢で聞いた声!!」

『はっはぁ、思い出したか。じゃあ、さっそくお話でもしようか。たぶん、オレはお前たちの疑問に全て答えられるぜ』


 たかが筒のくせに、偉そうなやつ。

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