第16話・祝福の女神フリアエ

 魔刃王討伐。

 それは、この地に生きる者達にとって最高の朗報だった。


 突如として現れた魔なる侵略者。異界の言葉を喋り、人間たちを滅ぼすために存在する悪しき王。

 その身体は鋼のように硬く、刃のような鋭さを持つ腕、鉄の仮面を被ったような顔をしている。本当の名前は不明だが、いつしか人々から《魔刃王》と呼ばれるようになっていた。


 魔刃王は、配下を伴い地上に現れ、凄惨な非道を尽くした。

 そこに現れたのが《聖剣勇者》であり、祝福の女神によって《ギフト》を授けられし5人の英雄である。

 人間を守るため、人間に力を与えたのである。


 祝福の女神は、人間に《ギフト》を授けた。

 人間は、《ギフト》を授けてくれた女神に感謝し、信仰した。

 この地に生きる者は、誰もが《ギフト》を授かる。人間は女神の子であり、祝福の対象であるからだ。


 その中でも特別な《ギフト》は5つ。

 《聖剣勇者》、《鬼太刀》、《雷切》、《斬滅》《壊刃》。これらは魔刃王を倒すため、悪しき者を討つための力であり、絶対的な《ギフト》。これらに選ばれた人間は勇者と呼ばれた。

 これらは全て剣であり、特殊な能力を備えた伝説の《ギフト》である。


 そして今。

 この伝説の《ギフト》を所有する1人の少年が、ファーレン王国の新たな王として君臨しようとしていた。

 

 ファーレン王城のテラスの上で、正装した少年が国民に手を振っていた。


「やーやーどうも、どうも!! あははははっ!!」


 バンザイし、ガッツポーズし、幸せ丸出しで国民に応える新たな王レイジ・クジョウ。そして、彼に寄り添う4人の美少女。女神の《ギフト》に選ばれた4人の少女の内3人とこの国の王女、この度レイジと結婚した少女たちだ。

 リリカ、セエレ、アルシェ、そしてこの国の新たな王妃であるアンジェラ……美しきドレスを着た少女達もまた、国民に応えていた。


「やっほーっ!!」

「リリカ、やっほーはないだろう……?」

「いいじゃんセエレ、ほらほら、アルシェも手を振って!!」

「ふふ、リリカさんご機嫌です。ねぇアンジェラ様」

「そうね。とっても幸せだわ」


 歓声に応える4人も、しあわせいっぱいだ。

 テラスの下では、王国騎士団がビシッと整列し、新たな国王の門出を祝福している。

 だが……全てが全て、祝福しているワケではない。


「……チッ」

「レグルス……」

「わーってるよ……にしても、悪趣味すぎるぜ」


 その中の2人。ライトの親友であるレグルスとウィネも、祝福をしていなかった。

 ライトの幼馴染みであり、ライトが騎士を目指す切っ掛けとなった経緯を知っている。一緒に旅をしていたなら心変わりだってあるのは仕方ない……だが、ライトにした仕打ちだけは許せなかった。

 

 それに何より……王城のてっぺんにある物体が、この祝福の中であまりにも場違いだった。


 城の最も高い場所に、大きな十字架が立てられている。

 そこには……魔刃王の死体が括り付けられていた。


「ギフトをくれた祝福の女神を召喚か……」

「うん、《聖剣勇者》にしかできない秘法らしいけど」


 レグルスとウィネは、ボソボソと話す。

 国民の喧噪で殆ど聞こえないが、唇の動きで意味は理解出来た。

 

 レイジは、拡声魔術で国民に挨拶した。


『みんな、この国はオレが守る!! これからよろしくお願いします!!』


 少年らしい声、厳格さや威厳は感じられない。

 でも、聖剣勇者だ。彼が守ると言ったら守るのだろう。

 魔刃王を討伐した勇者なら安泰。国民は歓声で応えた。


『オレたちを苦しめた魔刃王、あいつは強かった。でも、仲間がいたから倒せた。女神様がくれた《ギフト》があったから、勝つことができた!! だから今日は、祝福の女神様に感謝を伝えたい!! 国民のみんなも普段から使ってる《ギフト》をくれた女神様を、ここに召喚する!!』


 ついに、その時がきた。


 ◇◇◇◇◇◇


『天にまします我らの女神よ。願わく御名をあがめさせたまえ』


 聖剣勇者レイジの詠唱が始まった。

 同時に、晒された魔刃王の亡骸が無数の魔法陣によって包囲される。


『祝福の女神フリアエよ。どうか我らに祝福を与え給え』


 純白の魔法陣はどこまでも神々しい。

 リリカも、セエレも、アルシェも、アンジェラも、レグルスも、ウィネも、騎士たちも、国民も、詠唱中のレイジでさえも、その美しさに魅入ってしまう。


『悪しき魔刃王の身はここに、美しき女神フリアエは天に』


 魔刃王の拘束が外れ、亡骸は天へ登る。

 まるで、天の女神に救いを求める憐れな亡者に見えた。


『女神よ、我らの声が聞こえたならここへ。貴女の望みを果たした聖剣勇者の声に応えておくれ』


 レイジの声は祈り。

 ギフトという祝福を授けた女神に会いたいという願い。

 魔刃王という人の敵を倒したという成果を知ってほしいという思い。


『祝福の女神フリアエよ、ここに顕現せよ!!』


 そして、魔刃王の身体が光となり───────。





「───────ダメだ!!」





 地下牢で、ライトの叫びが轟いた。

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