第10話・ギフトの燐片
騎士選抜試験。レグルスとウィネは順調に勝ち上がっている。
俺は第一グループの決勝で、出番までまだまだある。
「はぁ………」
緊張はマックスだ。だって負ければ終わり、勝てば騎士になれるようなもんだ。
前日の筆記試験と礼儀作法は上手くいった。あとはこのトーナメント戦で勝てばいいだけ。
騎士候補生は一期生で選ばれることは殆どない。それに、この試験で10回目……つまり、俺たちより10歳も年上の騎士候補生もいる。そんな人たちは当然勝ち上がるし、俺が当たっても勝てるかどうかわからない。
でも、騎士になるためには乗り越えなくちゃいけない壁だ。
「勝つ……絶対に」
俺は自分に言い聞かせる。何度でも。
**********************
試合は順調に進む。
全てのグループが決勝戦まで終わった。後は1戦ずつ騎士候補生全員の前で戦う事になる。
レグルスとウィネは決勝まで勝ち上がり、相手は騎士候補生5年のベテランだった。
休憩を挟み、試合まであと少し。俺たち3人は集まっていた。
「来たぜ。へへへ、一期生で決勝なんてな」
「それはあたしたちの実力でしょ? レグルス」
「ああ、ウィネ、勝ったら……」
「ええ、結婚しましょう」
「お前ら……よそでやれよ」
「おお、いたのかライト、すまんすまん」
「レグルス……」
レグルスとウィネは緊張してる。こうやって冗談でも言わないとプレッシャーに押しつぶされるのがわかる。それくらい緊張してる。
「ライト、お前は緊張してないのか?」
「……してる。だけど押さえつけてる」
「そんなこと出来るの?」
「ああ………ごめん嘘」
「お前な……」
「もう……ねぇ2人とも、あたしたち絶対……勝とうね」
「当然」
「ああ。勝って2人を祝福するよ、結婚式には呼んでくれ、友人代表で挨拶したいからな」
「お、おい、それは冗談……」
「あら、冗談なの?」
「い、いや……」
レグルスは照れてやがる。こんな姿を見るのは珍しい。
俺は友人にも恵まれた。ここで3人合格して、騎士の門を叩いてやる。
そしていよいよ、俺の戦いが始まった。
**********************
戦いは、第一グループが使ったステージで行われる。その周りに騎士候補生たちが全員集まっていた。
俺の相手は、騎士候補生歴4年のベテラン。ギフトは確か……《魔戦士》だ。魔術と剣のバランスが優れた、オーソドックスな使い手。
だが、万能なギフトだが成長が遅いという難がある。だからこそ時間を掛ければ恐ろしく強くなるギフトの1つとして挙げられている。
「悪いな。お前が期待されてるのは分かるが……オレも負けられない」
「はい。よろしくお願いします」
お互い剣を抜き、構える。
勝った者も負けた者も見守る中、選抜試験最後の戦いが始まる。
結果は試験と礼儀作法と戦闘技術の総合で判断されるが、この戦闘技術で勝った者が騎士に選ばれるのが恒例となっている。つまり……負けられない。
審判の騎士がステージに上がり、俺たちに合図を送る。
「準備はいいか?」
「お願いします」
「いつでも」
騎士が右手を挙げ、始まりの合図を出す。
俺は全神経を集中させ、目の前の騎士へ注意を払う。
「始めッ!!」
「ジャッ!!」
開始と同時に、相手が突っ込んできた。
口元はブツブツ何かを呟いてる……魔術だ!!
「オォォォッ!!」
「ふっ!!」
俺は身体をフルに使い、相手の剣に合わせる。
練度もなかなかだが、俺ほどじゃない。こっちは副団長お墨付きの剣だ、というかそれしか出来ないから毎日死ぬ気で剣を振ってたんだからなっ!!
「ちぃぃっ!!」
「逃がさないっ!!」
相手が俺の剣の勢いに負け、少しずつ後退してる。
俺はチャンスと思い、一気に……。
「甘い」
「っつ!?」
突如、俺の身体が痺れて動きが止まった。
これは……電撃の魔術。俺の身体に電気を流したんだ!!
「終わりだっ!!」
「ッッッだぁぁぁっ!!」
「なにっ!?」
俺は気合いと根性で身体を動かし、何とか距離を取る。
ビリビリと身体が痺れるけど……動ける。当然やれる。
魔術には気を付けないと。魔術師じゃない剣士が魔術を使うなんてそうはない。いい経験になった。
「………」
「チッ!!」
ヤバい、また相手の口が動いてる。
魔術の詠唱を辞めさせないと、また痺れるのはゴメンだ!!
「はぁぁぁぁぁっ!!」
「………」
スピードと剣技はこっちが上。なら、このままごり押しで魔術を使う隙を与えない!!
攻撃魔術なら耐えてやる。炎でも氷でも雷でも、痛いのなら耐えられる!!
俺は剣を構えながら、来る攻撃に覚悟を決めて突っ込んだ。
だが、相手の姿が急に消えた。
「え」
「オレの魔術は攻撃だけじゃない」
俺の背中から、鮮血が飛んだ。
**********************
「う、ぐぅ……あ」
「悪いな。今のは一瞬だけスピードを倍にする強化魔術だ。身体に負担が掛かるから、最後の切り札として用意しておいたが………まさか使うことになるとは思わなかった。誇っていいぞ」
スピードアップ。
つまり、攻撃と見せかけて身体強化。そして一瞬で俺の背後に回ったのか。
ヤバい、ダメージが大きい。背中は隙だらけで、そこを狙われた。
「降参しろ。ルールでは降参と気絶じゃないと試合が終わらない」
「い、やだ……」
「その傷ではもうオレには勝てん。お前は一期生だろ? また来年があるさ」
「ダメだ……今年じゃないと、ダメなんだ……」
「………何故だ?」
「約束、したんだ……騎士になるって、2人が帰って来るまで、騎士になるって……」
俺は剣を支えにして立ち上がる。絶対に降参なんかしてたまるか。
「………そうか。じゃあ……ここで終わらせる」
「……っ!!」
相手は剣を構えた。きっと……トドメだ。
だけど、俺だって負けない。ここで負けたら……リリカ達に笑われる。
《──────》
絶対に負けない。俺は勝つ。
背中が、身体が熱い。まるで燃えてるように。
「では、敬意を表して……全力で終わらせる!!」
「………」
俺が動けないのを良いことに、堂々と詠唱を始めた。
どんなのが来るか分からない。でも、きっと避けれない。
《──────》
「これで終わりだ!!」
「来い……」
相手の剣は、真っ赤に燃えていた。
あれが必殺技なのだろう。喰らえば負け……死ぬかも。
《──────》
背中、いや……胸が、心臓が熱い。
何かが生まれるような、湧き上がるような、ヘンな感覚だ。
血を流しすぎたのだろうか……意識も飛びそうだ。
《──────》
「喰らえぇぇぇぇぇっ!!」
「………」
炎の剣が、目の前に迫ってる。
不思議だ………ゆっくりと、止まってるように見える。
右手が熱かった。剣を左手に持ち、無意識で右手を突き出した。
《──────ン》
**********************
「…………………………え」
気が付くと、相手は反対側の壁に叩き付けられていた。
どうやら吹き飛ばされたらしい。意味が分からない。
「な、何が……」
ふらりと、膝をつく。
そしてボーゼンとしていた審判の騎士が、ノロノロと手を挙げた。
「しょ……勝者、ライト……」
その言葉と同時に、俺は気を失った。
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