第17話 最後に夏服を着た日

「これを着るのも、今日で最後か」


 夏服を脱ぎながらそう呟いたのは、高校3年の秋の事でした。

 風もすっかり涼しくなっていて、明日からは制服も中間服へと変わります。この頃になると何をするにしても、『高校生活最後』と言う言葉がつきまといます。少し前までは卒業なんてまだ遠い未来の事だと思っていたのに、いつの間にか次第に現実味を帯びてきました。普段は気にも止めていなかった制服も、最後かと思うと何だか無性に名残惜しかったのを覚えています。


 それから少し時が流れた11月末の事です。少し前までは涼しいと思っていた風もすっかり冷たくなり、季節はほとんど冬と言っていい頃です。

 そんな中、ホームルームで先生が言いました。


「今度、卒業アルバムに載せる個人写真の撮影を行います」


 それを聞いてみんな思い出しました。どこもそうだと思いますが、卒業アルバムにはクラス全員が写る集合写真と、一人一人個別に写る個人写真とがあります。

 うちクラスでは集合写真は春に撮影を終えていたのですが、個人写真はまだでした。

 本当は、夏ごろに撮影する予定だったのです。集合写真は冬服で撮ったので、個人は夏服で撮りたいと言う意見が多かったのがその理由でした。ですがカメラマンの方の都合など、諸々の事情で何度も延期を繰り返し、こんな時期になってしまったのです。


 クラス全員に向けて、先生は言いました。


「前に、個人写真は夏服で撮りたいと言っていたけど、どうする?今でも夏服がいいって言うなら、持ってきて撮影前に着替える事になるけど」


 その言葉に教室がザワつきました。まさか今更夏服での撮影も可能とは誰も思っていなかったのです。

 さらに先生が言うには、全員冬服か全員夏服のどちらかに統一してほしいとの事でした。

 皆は話し合いを始めます。


「どうする?最初に決めた事だし、夏服持ってくる?」

「そんなこと言っても、夏服なんてもう燃やしたよ」


 夏服派、冬服派、どちらにも言い分はあるようです。しかし話し合いの末、やがて答えは出ました。


「それじゃ、当日はみんな夏服を持ってくる事。もう無いって人は、誰かから借りてくる」


 こうして、夏服での撮影が決定しました。




 そして撮影当日。男子も女子も、それぞれ夏服へと着替えました。その結果。


「寒っ!」


 思わず声が上がります。

 それはそうです。季節はもうほとんど冬なのですから、無理もありません。みんな口々に、寒い寒いと言っていました。


 するとその様子を、他のクラスの人達が見ていました。


「なにやってんの!?」

「寒くないのか?」


 寒いに決まっています。今更ながら、みんな夏服で撮影することを後悔したのは言うまでもありません。


 しかも、写真を撮るのは校舎の外と決まっていました。冷たい北風が吹いています。校庭に植えられた木々はすっかり色づいていて、足下には落ち葉が散らばっています。

 そんな中での夏服。もう違和感しかありません。


 その後カメラマンさんがやって来て、撮影は無事終了。自分達の卒業アルバムには、紅葉と夏服と言う、なんともアンバランスな個人写真が並ぶ事になりました。

 中には、両手に落ち葉を持っている子もいました。しかも三人も。


 校舎に戻り、再び冬服へと着替えると、脱いだ夏服を見ながら言いました。


「これを着るのも、本当に今日で最後なんだろうな?」


 幸い、と言っていいのか分かりませんが、その後は本当に夏服を着る機会はありませんでした。早々あっても困りますが。


 これが、自分が夏服を着た最後の日の出来事です。今でも真っ赤に染まった紅葉を見ると、この日の事を思い出します。

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