第16話 体育祭でやらかした話 後編

 こうして無事掛け声も決まり、いよいよ本番がやってきました。全男子生徒がグラウンドの脇に並び、登場の合図を待ちます。

 こういう時は多かれ少なかれ緊張するものだと思いますが、今回は更に緊張感が増していました。きっと誰もが、この後の演技以上に気になっていたはずです。

 果たして大竹君は本当にアレを言うのかと。


 そしていよいよ登場の合図が鳴り、大竹君が声を上げました。


「調子乗んな野村―っ!」


 ホントに言ったよ。一瞬、そんな声がどこからともなく聞こえてきました。


「「「オォーーーッ!」」」


 全員の声がそれに続き、みんなでグラウンドの真ん中に突き進んで行きます。そのご剣道形は無事終了し、自分達は再び着替えの場所へと退散していきました。





 剣道形の披露も終わり、みんな体育服へと着替えます。そんな中、やはり話題の中心は大竹君でした。


「お前、本当に言ったな」

「俺はやると言ったからにはやる!」


 胸を張って言う大竹君。ですがみんなは、どこか不安そうな表情を浮かべていました。


「問題は野村先生がこれからなんて言うかだな」


 自分達は演技が終わってすぐにここへと退散したため、あれから野村先生とは会っていません。

 何しろあんな事を大声で言ったのです。しかも大勢の人の目の前で。いったい今頃何を思っているのかと考えると、どうしても心配になってしまいます。


「安心しろ。何があっても、全責任は俺がとるから」

「「「当たり前だ!」」」


 全員が突っ込みました。しかしその直後、今度は別の声が飛んできました。


「野村が来た!」


 全員に緊張が走りました。心なしか、みんな大竹君から少し距離をとったような気がします。そうして、現れましたよ野村先生が。

 その場にいる全員を見回した後、先生は言いました。


「お前達、良い演技だったぞ。よくやった」


 にこやかな顔の野村先生。どうやらみんなの演技に満足いったようです。それはいいのですが……


「あの、先生。最初に大竹が言った掛け声ですけど……」

「ああ、あれか。何か言ったのは分かったんだが、周りの声もあってちゃんとは聞き取れなかったんだ」


 果たしてあの掛け声に意味はあったのでしょうか?そう思いながらも、それを聞いてみんな安堵の表情を浮かべました。

 しかしそこで、先生が大竹君に尋ねます。


「あれ、なんて言ってたんだ?」


 ですよね。この話の流れだと、当然気になりますよね。ですが今なら、何と言って誤魔化すことも可能です。ホントの事言うなよ、そんなみんなの声が聞こえてくるようでした。


「『調子乗んな野村』です」


 なんで正直に言うんだよ!誰もが心の中でそう叫んだことでしょう。するとそれまで笑顔だった野村先生の顔が、一転して険しくなりました。当然です。


「なんだって⁉」

「『調子乗んな野村』です」


 二度も言いました。これでもう、完全に誤魔化しか利かなくなりました。誰もが少しずつ、二人のそばから離れていきます。


「発案者は誰だ!」


 声を荒げる野村先生。すると大竹君、一番近くにいた鈴木君(仮名)を素早く指差しました。


「こいつです!」


 全責任をとるって言ってなかったか!

 もちろん鈴木君は慌てました。完全なとばっちりです。


「違います、俺は何も言って――――」

「鈴木です!」


 さらに声を張って鈴木君のせいにする大竹君。これにより、野村先生の矛先が完全に鈴木君へと向かいました。


「鈴木ぃーっ!」

「違っ……」


 鈴木君の言葉は最後まで告げられることなく、彼は一目散に逃げだしました。その後を追いかける野村先生。追いかけっこの始まりです。


「おおっ、鈴木のやつ足速いな。この後あるリレーに出ればよかったのに」


 全ての元凶である大竹君は、その様子を見ながら他人事のように言っていました。

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