第53話 閑話:ミサエ・ナカハラの話

 奴隷商人から買い取られてトロルヘイム新領主の元で働く事になりましたが、仕事は殆ど有りませんでした。

 新領主が初年度の税金を免除したからです。

 去年までは税金の徴収記録をつけて、街毎集落毎に合計金額を計算していたのですが、今年はゼロなんです。

 仕事は領民の新生児の名前を記録する事と、15歳の成人式の記録を付けるだけで良いのです。


 領の支出も今の所ゼロなんです。簿記の仕事も殆ど有りません。

 食事もお風呂も洗濯も、研修所と言う所でしてしまうのです。


 わざわざ研修所へ行くのは大変だろって?

 いいえ、魔力の少ない私でも、転移魔道具で簡単に行き来できます。


 研修所から侍従が来て掃除もしてくれますが、すぐ終わってしまうのにピッカピカです。

 ベッドのシーツと枕カバーを取り替えて、スグに帰ってしまいます。


 来年度からは家1軒に付き、国の住戸税大銀貨1枚づつだけ徴収すると言っています。

 領の収入はゼロですが、行政はどうするのでしょうか。



 領都の街に出ると、いつの間にか道路が整地されて、デコボコが無くなり綺麗に成っていました。


 空き地に、温泉を利用した公衆浴場と公衆トイレが新設されています。

 誰でも無料で利用できるらしく、町の人達がボランティアで掃除してるそうです。


 リフォームされて綺麗になった家も何軒かありました。


 港と船着場も修繕・改良されていました。

 新造船らしき大型魚船が3隻も停泊しています。

 新領主様から提供された物で、街の漁師皆で使うそうです。


 大きな入り江には橋が掛けられ、街道の山にはトンネルが掘られていました。

 広くて綺麗な道路が遠くまで続いています。



「領主様、税金の徴収が無いので仕事が有りません」


「それは良かったね」



「私は奴隷です、何か仕事を与えてください」


「ナカハラさんはワーカホリックだね、休暇だと思って好きな事をしていいよ。旅行に行くとかすれば?」


「奴隷は主人と一緒で無ければ、領外に出る事は出来ません」


「それは残念だね。 じゃあ、俺の秘書として同行すればいいよ」


「はい……」





 私は今、熱帯地方の孤島で白いワンピースの水着を着て、フルーツジュースをストローで飲みながらビーチの椅子に座っています。

 サングラスを掛けて、大きな麦藁帽子を被っているのです。


 目の前の小さな砂浜では10歳ぐらいの女の子が、2人で砂遊びをしています。

 新領主様の養女むすめ菜穂子様とお付きのユウナちゃんです。

 2人供とても可愛くてギュッとしたくなりますが、奴隷の私には許され無い事でしょう。


 新領主様は魚捕りの仕掛けを熱心に調べています。

 何かに熱中してる男の人の横顔は素敵です。

 私の姿はどう見られてるのでしょうか?




 転生した時の異世界管理人とのやり取りを思い出しました……。


「今よりも綺麗にしてください」


「具体的な願いにしてもらえませんか、何処をどうして欲しいのでしょう?」


「美容外科で大金を払って綺麗にして貰ったみたいにして欲しいのです」


「う~ん、分かりにくいから貴方の中にあるイメージを参考にさせて貰うよ、それで妥協してね」



 あらためて自分の姿を眺めてみます。


 白い肌、細くて長い脚、くびれた腰、上を向いて丸く張ってる胸、艶やかでしっとりしてる髪、憧れのモデルに似ている顔。

 自分で自分にウットリしてしまいます。1時間でも2時間でも鏡を見ていられます。


 それなのに新領主様は、全く私に関心が無さそうなのです……ショボンです。

 まぁ奴隷ですから、一生一緒に居ますけどね……うふふ。


 すでに結婚していて妊娠中の奥様が居ると聞いてますけど、私ほど綺麗な女性では無いでしょう。

 奴隷でも愛される事は出来るのですから。


 こうして身分に余る待遇を受けてるのも、私の美しさの所為かも知れません。

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