第37話「魔王の就職斡旋活動①」

 魔王はセントブルクはずれの「おかんずキッチン」近辺の木影に狙い定めたように『ゲート』で移動すると木を分けて、さも今まで旅をしていたように振舞いつつも目的地の食堂へと向かった。


「いらっしゃいませ! あらあらオウマさんにアリスちゃん、それに……」


 「おかんずキッチン」名物、店長直々の接客は健在のようで店長が三人を迎入れる。今回は魔王とアリスだけではなくラリーも同行していたのだ。


「こんにちは、店長さん。こちらはラリーさんと言います。そしてラリーさん、こちらがこちらのキッチンの店長さんです」


「ラリーです。よ、よろしくお願いします」


 アリスがテキパキと紹介を済ませラリーが頭を下げる。


「あらあら、ラリーちゃん、宜しくね」


 店長は笑顔でそう言った。


「繁盛しているようだな」


 所々の椅子に人が座っている満席に近い光景をみて魔王が言う。


「ええ、お陰様でね」


「ならば話が早い」


 魔王は早速そう切り出すとラリーの頭にポンと手を置いた。


「以前、人手が足りないから誰か雇おうかと言っていたが、この娘はどうだ? 料理を作りたいと言っているのだが」


 そう言うと店長の顔がパアッと明るくなる。


「本当かい? 」


 店長の呼びかけにラリーは頷いた。


「それは有難いよ! 最近の子はね、女の子でも冒険者になりたいって人が増えてね。なかなかこういう仕事に就きたいって人がいなくて困っていたのよ! 」


 上機嫌で店長は語る。


「それでは、早速明日から頼めるだろうか? 経験は昔家庭料理を作っていたほどで慣れるまで世話をかけると思うが」


「そこはもうしょうがないってものさ、全然かまわないけどラリーちゃんはそれでいいかい? 」


「お願いします! 」


 ラリーは力強く言った。


「良い声だね、それじゃあ明日からよろしくね! 」


 店長はポンとラリーの肩に手を置いた。


「それとだ、テイクアウトというのは頼めるだろうか」


「味噌汁がつかなくなっちゃうけどそれでも構わないなら出来るよ」


「そうか、ならばストレイワ定食を……七つ頼む」


 魔王がそう言ったのを見てアリスが顔を綻ばせる。


「はいよ、ストレイワ定食七つ! 」


 大きな声を出しながら店長は自らも調理に参加するべく厨房の方へと歩いて行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る