● 第47話 内なる『天狼』との邂逅 ~その2 取引成立!~

 こうして、オレの内なる『天狼』の名が決まった。    

 とりあえず、気に入って貰えたのが嬉しかった。

 さぁ、コレで『我が内なる天狼』との距離もチョットは縮まったかな……。

 少しでも、意気投合しとけば次の話がしやすいもんな。


 そう……、次の話は『炎纏狼牙えんてんろうが』がオレの心の中から外に出て、実体化出来るのかって言う点だ。そして、もしソレが出来た場合、オレにどんな影響が及ぶのか?

 アイツが実体化している間『天狼派古流』が使えなくなる……って可能性は、かなり高いとオレは思っている。

 もっとも、ソノ間は『合気道』を筆頭に『プンチャック・シラット』や『ゼロレンジコンバット』の技を使えばイイだけの事だから、気に病む事もないのだけれど。


 一番の問題は、『炎纏狼牙』自身が実体化を望むかどうか……、なんだよな。 

 コレに関しては、本人(本狼?)の意志を尊重してやりたいし、そうすべきだと思っている。

 天狼派古流の『技を継ぐ者』の内に宿る獣で、長きときに渡り『天狼に認められし者』の心の中を渡り歩いてきた存在なのだから。


 だから、オレは少しばかり慎重に話を切り出す事にした。

 [ なぁ『炎纏狼牙』……、コノ名前気に入ってくれたのは嬉しいんだけど、チョット長いと思うんだよね。

 もちろんコレはこれで、正式な本名として持っておけばイイんだけどさ。

 提案なんだけどオレが呼ぶ時だけ、略して『炎狼えんろう』にしちゃダメかな?

 相棒同士なんだし、呼びやすい方が良いと思うんだよね ]


 [ 裕ヨ……オ主ハ、既ニ我ニ名ヲ与エシ者トナッタ。

 コレハ、永キニ渡ル『天狼派古流』ノ歴史デ前例無キ、稀有ケウト言ッテ良キ事ナレバ……。

 我ガ名ニ関シテ、全テヲ裕ニ委ネルハ当然ノ事。

 ヨッテ、我ノ事ハ好キニ呼ブガ良イ……。

 タダ、オ主ニ貰イシ『炎纏狼牙エンテンロウガ』トイウ名ハ……我ニハマバユタカラノ如キ物故、コノ先何ガ起コロウト手放ス気ハ無イ。

 ソレデ良イカ? ]


 [ あぁ、モチロン! ソコまで気に入ってくれたのなら、オレも嬉しいよ。

 じゃあ、普段は『炎狼えんろう』って事でヨロシクな。


 あ、話は変わるけどコノ空間ってオレの心の中なんだよね?

 普通、人間の心の中って言えば、記憶だの思い出だの色んなモノが存在してる場所なんじゃないのかな? 

 なのに、ココはただセピア色の空間が広がってるだけで……、オレって心の中に何も持ってない様な虚ろな人間なのか? ]


  [ コノ場所ノ景色デ、驚カセテシマッタ様ダナ。

  話スノガ遅レタガ、初メニ声ヲ掛ケタ際、我ハ『』ト問ウタハズ。

 文字通リ、ココハワレガ創リシ『』デアリ、裕ノ心ノ中デアル事ハ相違無イガ、本当ノオ主ノ心ガ織リ成ス風景トハ、全ク別ノ空間ダト考エレバ良イ ]


 オレはソレを聴き、心から安心した。

 要は、炎纏狼牙はオレの心の中に間借りしていて、ソノ内装を変えてるって訳だ。

 虚ろ人間じゃなくてよかった!

 [ なるほどな。よく解かったし、安心したヨ! 


 ――んじゃあ、次の話な。

 炎狼って、食事とかどうしてんの?

 心の中に棲みし『天狼』だから、何も食べないとか?

 あと、オレが古流の呼吸法使ってない時は、何してるんだ? ]


 [ コレハ、面白キ事。

 ソノ問イ掛ケハ、我ノ想定ヲ超エル物ヨ!

 ダガ、他ナラヌ裕カラノ問イデアルガ故、答エルトシヨウ……。

 マズハ、食事ノ件デアッタナ。

 簡単ナ事ヨ……、オ主ノ腹ガ満タサレレバ、我モ同ジク満タサレルノダ。

 個人的ニハ、アノニクト呼バレル物ニハ、興味ガ無クモナイガナ。


 ソシテ古流ニヨリ覚醒メザメテオラヌ時……、ソレハ覚醒メテオラヌ故、文字通リ眠ッテオルシカアルマイテ。

 昔ハ頻繁ニ呼バレ、闘イノ後押シヲシタ物ダガ最近ハ、ナカナカ呼バレズ正直退屈シテオル。

 我モ、オ主等ノ様ニ広キ草原ヤ山々ヲ、我ガ力ノ限リ駆ケタク思ウ事モ多ク在ルゾ……。 


 ソレニ、赤キ森ヲ抜ケタ後ニ逢ッタ、……。

 アノ様ナ色ヲ持ツ狼ノ種族ヲ我ハ知ラヌガ、

 出来ル事ナラ、モウ一度逢イ可能カドウカハ解カラヌガ、話ヲシテミタイ。 ]


 肉に興味アリ? 

 それに、野山を駆け回りたい?

 更には、緋色狼と話したいだって?

 コレはもう完全に、実体化に脈アリな答えじゃないか!

 ここは、畳み掛けた方がイイな……、きっと。 


 [ 確かに、そう思うのは理解出来るヨ。

 現代の世界じゃ、そうそう闘いの機会に恵まれる事なんて無いし。

 あと、肉に興味あるんだ……肉食獣なんだから当然と言えば当然なのかもね。

 そんで、野山をちからイッパイ駆け回りたい。

 それから、あの褐色の狼達と話したい……と。


 もし仮に……、だけどさ。

 今の、炎狼の想いに応えられるかもって言ったら、コノ話に乗る気アル? ]


 [ 何ダト? ソンナ事ヲ可能ニスルチカラサエ、裕ハ持ッテオルト言ウノカ?

 誠デアルナラ、勿論乗ル! 

 イヤ、コレハ適切ナ表現デハナイナ……。


 ――改メテ言ウ。

 可能ナラバ、我ノ願イニ応エテ欲シイ!

 モシ、条件ガ在ルノデアレバ、我ニ出来ル事ナラ全テヲ叶エヨウ ]


 [ お前さんの気持ちは、よく解かったよ。

 オレは、相棒だから可能な限り協力する!

 一つ問題なのは、野山を駆けたり例の褐色の狼達と話すんなら、ソノ時だけオレの心の中から出て、外の世界で今の姿を実体化する事になるけど……出来るかい? ]


 [ ソノ様ナ事、造作モナイ!

 カツテハ、技ヲ継グ者ト肩ヲ並ベテ闘ッタ事モ幾度ト無クアッタノダ。

 技ヲ継グ者ハ、ソノ技デ。

 我ハ、コノ牙ト爪デ……、ソレゾレニ敵ヲ蹴散ラシタ物ヨ ]


 これは……、思わぬ所で吉報が聴けた!

 仮に、炎狼が実体化しても『天狼派古流』の技は使えるのか。

 それに、相棒と共に闘えるなんて最高じゃないか!

 結果的に、強力な戦力まで手に入ったって訳だ。 


 オレは、あくまで冷静さを装いながらニヤリと笑い……おもむろに言った。 

 [ 『炎狼』……いや『炎纏狼牙』よ。

 さっきのお前の願い、オレが全て叶えよう! ]

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