『ギフト』能力と、コノ世界との関わり
● 第9話 『ギフト』は、世のため人のため……。
「では我が友の孫よ、話を続けるとしようかの。
『ギフト』がどんな物なのかは、先程の説明で一応の所は理解できたと思う。そして、初めての『ギフト』の所有者が、このワシであった事も言うた通りじゃ。
ここから先は、『ギフト』にまつわるこの世界の歴史を簡単に説明していこうと思う。これから話す歴史は、この国……と、いうかこの世界の成り立ちにも深く関係してくる事じゃ。
シッカリと聞いてユックリでよいから、少しずつ理解していくとえぇ。
さて、ワシは『ギフト』を、どうやら生まれつき持っておった様なのじゃが、その力を実際に使える様になったのは、それまで国家の体を成さず様々な地域で
様々な民族たちが、少しでも自分達に利益をもたらす為に、周囲の他民族と小競
り合いを繰り返しておった頃の事じゃ……。
そう、アレはワシがまだ三十歳かそこらの時分じゃったかのぉ」
懐かしそうな表情で歴史を語るカイザールさんは、今何歳ぐらいなんだろう?
エルネスト爺ちゃんもだけど、二人とも年配……ってゆーか、年齢を重ねてる事は
確実にわかるんだけど実際の歳に関しては、全く想像もできなかった。
まぁ、その内、誕生日とか聞く時にでも、ついでに教えてもらうとするかな。
「当時のこの国には所謂、国の名前という物すら存在しておらなんだ。それが原因で各地方の部族間の争いを生み、そのせいでそれまで普通の暮らしを送っていた多くの
なるほどね、春秋戦国時代とか言ったっけ……すごい昔の中国――7つの小国
が覇権を争ったという――みたいな感じだったわけね。
確かに『社会』って物は、大きくなれば大きくなっただけイイ意味での『支配
力』的な、人々を平和に導く象徴の様な物がないとバランスが崩れてカオス状態
になっちゃうよね。
現世で高校に通ってた頃、向こうの世界の歴史を授業で学んだけど、思えば人間の歴史は戦いの歴史みたいなもんだったからなー。
なんか、理解出来る気がするよ。
「そこで、我々は自分達が住む地域を守るために自警団を組織し、近隣部族か
らの攻撃に備える事にしたのじゃ。しかし、いざ戦い……となった時、モノを言
うのはやはり実戦経験の差である事を、イヤと言う程思い知らされた。家族や仲
間を守るために、皆それぞれが己の力の及ぶ限り戦ったが、旗色は悪くなる一方
だったのじゃ。
そんな戦いが続く中、ある時ワシは『神の声』を聴いたのだ。その声は、……今でもハッキリ憶えておるが『ギフトを使え。ギフトの力でこの世界を救え』であった。そうじゃ、今回ユウが見た夢と、言葉の違いはあるがその内容は同じだった訳じゃ」
「カイザールさんは、どうやって『ギフト』の能力を使ったの? そもそも、
カイザールさんの能力って何だったの?」
ここまで聴いたら、どうしても質問せずには居られなかった。
「そう、そこが正に重要な点なのじゃ。ワシは、その声を聴いた瞬間ワシ自身
の中で何かが変わるのを感じたのじゃ。具体的に、何がどう変わったのかは全く
わからなんだが、一つだけ確信していた事がある。それが『この私が、世界を一つにして、平和に導くのだ』という強い想いであった……。
そして不思議な事にその出来事があって以降、我々の住んでいた地域にそれま
で敵対していた近隣の他部族の
戦いを仕掛けた非礼を詫び、和平を申し出た上に自分達の領土を我々に差し出し、あまつさえ我々の手で統治して欲しいと言ってくる様になったのじゃ。
後から考えたのだが、ワシの『ギフト』の能力は、この世界に平和をもたらし一つの国として統治していく事であった……、という事になるかのぉ。
あえてこの能力に名前を付けるとするならば、そうじゃな『平和的統治』の能力とでも言えばよいか……。
そしてそれを自分で理解し、正しい道に沿って『ギフト』の能力を使った事で、ワシはこの世界初のギフト能力者にして、初の『統一国家元首』となったのじゃて。これが、ワシが三十七歳の時の話である」
考えてみたら、スッゲー話だ。ココには、世界を統一出来ちゃう能力なんてのがあるんだね! で、実際に『統一国家』作っちゃってる訳だから、スケールがハンパねー。
じゃあ、その『ギフト』の力があれば自分の好きな様に国を支配できるって事か……あれ? そんなすごい能力持ってるのになんでコンナ山の中に住んでるんだろ? 普通、国の元首って言えば一番偉い人なわけだから、それこそ城とか宮殿とかに居るのが普通なんじゃなかろうか……。
「ユウよ、お主は今ワシがなんでコンナ洞窟に隠れ住んでるのだろう? とか
他にも、この能力があれば国を自分の好きにできるのではないか? と、思っておるのであろう?」
「あ、あぁ……確かにそう思いました。初めて国を統一にまで導いたのなら、
その国の歴史に名前が刻まれていて、国民的な英雄として暮らしていけるはずで
すよね? それなのに、何故山中の洞窟に隠れ住んでいるのか? コレが第一の
疑問です。
そしてもう一つの疑問は、その『ギフト』の能力があれば、一生好きな様に国を支配しながら、贅沢に暮らせるのではないか? という事です」
相変わらず鋭いなー、カイザールさん。オレの考えてる事ぐらいは全部お見通しってか……。それより、言葉遣いがかしこまっちゃったよ……。
「それには、チャント理由があるのじゃよ。
『ギフト』とはすなわち言葉の意味通り、神からの授かり物だという事は、もう
話したであろう?
それ故『ギフト』所有者達には、家族や仲間または民の平和の維持のためにその能力を使う事は出来ても、自分個人の贅沢や欲の為には力を使う事は出来んという制約の様な物が付与されておるのだ。
よって『ギフトの力』は、自分以外の者のための能力であって、決して自分自身の欲望のみを満たすためには使う事が出来ぬ代物なのじゃ。どうじゃ、わかってもらえたかの?」
そういう事か……。『ギフト』は、他人を想いやる事で初めて使う事が可能に
なるのか。
もし現世に『ギフト』の能力で、世界中の平和維持ができる人間が居たら、世界の軍隊と軍需産業は完全に失業だな。国防予算も必要無くなるから、税金下が下がったり年金とかも増えるかもしれない。だがしかし、だ……人間てのは、欲って奴を手放せない生き物だそうだからなー。現世だと何とかして悪用しようとする奴が出てきそうなんだよなぁ。
「よくわかりました。それに、もしオレが住んでた世界に『ギフト』の能力が
あったら、きっと最初は良くても、そのうち絶対なんとか悪用しようって奴が出
てくるでしょうから、こちらの世界だけの能力でよかったです。
でも、国家を統一に導いた功績や名声みたいな物は、時が経っても語り継がれていく物ではないんですか?」
これは、ホント素朴な疑問だった。国家の統一を初めて成し遂げた……なんて
人なら、現世だったら、まず歴史の教科書に載っちゃうレベルだしね。
「確かに、そういった意味で言えばワシの名前は『国を統一に導いた国家的英
雄』だとか、『建国の父』だとかいう風に歴史に残っておる、それは事実じゃ」
やっぱりだ! でも、それなら隠れ住む必要は無いんじゃないのかな?
「ワシとエルネストが、今この隠れ家でヒッソリと暮らしている理由はな、実はお主の両親の件とも関係がある故、これから話してやろうて。
しかし、さすがに少しばかり疲れたし、時間ももうだいぶ遅くなっておる。続きは明日という事にしようかの。お主も、ユックリ休むがよいぞ。
では、明日またの」
そう言って、カイザールさんと、爺ちゃんはこの部屋を出て行き、それぞれの
自室に戻って行った。
二人とも、お疲れ様でした。おやすみなさい。そう、挨拶は大切。
あぁ、なんかアッという間だった様な気がするけど、考えてみたら結構な時間話してたんだ。これからが本題で今イイトコなのに、続きはまた次回……ってのは現世のドラマやアニメだけじゃないんだな。
まぁ、確かに異世界の歴史をそう簡単に語り尽せるとは思えないけどね。やっと、ホンノ少しだけど『ギフト』の事や、この世界とこの国の事を知る事が出来たんだっていう気がして、オレはそれが嬉しかった。
さて明日は、どんな話が聴けるんだろう?
楽しみになって来ている自分が居る事に、その時気が付いた。
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