1500.質疑篇:よい小説とはなにか

 本日はご質問がございませんでしたので、昨日の告知どおり本日でシステム上の連載終了となります。

 これからのご質問は、第二弾を書くときに参考とさせていただきます。


 ラストを飾るのは「よい小説」についてです。

 なにをもって「よい小説」とするのか。それは人それぞれだと思います。

 私は以下のように定義しています。





よい小説とはなにか


 あなたにとって「よい小説」とはなんでしょうか。

 私は「再読に値する小説」だと思っています。

 その場限りの書き捨て作品ではない。十年後も二十年後も五十年後も。いつでも「もう一度あの作品を読みたいな」と思えるのが「よい小説」です。




なぜ魔術士オーフェンはアニメ化されたのか

 1994年から富士見ファンタジア文庫で連載された秋田禎信氏『魔術士オーフェン はぐれ旅』シリーズ。

 2020年1月期にアニメ化され、2021年1月期から『魔術士オーフェン はぐれ旅 キムラック編』がスタートしています。

 なぜ『魔術士オーフェン はぐれ旅』シリーズが25年を経てアニメ化されたのか。

 それこそ「もう一度あの作品に触れたいな」と思わせるような作品だったからです。

 実際に『魔術士オーフェン はぐれ旅』シリーズは現在も連載が続いており、新しい読み手を増やしています。

 20世紀から読んでいた方も、アニメ化を機に「もう一度あの作品に触れたいな」と感じたのです。そういう郷愁が浮かばなければ、25年を経てのアニメ化はありえなかったでしょう。

 それほど『魔術士オーフェン はぐれ旅』は物語の質が高かったのです。

 秋田禎信氏初の長編小説であり、現在も新作が読める代表作となりました。

 同作は熱心なファンが付いており、連載が途切れても新刊が出れば購入する固定ファンが多かったのです。

 つまり昔から読んできた方と、最近『キムラック編』を読んで面白いと気づいた方。双方の人気がアニメ化へとつながりました。


 昨今アニメ界隈では過去コンテンツが見直されています。

 マンガの荒木飛呂彦氏『ジョジョの奇妙な冒険』は第五部までアニメ化されていますし、マンガの赤塚不二夫氏『おそ松くん』をベースにしたアニメオリジナル『おそ松さん』、マンガの藤田和日郎氏は『うしおととら』『からくりサーカス』が相次いでアニメ化、田中芳樹氏の『アルスラーン戦記』は荒川弘氏のマンガ化をベースにアニメ化されました。

 最近ではマンガの堀井雄二氏&三条陸氏&稲田浩司氏『DRAGON QUEST −ダイの大冒険−』の再アニメ化が話題をさらっています。

 なぜこれらの名作が現代にリバイバルしているのでしょうか。

 やはり「もう一度あの作品に触れたいな」と思っていたアニメ制作陣が熱心に企画を持ち込んだからだと考えられます。

 まぁアニメ化するネタが尽きたので、一定ファンを見込める過去の名作にすがっているだけなのかもしれません。




なぜロードス島戦記は復活したのか

 水野良氏『ロードス島戦記』シリーズは、初期の「異世界ファンタジー」を決定づけた歴史的なライトノベルです。

 なぜそんな不朽の名作が新シリーズをスタートしたのでしょうか。

 こちらもやはり復古主義があったのかもしれません。有象無象の書き手の新作より、過去の名筆家に書いてもらった続編のほうが売れる。

 そういう腹積もりがなければ、名筆家も綺麗に終わった作品の続編なんて書こうとはしません。

 角川スニーカー文庫は近年ヒット作に恵まれず、「三顧の礼」で水野良氏を迎え入れて『ロードス島戦記』が復活。2019年8月に『ロードス島戦記 誓約の宝冠』シリーズがスタートしたのです。

 しかしすでに完結している物語であるため、パーンをそのまま出すわけにもいきません。そこでハイエルフのディードリットだけを登場させて、物語をつなぐ役割を与えています。

 こちらは期待の新人が育っていないのです。

 それを打破するための小説投稿サイト『カクヨム』共催なのですが、それでも今流行りの「異世界ファンタジー」ばかりで代わり映えしない。

 「角川スニーカー文庫らしさ」の再定義として『ロードス島戦記』が一役買ったとも見られます。




十代に読んで、二十代、四十代でも読み返したくなる

 「よい小説」とは十代に読んでも、二十代で読み返したくなる。四十代でも読み返したくなる。そんな魅力に満ちています。

 ワンテーマだと思っていた物語が、時を経るとあんなふうにもこんなふうにも読めてくる。一面だけでなく、多面を持っているのが「よい小説」なのです。

 十代では単に主人公だけを追って、物語を堪能するだけ。

 二十代で人生の先輩の立場から主人公を見て、ここでこんなことをしたらどうだろうかと思案する。

 四十代で人の親となり、主人公くらいの子どもをもうけていたら、愛する我が子を見るがごとく主人公を応援したくなる。

 いつの時代に読んでも面白くてためになるのです。

 皆様にも、子どもの頃に読んだ作品を、十年後でも二十年後でも読み返したくなりませんか。

 私は『アーサー王伝説』は新刊が発売されたらチェックしたり、冴木忍氏『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』を読み返したりしますね。『カイルロッド』は電子書籍化されていないので、いまだに紙で持っています。

 ともにいつ読んでも魅力あふれる物語です。


 「よい小説」とはいつ読んでも、どの世代でも「面白い」作品といえます。

 それだけでなく、日を置いても年を置いても「また読みたい」と思えるかどうか。

 作品の価値とは単に閲覧数・PVでは語れません。

 細々とでも長年にわたって読まれ続ける作品こそが「名作」つまり「よい小説」なのです。





最後に

 最終回は「よい小説とはなにか」にお答え致しました。

 「よい小説」とはいつの時代にも読まれ続ける作品ではないでしょうか。

 小説投稿サイトで単にランキングを独占しているだけが「名作」ではありません。

 たとえランク外に落ちても読まれ続け、一年後、三年後、五年後にもランキングにふと顔を見せるような作品こそが「よい小説」なのです。


 初回2017年4月17日から最終回まで、1436日連続投稿を続けてこられました。

 ひとえに皆様のご贔屓があったればこそです。

 本日に至るまで、途中で引っ越しがあったり、病気に罹ったり、持病が悪化したりとさまざまな苦難を乗り越えてきました。

 私はいったん体を休めて持病をある程度回復させ、長編小説『秋暁の霧、地を治む』の準備が整い次第『カクヨム』オンリーで掲載致します。

 マルチポストすると書籍化は目指せませんからね。

 これからは一著作家として皆様と同列になります。

 皆様とともに小説界を盛り上げていく所存です。


 それでは四年弱、お付き合いくださいました皆様に敬意を表して、本連載に幕を引きます。

 皆様、誠にありがとうございました。



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