1443.端緒篇:三幕法による構成(抄本)

 フィルムアート社のブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』は、ハリウッド脚本術を手短にまとめた良書です。

 今回の「抄本」を読んで興味を覚えたら「紙の書籍「か電子書籍を手元に取り寄せましょう。





三幕法による構成(抄本)


 今回はフィルムアート社のブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CAT!』をもとにした「三幕法」をできるだけコンパクトに復習したいと思います。

 詳しくはコラムNo.815〜821までをご参照くださいませ。




三幕法の構成


「起」

第一幕 「日常」命題の幕

1.「最初から全体の1%まで」ワンシーンまたは一章

 出来事イベントの渦中に放り込んで失敗させる

  もし成功してしまうとそこまでの話になってしまいます。

  作品の視点やムード、テンポを決めるパート。ここで読み手を惹き込む。


2.「5%、または小説全体の最初の10%以内」ワンシーン

 気づかれずテーマとメッセージ(出来事と解決法と手に入れるもの)を「伏線」で提示

  大々的に知らせると白けるので、「伏線」で示す。

  人間は誰かに忠告されたから変わろうとは「思わない」もの。


3.「1〜10%」複数シーンや複数章

 設定を開示する

  主人公と世界そのものの設定をしっかり読ませます。

  1.では出来事の中で主人公たちや世界観を無理やり立てました。

  主人公は「なにかを求めて」行動するべき。

  ただし最後まで追い求めなくてよい。

  ここでは表に出てくる登場人物や世界を漏らさず記載しましょう。

  「なぜ主人公は自分を変える旅に出なければならないのか」を納得させます。


4.「10%」ワンシーン

 打破(「日常」の世界を打ち破る「変化の前触れ」)

  多くの場合「前触れ」悪い知らせの形でやってくる。

  電話、電子メール、SNS、郵便、解雇、不治の病の宣告、死など。

  人は「今のままでは悪くなりそう」でなければ変わろうとしません。


5.「10〜20%」複数シーン

 逡巡(主人公が「どうすればいいの?」と困惑して問いかける)

  変化を迫られた主人公が頑強に変化を拒む姿を見せる。

  あらゆる「日常」的な環境で決断できずに悩む主人公を見せる。

  簡単に決断させると、ご都合主義に思われる危険があるから。

  迷わない場合は待ち受ける長い旅に向けて支度を始める。

  「止められても行く。でも今のまま行って大丈夫なのか」の状態。



第二幕 「非日常/直しているつもりで壊す」反対命題の幕

 第二幕で主人公はいろいろ格好のよいことをするがどれも「答え」ではない。

 でもドラゴン退治や異性とのキスなどは読み手としては当然観たい。

 それこそが素晴らしい小説を素晴らしくしている材料になっているからです。


6.「最初の20%くらい。全体の1/4に来る前に、一度幕を引くべき」ワンシーンまたは一章

 新しいことを試みる(一時的な決断)

  古い世界と古いやり方に決別し、新しい考え方で新しい世界へ入っていく。

  でもまだ表の「求めるもの」「テーマ」に引っ張られて行動している。


7.「22%。普通「6.」の直後にくるが、もっと早くても良い。始めの25%までに来るようにすること」ワンシーン

 メッセンジャー(お助けキャラ(助っ人)たちや宿敵などの登場)

  「対になる存在」「お助けキャラ(助っ人)」で成功する人物条件は2つ。

  1.ひっくり返った第二幕の世界「非日常」をなんらかの形で体現している

  2.なんらかの手段で、主人公が「テーマ」を受け止める助けになる

  どんな役目であれ、お助けキャラ(助っ人)たちは主人公が「テーマ」の受け止めを手助けする役割。

この「7.メッセンジャー」までが「起承転結」の「起」になります。




「承」

 「非日常」の世界に踏み出した主人公が、仲間||(たち)の助けを借りながら歩みを止めずにいる状況です。本格的に「非日常」の世界を旅することになります。

 そして「9.中間点」までたどり着いて、「偽りの勝利」または「偽りの敗北」に到達するのです。

 まず「8.お楽しみ」で全体的に「非日常」で「上り坂」「下り坂」どちらを歩むのかを決めましょう。ここで決めたことがその直後の「10.坂が逆向きになる」の展開を定めます。

 上ったら下る、下ったら上る。ひじょうにわかりやすい構図です。


8.「20〜50%」複数シーンや複数章

 お楽しみ

  こここそ、おそらく読み手がこの作品を手に取った理由そのもののはず。

  「お楽しみ」とは読み手にとってで、主人公が楽しめるとは限りません。

  主人公はすごく快調でうまくやるか、反対にどん底で苦しみます。

  「最高」と「最低」のふたつしかありません。

  ただ「8.」が最初から最後まで楽しいまたは苦しいとしないほうがよい。

  「8.」は物語全体の三割を占めるので、山・谷の変化をつけましょう。


9.「50%」ワンシーン

 中間点(物語が急転換する軸。小説だけでなく第二幕の中間でもある)

  次のとても大事な3つのことが起きます。

  1.主人公は「偽りの勝利」または「偽りの敗北」を味わう

  2.主人公が変われなかったときの「代償が大きくなる」

  3.表の「テーマ」の物語と、裏の「伝えたいことメッセージ」の物語が、このセクションのどこかで交差する

  第二幕でここまで、主人公は「欠点」を直して自分を変える機会を与えられていた。

  でもその機会をちゃんと使いこなせていない。

  この段階ではまだ「求めるもの」に導かれて行動しているからです。


 「9.」で変われなかったことの「代償を大きく」して「ぐずぐずしていると、もうすぐ時間切れだよ」と教えてやる。ここで無理やり別の方向に向いて進むように仕向けられた主人公が、やがて追い詰められて待望の「変わる」事態を迎えます。

 「9.」は「本気を出さないとまずい点」です。「8.」の時間は終わり。

 「代償が大きくなり」、ハードルが上がって、主人公が今のままでは通用しないと悟る瞬間です。ここまで全然ダメでも(偽りの敗北)すごくうまく進んできても(偽りの勝利)、主人公はまだなにかが足りないと感じているのですから。

 この「求めるもの」から「本当に必要なもの」への移行は、「表の物語」と「裏の物語」を交差させることで描かれます。




「転」

 ここから「起承転結」の「転」に移行します。「9.」を境に、「上り坂」だった物語が「下り坂」に、「下り坂」だった物語が「上り坂」になるのです。

 つまり「承」と正反対の進行をするから「転」と呼びます。


10.「50〜75%」複数シーンまたは複数章

 坂が逆向きになる

  物語が悪い方向に向くかどうかは「9.」をどう扱ったかにかかっている。

  もし「偽りの勝利」を迎えたのなら「11.」までどんどん「下り坂」です。

  事態はどんどん悪化します。なにしろ「9.」の勝利は「偽り」だから。

  だからここで主人公(と読み手)に勘違いを見せつけます。


11.「75%」ワンシーンまたは一章

 追い詰められて喪失

  主人公は落ちるところまで落ち、ついにどん底まで来ました。

  「どん底を経験するまで本当には変われない」は真理です。

  すべてを試し、たいせつなものをすべて失い、初めて真実を見極められる。

  仮に「10.」でよいほうに行っても、避けられずにどん底まで墜ちる。

  ともかく「最悪」。小説が始まったときより悪くなっている。

  登場人物が死ぬのならここが多い。

  師匠キャラなら残りを主人公ひとりで進まなければならないので効果的。

  内面深く見つめざるをえなくなり、すでに答えを持っている自分に気づく。


12.「75〜80%」複数シーンまたは複数章

 改めて向き直る

  どん底に落ちた主人公はの人格にって反応リアクションします。

  人生最低のときにどう振る舞えばよいのか。

  ここは、心の変化が訪れる前の、最後の瞬間。

  だからこそ、思いもよらぬ発見はここに集中します。

  最後の手がかりが見つかり、謎が解ける。

  主人公がそれまでと違った視点でなにかを発見する。

  今まで見ようとして失敗し続けたものが、急に見えるようになる。

  今最低でへこんでいても、心の底で「分析力」がちゃんと機能している。

  自分の人生を分析して、自分の下した決断をひとつひとつチェックする。

  求めるものを手にするため今まで試して失敗したすべてに考えを巡らせる。

  そしてゆっくりと最終的な結論に近づくのです。

 無理でなければ、主人公を出発点に戻してみましょう。昔の友人と再会する。別れた恋人や配偶者とよりを戻す。昔の職場に戻る。第一幕「日常」世界に戻してやります。足掻いていて、どうしてよいかわからない状態なら、慣れ親しんだところへ帰りたいと思うのは自然です。ですが戻ったとしても全然安心できないし、懐かしくもない。まったく昔と同じように感じられません。

 「慣れ親しんだものへの回帰」によって主人公の変化をくっきりと見せる。

 主人公はもはや第一幕の「日常の人」ではない。

 ひっくり返った第二幕の「非日常」世界を通過したことで、別の人になった。

 第一幕の「日常」世界に放り込んでやることで、変化はより強調されます。



第三幕 「統合命題」の幕

13.「80%」ワンシーンまたは一章

 変わるべきことを悟る(突破のセクション)

  ついにこの瞬間が来ました。

  ひっくり返った「非日常」世界で散々苦闘した甲斐があったのです。

  テーマの象徴として「7.」の「お助けキャラ(助っ人)」たちに教えてもらったたいせつな「本当に必要なもの」「伝えたいことメッセージ」が手に届くところまで来ました。

  すべてを失い、どん底に落ち、改めて向き直った主人公。

  今こそなにをすべきかわかっているのです。「正しい修復方法」を考えつく。

  主人公の「悟り」とその帰結「決断」を見せる。

  (一行で見事に主人公の「悟り」と「決断」を見せた例もあります)。

  このセクションで素早く、確実に主人公を最後の幕へ引っ張り込むのです。




「結」

「起承転結」の「結」に相当します。

 いよいよ最終戦で雌雄を決するときです。

14.「80〜99%」複数シーンや複数章

 フィナーレ

  「13.」で主人公はついに悪あがきをやめてなにをすべきか理解した。

  立ち上がって「13.」で考えた作戦を実行するときが来たのです。

  小説全体の20%弱、たくさんのページで主人公が新しい作戦を実行します。

  それを飽きさせず、急ぎすぎずに第三幕全体を引っ張る方法。

  その答えが「フィナーレの五段階」です。

 ■第一段階 チーム招集

   主人公は同じ志を持つ仲間(助っ人)つまり戦力を集めます。

   「11.」の後なので口も利かなくなった友達がいるかもしれない。

   そうなら助けを求める前に仲直りさせてください。

   実はそれがこのサブセクション(そして第三幕)の大事な役割。

   主人公は非を認めて仲直りし、見えていなかったのは自分だと認める。

   これも「主人公が変わる」軌跡の一部です。

   絶対にチームを招集しなければ攻略できないわけではありません。

   独りで攻め入る主人公の話もたくさんあります。

   ここは「道具集め(武器の装着、計画立案、物資確保、ルートの選択等々)」としても使えます。

   大いなる計画を実行するための準備の時間でもあります。

 ■第二段階 作戦実行

   チーム招集、武器装着、物資を集め、攻撃ルートを決めて準備は万端。

   主人公|(たち)が作戦を実行するに際して「どんなに頑張っても無理だろう」という空気が必須。無謀な作戦に見えなければなりません。

   チームが力を合わせて作戦を遂行するにつれ、次第に増す達成感も必須。

   つかみどころのない人物に個人的な見せ場を与えるならまさにここです。

   設定した「変わったスキル、道具、妙なクセ」が役立つように仕組めます。

   少しずつですが、作戦が「うまくいっているように」見せます。

   作戦を成功させるのでは。無謀な作戦じゃなく簡単に終わるのでは。

   脇役たちが大義のために「裏の物語の犠牲」になって脱落し始めます。

   命を落としたり、主人公をかばって凶弾に倒れたり。

   主人公にチャンスを与えるため、あえて身を引いたりするかもしれない。

   チームメンバーがひとり脱落するたびに、主人公は自分の力を試されます。

   問題を解決する力を備えていると証明することになるのです。

 ■第三段階 敵に追い詰められる

   主人公とそのチームが作戦を実行しました。

   「攻略目標」に攻め入り、すべては順調に見えます。

   ここで「敵に追い詰められる」が来ます。

   悪者たちが主人公|(たち)を追い詰めてしまうのです。

   ここは主人公|(たち)が調子に乗りすぎたと見せる役割がある。

   こんな作戦、うまくいくはずなかっただろう。

   そんなに簡単にいくわけないだろう。

   主人公が自分の価値を証明するよう押しつけられたひねりのひとつ。

   ここまで来ると努力も知恵も筋肉も武器も、主人公の助けになりません。

 ■第四段階 真実を掘り当てる

   「14.」の中でもとくにみんなが待ちかねていたのがここ。

   「第三段階」で主人公は再び敗北し、すべてを失ったかに見えます。

   もう策も応援希望もなにもない――けどひとつ残されたもの。

   主人公自身がまだ気づいていない「それ」。

   心の奥深くに潜んでいる、なににもまさる強力な武器です。

   それはこの小説の「テーマ」。主人公が克服した「欠点」。

   自分が変わったという証拠。

   なにより物語冒頭では主人公がけっして成しえなかったこと。

   「欠点」だらけだったのは、遠い昔。

   今こそ、美しく力強く成長した姿を見せるとき。

   今ここで、主人公に自分の心の奥底まで掘り進み、主人公の心の奥にずっと放置されたままだったガラスの欠片を取り除かせます。

   問題を根本から引き抜き、すべてに打ち克つときです。

 ■第五段階 新しい作戦を実行

   主人公は真実を掘り当て、ガラスの欠片を取り除き、安全ネットも命綱もなしで一か八か意を決して飛び降ります。

   そうして初めて勝利を手にする権利を得るのです。

   ここで主人公は大胆不敵な新作戦を実行して、もちろん成功します。

   魂の深い部分で自分と向き合い、苦労して変えから成功して当たり前。

   主人公のあきらめない心が、最後にはなにものにも打ち克って終わる。

   それを読み手は待っています。だから読み手の心が震えるのです。

   地獄めぐりを味わい、本当に勝つまで何度も何度も戦わされ、答えを見つけるために心の底までさらけ出して、主人公はようやく物語のエンディングにふさわしい主人公になる。

   もし主人公が「失敗」して物語が終わるなら、それには「意味」がある。

   「失敗」からも学ぶべき教訓があります。

   「やらずに後悔するよりも、やって後悔したほうがまし」です。

 以上が「フィナーレの五段階」です。

 あなたが書いた素晴らしい変容の旅路にふさわしい最高のエンディングです。

 この瞬間に物語の「伝えたいことメッセージ」にピントが合い、読み手の心にいつまでも残ります。考えさせるなにか。魂の奥で震えるなにかが残ります。

 「フィナーレの五段階」は、絶対に必要というわけではありません。五段階以下のもっと短いフィナーレでもとても心に残る小説はたくさんあります。

 ただし絶対に散漫にならないようにしてください。

 主人公が考えもしないで勝利しないようにしましょう。

 なにかに気づくことなく第三幕「変化した日常」に突入して、悩むことも障害物もなく、邪魔もされずに最後の作戦を実行しないようにしてください。

 変わるためにたっぷり努力させましょう。

 主人公が苦労せずに終わると「面白いが物語を畳むのが粗すぎ」の印象を与えます。


15.「99〜100%」ワンシーンまたは一章

 終着点でたどり着いた境地

  もし「15.」が「1.」と違わない場合は、どこか書き直す余地がある。

  主人公の始めと終わりの姿が違えば違うほど、物語のキモがくっきり見える。

  そう、物語はぐるぐる同じところを回るものではありません。

  ちゃんと「どこか」にたどり着いて終わるものです。

  第一幕「日常」で「欠点」のある主人公をお膳立てして、

  第二幕「非日常」で引っ掻き回して、

  第三幕「変化した日常」で自分の価値を証明させましょう。

  素晴らしい「15.」で、長い道のりをたどった読み手にご褒美をあげます。


 セクションはこれまで挙げてきた順番でないといけないわけではありません。いくつか前後が入れ替わっている作品もあります。

 大事なのは、順番は違っていてもセクションがすべて揃うのです。

 連載していて行き詰まったら全15セクションを見直してください。漏れがあるようなら、都度そのセクションを書き込めばよいのです。





最後に

 今回は「三幕法による構成(抄本)」について述べました。

 コラムNo.815〜821までをしっかりと読んだ方なら、今回のまとめでポイントがすぐに思い出せるはずです。

 次回こちらもご質問の多かった「三幕法のテーマ」についてです。

 本来なら「テーマ」の次に書くべきだったのですが、「そもそも三幕法とは」という方を置いてけぼりにしかねないと思い、まずは構成を先に取り上げました。

 順序が逆になった点はご容赦いただければと存じます。



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