1438.端緒篇:命題を見つける
小説を書くとき、ほとんど注目されていないながらも、あなたの才能に直結するもの。それが「命題」です。
あなたがこれまでどんな物語を好きだったのか。感銘を受けたのか。
そういったものを見つけ出すだけで、どんな物語を創ればよいかわかります。
「命題」を知らずに努力しても、効率的な創作とはいきませせん。
命題を見つける
人は生きているかぎり「命題」を持っています。
なにをなすために生きているのか。それを決めるのが「命題」なのです。
コラムNo.554、555,850で書いたものをもう少し突っ込んで書きます。
文豪は自分の命題を知っていた
退廃的な文学を代表する芥川龍之介氏や太宰治氏、三島由紀夫氏はいずれも文壇に名を成しながら自害しています。これは「退廃的」という自らの「命題」を受け入れたくない心の現れかもしれません。
もっと希望に満ちた物語を書きたかった。発表して名声を得たかった。でも彼らを有名にした作品はいずれも「退廃的」だったのです。
「退廃的」な作品を書き続けるのは、相当心が強くないとやっていられません。
頭の中を負の感情が占めていると、心がどんどん腐ってしまいます。
ウイリアム・シェイクスピア氏は「悲劇」をたくさん書いているので、つい「悲劇」を「命題」にした劇作家と見られがちです。『ハムレット』『オセロー』『リア王』『マクベス』の四大悲劇や『ロミオとジュリエット』などに触れるととくにそう感じます。しかしシェイクスピア氏の作品に通底しているのは「行き違い」なのです。その証拠に「ドタバタ喜劇」の『夏の夜の夢』『ヴェニスの商人』も人気を博しています。
シェイクスピア氏は約二十年にわたり戯曲を数多く執筆しているのです。もし「悲劇」が「命題」なら芥川龍之介氏や太宰治氏、三島由紀夫氏のように自害したかもしれません。しかし死因のひとつとして知られているのは「腐ったニシンから伝染病に感染したから」という、これまた「行き違い」のようなお話です。
「行き違い」の王様は「行き違い」でお亡くなりになりました。
命題を見つければあなたの物語が書ける
小説に限らず物語を創るにあたって「命題」を見つける必要があります。
あなたが好きな小説、感銘を受けた小説はどんな物語だったでしょうか。
その分析から、あなたが「書きたい」と心底思っている「命題」を見つけられます。
私は養護施設育ちだったため『アーサー王伝説』が大好きでした。
自分もアーサー王のように由緒ある家柄に生まれたのではないか。兄弟も同じ養護施設で育てられていたのですが、生活圏がまったく別なので接点がありません。だから「自分もアーサー王のように」と考えていたんですね。
アーサー王は市民の子どもにすぎなかったのですが「抜けばブリタニア王国を治める権利がある剣(この剣は「カリバーン」と呼ばれています)」を偶然にも引き抜いてしまいました。それによりアーサーはウーサー・ペンドラゴン王の子どもであると判明したのです。これにより以後「アーサー・ペンドラゴン王」としてブリタニア王国の政に携わるようになりました。
まずすぐれた騎士による「円卓の騎士」を組織したのです。彼らに実戦指揮を任せて自らは内政に専念しようという腹積もりでした。「円卓の騎士」には現代でもその名が流用されるほどの人物ばかりが集まっています。中でもグィネヴィア王妃と不倫をして円卓の騎士が二分する原因を作った“湖の騎士”ランスロット卿、その息子で聖杯探求の旅で唯一「聖杯」を持ち帰ったガラハッド卿、アーサー王の甥で王位継承権を持つアーサー王が最も信頼したガウェイン卿の三者が重要な役割を果たします。とくにランスロット卿とガウェイン卿は双璧の地位を与えられて一段格上の騎士となります。
騎士の名前はTYPE−MOON『Fate/stay night』シリーズ、今なら『Fate/Grand Order』などでお馴染みでしょう。
養護施設育ちの私は『アーサー王伝説』を「後ろ盾のないアーサーの出世物語」として見ています。でも私は小学校に上がるときに母子家庭として兄弟とともに引き取られたので「自分はアーサーではなかったか」と自覚したのです。
この影響からか「出世物語」は私の「命題」のひとつとなっています。
その後児童文庫版のモーリス・ルブラン氏『怪盗ルパン』シリーズやサー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズなどを読み、「推理小説も面白いな」と思いました。今でも『名探偵コナン』は大好きですからね。でもトリックを考えるのが億劫で「推理小説」はまともに書いていません。億劫さを克服すれば「推理」も私の「命題」のひとつとなっていたでしょう。
そして中学生の頃に出会ったのが中国古典・孫武氏『孫子』です。
「コンピュータでゲームを作る」
当時のゲームはひとりでゲームデザイン、プログラミング、ミュージック、グラフィック、シナリオをこなさなければなりませんでした。幸い国語と算数・数学、音楽と美術の成績はよく、よいスタートが切れそうだ思いました。しかし壮大な物語を作ろうと思ったら足りないものがあったのです。それを考えたとき、名高い『孫子』に触れてみました。
兵法と初めて出会い、すぐに「これだ!」とピンときたのです。有名な和訳本がいくつかありました。しかし漢和辞典片手に自分なりの解釈をしたのです。戦争では負けない態勢はこちらの準備で達成できるが、勝つのは相手の態勢次第だと学びました。
その後、呉起氏『呉子』を筆頭に「
水野良氏『ロードス島戦記』を読んで未就学児に読んだ『アーサー王伝説』を再び思い出し、こういった「中世ヨーロッパのような」世界観の作品が好きなんだなと認識して、それも「命題」に加わったのです。
ここまでに挙がった「命題」をまとめると「出世物語」「推理」「兵法」「中世ヨーロッパのような」になります。これってそのまま『アーサー王伝説』なんですよね。「推理」は聖杯探求に当たります。
結局、最初にのめり込んだ物語が「命題」の核を担っているのだと気づかされました。
だから皆様にも「原点探し」をして、あなただから書ける「命題」を見つけ出してほしいのです。あなたが本当に書きたいのは「中世ヨーロッパのような」世界観の「異世界転生」「異世界主人公最強」の物語ではないのかもしれません。違うのなら「違う」とはっきりさせましょう。
あなたにしか書けない「命題」が「小説賞・新人賞」へ導いてくれますよ。
だからまず「読書遍歴」「視聴遍歴」「ゲームプレイ遍歴」を書き出してみましょう。そこから「命題」を見つけ出すのです。
命題からジャンルを決める
「命題」がしっかりと見えていれば、多くの「ジャンル」が書けます。
たとえば「ボーイズラブ(BL)」が「命題」なら、「現実世界恋愛」はもちろん「異世界恋愛」「異世界ファンタジー」「現実世界ファンタジー」「空想科学(SF)」も「スペース・オペラ」も、それこそありとあらゆるBL小説が書けるのです。
それを支えるのが「命題」になります。
小説投稿サイトで評価を得るには、「評価されそうな」物語を定期的に発表してください。
「評価されそうな」とは流行やヒット作の後追い、つまり「柳の下の二匹目の泥鰌を狙う」作戦です。評価されたいだけなら流行やヒット作の後追いでじゅうぶんといえます。
でも「わかっていても実行するのは難しい」のです。
「評価されそう」とわかっていても、あなたの「命題」とは相容れない物語かもしれません。
「ラブコメ」「ハーレム」が流行っていても、あなたの「命題」が「純愛」である場合。
無理して「ラブコメ」「ハーレム」ものを書くか、あなたが本当に書きたい「命題」である「純愛」を書くか。
結果を先に述べれば、今評価される「ラブコメ」「ハーレム」ものを書き続けるよりも、本当に書きたい「純愛」を追究したほうがよいのです。
小説投稿サイトでは確かに人気は出ず、評価も底を打つでしょう。しかし「小説賞・新人賞」へ応募するとき、有利に働く可能性があります。とくにお題が「純愛」だったら、「ラブコメ」「ハーレム」ものばかり書いてきた書き手よりも、「純愛」ものを書き続けてきた書き手のほうに一日の長があります。
今ではプロの書き手も「ラブコメ」「ハーレム」ものを多く書いているのです。とくに小説投稿サイト発の書き手が大量に商業デビューしたので「増えすぎた」とさえ言えます。
ライトノベルであっても「純愛」ものには需要があります。
水野良氏『ロードス島戦記』はパーンとディードリットの、川原礫氏『ソードアート・オンライン』はキリトとアスナの「純愛」によって物語が支えられているのです。
もちろん「命題」が「ラブコメ」の人は、苦もなく「ラブコメ」が書けて評価も高まります。違う人なら「命題」を貫こうとすると評価されず、さりとて「評価」を追い求めると「命題」が疎かになるのです。
どうしても書きたい「命題」がたまたま「異世界ファンタジー」だった。そのほうが自然です。「ジャンル」の先決めは「命題」を蔑ろにする本末顛倒な所業なのです。
命題はジャンルを越える
「命題」をはっきり認識していると、「ジャンル」はあってないようなものです。
「文学小説」に「エンターテインメント小説」をミックスしたり、「ライトノベル」をミックスしたりして、「ジャンル」の垣根や境界線を越えていきましょう。
そもそも「命題」には決まった作品の型はありません。
書いてみたら「異世界ファンタジー」だった。「現実世界ファンタジー」だった。「空想科学(SF)」だった。「スペース・オペラ」だった。それでよいのです。
また「異世界ファンタジー」と「異世界恋愛」にまたがる物語も数多あります。
「バトル要素のある恋愛小説」という一風変わった「ジャンル」も、「命題」が「純愛」「ラブコメ」「ハーレム」ならありうるのです。
だからまずあなたの「命題」を見つけましょう。そこから書きたい物語をジャンルなど気にせず考えてみる。
書きあげた「企画書」「あらすじ」つまり物語を読んでみたら「異世界ファンタジー」のようであり「異世界恋愛」のようであり「
コウモリになりやすいのですが、すべてを極めるつもりで努力すれば、どのジャンルでも通用する物語が書けるようになりますよ。
最後に
今回は「命題を見つける」について述べました。
先に決めるべきはジャンルではありません。「命題」です。
「命題」を見つけ出したらそれを活かす物語を作り、結果としていずれかの「ジャンル」に該当するかを判断しましょう。
そうすれば、あなたが読み手に伝えたい「命題」は確実に伝わりますよ。
小説は書き手の「命題」を読み手へ過たず伝えるために書くものです。「ジャンル」を伝えてどうなるのでしょうか。「寸暇の楽しみ」は与えられますが、後世に残せるような傑作にはなりません。
なお、今回はコラムNo.554、555を再構成致しました。
皆様には、まず「命題」探しをしてもらいたかったからです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます