1418.構文篇:書き出しのシーンは暗示する
今回は「書き出しのシーン」についてです。
結末は「書き出しのシーン」に対応していなけれはなりません。
もし噛み合わないと「書き出し」が蛇足になるのです。
書き出しのシーンは暗示する
「シーン」は時間と空間を固定します。もちろん「移動中のシーン」もありますが、たいていは列車で移動中であったり、並んで歩いて移動中だったりと、移動が持続している間はシーンが続くのです。そして目的地に到着したら終わります。
書き出しの「シーン」は物語世界の広さを暗示するのです。
初回を読んだ人がワクワクしてくるような広さを出せるかどうか。
それを考えてください。
シーンは時間と空間の塊
小説は「場面」で区切られています。この「場面」をとくに「シーン」と呼ぶのです。
「
一昨日、昨日、今日、明日、明後日の順で流れるのです。
当たり前だろう。
ツッコミが聞こえてきますね。
そう、至極当たり前なのです。しかし守っていない書き手があまりにも多いのが厳然たる事実。
たとえば昨日、今日ときていきなり一昨日に戻って明日へとつながる。
あるわけないだろう。
またツッコミが聞こえてきますね。
数多くの書き手の作品を添削してきてわかりました。たいていのアマチュアの書き手は「カットバック」つまり時間の流れをいったん止めて、いきなり過去の話を始めるのです。しかも頻繁に。
小説は現実世界と同様、「シーン」を時系列どおり並べてこそ価値があります。十万字の長編小説であればなおさらです。
どうしても「カットバック」で過去を印象的にしたいんだ。という方にはタイムスリップものだけ許しましょう。しかし過去を振り返っただけで「小説賞・新人賞」の評価は確実に下がります。選考さんが「構成力不足」を指摘するからです。
「カットバック」したくなったら「シーン」をまるまる使いたくなるところ、「現在」の「シーン」の中で主人公がチラッと「そういえばあのとき、○○があったな。」のように一行で終えてください。アマチュアの書き手はここから「過去」の「シーン」へ飛んで語ろうとします。それが悪手なのです。
なぜ現在の流れをぶった切ってまで「過去」の「シーン」で語ろうとするのでしょうか。
おそらく「十万字はなかなか埋まらない」と思っているからです。
前回述べたとおり、「三名でメインを張る」ならば全六章×「起承転結」で一話四千余字書いてぴったり収まります。足りないはずがないのです。
それをお話しするために、前回長編小説の構成を載せました。
「過去」の「シーン」を入れなくてもじゅうぶん足りているのです。そもそも全六章×「起承転結」でたったの全二十四話。その貴重な話数を割いてでも「カットバック」は必要でしょうか。おそらくなくても十全に語れます。
もし「過去」の「シーン」が欲しかったら、時系列どおりに「シーン」を並べればよいのです。あえて時系列を崩すのは「タイムスリップしたとき」だけ、くらいなら許されるでしょう。
タイムスリップものを時系列どおりに並べるとネタバレしてしまいますからね。ですが可能なかぎり時系列どおりに並べ、第一話以前の出来事が第一話に影響を与えている痕跡を書いておき「伏線」をしっかりと張る必要があります。
タイムスリップのような例外を除いて、基本的に「シーン」は時系列どおりに並べましょう。
物語舞台の広さを暗示する場所
場所にも一貫性を持たせるべきです。
基本的にひとつの「シーン」では「ひとつの場所」を書きます。
学校の職員室からスタートするなら、書き出しの「シーン」は「職員室」で収めてください。まぁ学校内でスタートして職員室に入って用事を済ませて出てきてもかまいません。この「シーン」が「職員室」を中心に動いていればよいのです。
これが「廊下から職員室に入り、用事を済ませて廊下を通り下駄箱を通って学校を出る」までが「シーン」だと長すぎます。まぁこの例なら「職員室」というより「学校」を舞台にした「シーン」と考えたほうがよいでしょう。
このように同じ「ひとつの場所」の言葉でも、「職員室」限定か、広く「学校」ととるかで舞台の大きさは変わります。
一般的に書き出しでは狭く限られた「ひとつの場所」にするべきです。つまり「職員室」とピンポイントで場所を絞ったほうが読み手は集中できます。もし「学校」を舞台にしてしまうと、かなりの場所を行き来するのでどうしても落ち着きません。
「職員室で怒られる」シーンから始めて、「家へ帰る」シーンに移ると、世界が自然に広がってくるのでオススメです。
もちろんこれは「学園」ものの場合。
「異世界転移」ものなら書き出しを狭くするより、「学校」くらい広げたほうが「異世界」の大きさを暗示できてワクワクするような世界観にできます。
書き出しの「シーン」の「ひとつの場所」は、物語全体にとってどのくらいの広さがあるのかを暗示するものなのです。「職員室」だけの「シーン」からスタートして、全宇宙を巻き込む一大事件を暗示できるでしょうか。ワクワクしてくるでしょうか。
難しいと思います。「職員室を出て帰宅している途中」の「シーン」くらいなら空間的な広がりがあるため、全宇宙を巻き込む一大事件を暗示しなくもない。
ですがそもそも「職員室」で叱られる「シーン」が全宇宙を巻き込む一大事件と結びつくのかが怪しいですよね。それなら「職員室で叱られた日の夜に星空を見上げているシーン」のほうが、宇宙を暗示させるのでよりよいスタート「場所」と言えるでしょう。
小説投稿サイトで流行りの「異世界転生」も、本来なら世界観の広さをアピールするような「ひとつの場所」からスタートするべきです。多くの作品では死神や天使の不手際でトラックに轢かれて死んでしまう、というだけの作品が多い。これだと世界観の壮大さは暗示できません。
物語の書き出しの「シーン」は、その後の物語世界を暗示する役割があります。
これを「俺はトラックにハネられた。……はずなのだが痛みをまったく感じない。宙をフワフワと浮いているようだ。これってつまり「死んだ」ということだろうか。となればそろそろ天使や死神なんかが現れてもいいんじゃないか。」なんて書いたら、どこの「場所」で書き出しの「シーン」が繰り広げられているのかがまったく伝わりません。物語の舞台の広さを暗示できているでしょうか。
もし「時間が止まった街を見下ろしている。」ようなら、浮いているわけですからそれなりの空間の広がりが想定できます。「止まった時間と漂う空間の場所」から全宇宙を巻き込む舞台の広さは暗示できるのです。読み手もワクワクしてきます。
しかし多くの作品では、暗示している世界の広さをまったく無視して、小さな物語が繰り広げられているのです。当初のワクワク感が失望に変わります。だから連載を進めるほど読み手が減っていくのです。
元来「異世界転移」「異世界転生」は「現実世界から異世界へ移動する」ので、単なる異世界よりも物語世界は広がりやすくなります。
同じ仕組みが「VRMMORPG」ものです。こちらも「現実世界からゲーム内世界へ移動する」ため、ゲーム内世界と現実世界がつながっている広い舞台に設定できます。
ですが、正直ここまで頭のまわっていない書き手が多いのです。
重要なので念押しを致します。
書き出しの「シーン」は作品全体の「舞台の広さ」を暗示します。
全宇宙を舞台にする作品なら、書き出しの「シーン」の「ひとつの場所」も当然広さを感じさせなければならないのです。
箱庭世界であれば、路地裏でスタートしてもよいでしょう。
戦場が舞台となるなら、戦場を意識させる「場所」から始めます。
この「イロハのイ」を念頭に置きながら、書き出しの「シーン」の「ひとつの場所」を決めましょう。
最後に
今回は「書き出しのシーンは暗示する」について述べました。
「シーン」は時系列どおりに並べてください。過去に「カットバック」してよいのはタイムスリップものだけです。
また書き出しの「シーン」は作品全体の「舞台の広さ」を暗示します。
大陸を股にかける冒険譚なら、世界を暗示するような広い空間を書き出しに持ってきましょう。
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