1364.物語篇:物語108.平穏が崩れた世界
毎日連載1,300日目となりました。約三年半お付き合いいただきまして誠にありがとうございます。
今回は「平穏が崩れた世界」についてです。
ちょっと重めの話にしました。
21世紀に起こった世界を震撼させた出来事です。
物語108.平穏が崩れた世界
私たちは今、平穏な生活を取り戻しています。
しかしそれは過去幾度となく崩されては取り戻すを繰り返した結果なのです。
平穏が崩される物語と、平穏を取り戻す物語によって、現在の平穏は保たれています。
これはドラマチックではあっても台本はありません。
アメリカ同時多発テロ事件
2001年9月11日アメリカ合衆国。ワールド・トレード・センタービルへ旅客機2機が突撃してビル2棟が崩落します。またもう一機の旅客機が国防総省本部庁舎、通称「ペンタゴン」へ突っ込みました。
それまで平穏だったニューヨークは、一転して地獄絵図と化したのです。
イスラム過激派組織「アルカイダ」の犯行とされ、指導者のウサマ・ビン・ラディン氏を掣肘するべくアメリカ軍はアフガニスタンへ派兵されます。
これは不当な攻撃に対する正当防衛であり、首魁を殺害するのは正義の行為とみなされたのです。
アルカイダの必死の抵抗にあいながらも、ついにビン・ラディン氏を発見し、射殺しました。
アメリカ軍は作戦はここまでとして大部分は撤兵しています。しかしのちにアルカイダとつながりのあるイスラム過激派タリバンによる散発的なテロが起こり、組織的なテロを排除するまでに多くの年月を必要としました。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、2016年大統領選挙の公約としてシリア、イラクに加えてアフガニスタンからの米軍撤兵を主張して当選したのです。そして2020年10月7日にアフガニスタン駐留米軍をクリスマスまでに完全撤退させる意向を示しました。
これにより2001年から続いた「アメリカ同時多発テロ事件」はひとつの終結を迎えます。
この図式は平穏が崩されて、元凶を排除して、平穏を取り戻す物語ではあっても、どちらかといえば「剣と魔法のファンタジー」の「勇者と魔王」の物語です。
魔王ビン・ラディンが勇者の国を蹂躙し、荒れ果てた国から勇者が旅立ち、魔王の地へと乗り込んで魔王を倒して凱旋する。
アメリカは事件が起こるとすぐに「勇者と魔王」の物語に仕立てて、魔王を討伐してハッピーエンドを演出してきました。
太平洋戦争も、日本海軍にわざと真珠湾を攻撃させて「勇者と魔王」の物語に仕立てたという陰謀論がまことしやかに囁かれていた時期もありましたね。
ベトナム戦争も「勇者と魔王」の物語に仕立てて、ベトナム国内での大規模内戦を主導します。しかしベトナム人の必死の抵抗に遭い、またアメリカ国内でも反戦運動が激化したため、共産主義勢力を根絶できずにベトナムから撤兵したのです。
これがアメリカ建国以来初めての敗戦だとされていますが、当のアメリカは「敗戦」だと認めていません。「勇者」が敗れてはならないとお伽噺の頃からアメリカ人に植え付けられているからです。
日本でも豊臣秀吉氏による朝鮮出兵を「負け戦」とは見ない勢力が強く、「神の国日本は常勝である」と主張して日清戦争、日露戦争を経て、国力差を顧みない太平洋戦争へと突き進んでしまうのです。賛否は分かれますが、原子力爆弾を広島と長崎に落とされて、ようやく日本軍部は敗戦を悟りました。そうなるまで「神の国」を夢見ていた軍部の目は醒めなかったのです。
東日本大震災
2011年3月11日日本。東日本沖合でマグニチュード9.0、最大震度7の大地震が発生し、東日本沿岸部には最大で10メートルを超える津波が押し寄せました。これにより岩手県から福島県までの沿岸都市は破壊され、さらに福島県の福島第一原子力発電所で原子炉二基が損傷し、燃料棒が
東日本大震災はまったくの不意討ちでした。それまで大地震の予測は首都直下地震と南海トラフ巨大地震だけを対象にしていました。しかしそれとはまったく震源域の異なる東日本大震災は予測のための観測データすらとられていなかったのです。首都直下地震の予測のために各地に整備されていたGPS測位計でひずみが指摘されていました。しかしそれが東日本大震災の予測には結びつかなかったのです。
結果として「巨大地震の予測」は廃止されました。いくら観測データを収集しても、いつ巨大地震が起こるのかを予測できないと判断されたのです。もし予測できるのなら、東日本大震災も予測できたはずですからね。
兆円単位の資金が投入された「巨大地震の予測」はまったくの無駄金に終わりました。
今は「巨大地震の発生確率」だけを発表する形に落ち着いています。
福島第一原子力発電所の核燃料棒貯蔵プールからの核燃料棒取り出しは当初2014年末からとされていましたが、遅れに遅れ4年以上ずれ込んで2019年から開始されました。3号機は2011年3月14日に水素爆発を起こして原子炉建屋が激しく損壊し、核燃料棒貯蔵プールやその周辺にも大量のがれきが散乱してしまいました。これを取り除く作業は遠隔操作に頼らざるをえず、また2018年3月に核燃料棒取り出し設備の試験運転開始を始めた後も、クレーンの異常やケーブルの腐食などトラブルが多発したため、翌年になってようやく取り出しが開始されたのです。しかも核燃料棒貯蔵プールにあった核燃料棒566体のうち、2020年3月1日までに91体しか取り出せていません。東京電力はそれでも2020年度内の完了を目指してはいます。
1号機も水素爆発を起こしていたため原子炉建屋の屋根が崩落して核燃料棒を取り出すための巨大な天井クレーンも落下してしまいました。東京電力は1号機の核燃料貯蔵プールからの取り出しを当初2023年度を目処にしていましたが、2019年末に工程表を変更し2027年度から28年度に先送りしています。
このように、予測もできない事態が発生したとき、平穏は一瞬で崩壊するのです。
「原発安全神話」はいともたやすく崩れ去りました。
福島第一原子力発電所の四基廃炉が完全に終了して平穏に戻るまで、東日本大震災は終わらないのです。
このように、自然災害は突発的に発生して平穏を崩します。
SF作家の小松左京氏『日本沈没』も突発的に発生して平穏を奪われます。物語であっても、自然災害は突発的であり、壊滅的なダメージを受けるのです。
今年、ブラジルやアメリカ、オーストラリアで大規模な森林火災が発生し、豊かな生態系が危機に瀕しています。十万種を超える動植物が絶滅の危機に陥っているのです。
「自然を甘く見てはならない」
これは含蓄のある言葉です。
私たちは、自然の中で生きています。自然を破壊したら取り返しのつかない結果を招きます。その前に、事実を受け止めなければなりません。
地球は私たち人類のみならずあらゆる動植物が乗る「ノアの方舟」なのですから。
最後に
今回は「物語108.平穏が崩れた世界」について述べました。
私たちはさまざまな事件・事故を経験しながらここまで大きく成長しました。
21世紀に入ってからも、アメリカ同時多発テロ事件、サブプライム・ローン問題、リーマン・ショック、東日本大震災と多数の困難を経験したのです。
これから先もさまざまな事件・事故が待ち受けているでしょう。
新型コロナウイルス感染症は中国が開発した「バイオ兵器」とも言われていますが、実態は定かでないのが事実です。
私たちはこれから起こる事件・事故からどんな影響を受けるのか。今知る者などひとりもいません。
だからこそ「平穏が崩れた世界」の物語は、真に迫るのです。
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