1333.物語篇:物語77.コメディーは真面目に書いたほうが面白い

「コメディー」ほど、書き手の才能が問われるジャンルはありません。

 笑いを文章で書ける人は、ひじょうに感度が高いのです。

 多くの書き手は「コメディー」が書けません。なぜならどういったものが「コメディー」なのか知らないからです。

 だからどうしても「ウケ」を狙いすぎてしまいます。

 それではいつまで経っても「コメディー」は書けません。「コメディー」を書いたつもりでも、出来上がったものはただエピソードが書いてあるだけ、ということがよく起こります。





物語77.コメディーは真面目に書いたほうが面白い


 数ある小説のジャンルで、最も難しいのが「コメディー」です。

「コメディー」には才能が求められます。たいていの書き手は読み手をくすりとも笑わせられません。そもそも文字しか書けない小説で、笑いをとるのが難しいのです。




ウケを狙いすぎない

「コメディー」といえば「笑わせてなんぼ」です。笑えないものは「コメディー」とは呼べません。

 ただ大笑いを狙う必要もない。くすりと笑える程度でじゅうぶん「コメディー」小説として認知されます。

 現在人気のある「ラブコメ」も「コメディー」である以上、くすりと笑える要素がなければなりません。

 ウケを狙いすぎると、どうしてもあざとくなりがちです。いかにあざさくならないでくすりと笑わせられるか。大笑いさせなくてもかまいません。

「ウケ狙い」は主に「シチュエーション・ギャップ」が要因です。

 どんな状況シチュエーションでそれにふさわしくない「ギャップ」を生み出すのか。

 たとえば高所恐怖症の主人公にエベレストを登らせる。登りは後ろを見なければよいでしょう。しかし下りはなかなか難しいかもしれません。否が応でも高さを感じてしまいますからね。ここで足がすくんだ主人公の姿を見せれば笑いがとれる、というほど簡単なものではないのです。

 こんな状況で笑いがとれるとしたら「コント」だけ。同じシチュエーションでも文字で笑いがとれるわけではないのです。

 お笑い番組が好きでよく見ている。だから「笑いには詳しい」と思って文章にしても笑えません。

 ではなぜお笑いコンビ・ピースの又吉直樹氏が芥川龍之介賞を獲れたのか。

 文字だけで笑いがとれる方法を理解していたからです。トークバラエティー『アメトーーク!』に「読書芸人」として出演した際、彼の文学愛が本物であると誰もが理解しました。それほど小説を読み込んでいる彼だからこそ、「文字での笑いが難しい」と理解しているのです。

 あえて笑わせたいシチュエーションを用意して、その中でギャップを作る。

 これは狙いすぎです。

 どんなシチュエーションでも、活かしたギャップを生み出せば「くすりと笑え」ます。

 笑わせるためだけのシーンは要らないのです。必要なシーンの中でいかにしてギャップを生み出すか。物語に必要なシーンとは、進行で不可欠なシーンです。つまり「コメディー」がなくても物語として成立します。そこにあえて「コメディー」を入れるから、自然に「くすりと笑わ」せるギャップが生み出せるです。




シチュエーション・ギャップ

 このようにシチュエーション・ギャップで笑いをとりたいなら、笑わせるためだけのシーンは設けず、進行に必要なシーンでギャップを作ってください。それが小説においてのシチュエーション・ギャップを活かした笑いです。

 たとえば「崖っぷち」という単語で笑いをとりたいから、崖の上のシーンをあえて入れる。そして「さすがのきさまも崖っぷちだな」と言わせてみる。これで笑えますか、ということです。「崖っぷち」で笑わせたいから「崖」のシーンを設けるのでは、あからさますぎて笑えないのです。

 物語の進行で敵が「崖」に拠点を構えていて、そこを急襲した勇者パーティーが「ここまでだな。わざわざ守りにくい崖の上に陣を構えるとは。さすがのきさまも崖っぷちだな」というのなら、ふたつの感想が出てきます。

 ひとつは「なぜ崖の上に陣を構えたのだろうか」、もうひとつは「あぁ崖と崖っぷちをかけているのか」です。

 このひとつめの感想があるため、ふたつめにある笑いがとれません。

 であれば、ひとつめの感想に必然を持たせるため、なぜ崖の上に陣を張ったのか。陣を張ったとき明確に書いておく必要があります。

 つまりひとつめの感想を潰しておけば、ふたつめの感想だけが思い浮かぶのです。

 そうなって初めて「崖と崖っぷちをかけたのか」だけが浮かんでくすりと笑えます。

 コラムでは長い例文が書けないので、ここだけを見ても笑いはとれません。ですが、長編小説なら、どのような仕組みで「シチュエーション・ギャップ」を笑いに変えられるかがわかってきます。

 それでも小説で「シチュエーション・ギャップ」による「コメディー」には限界があるのです。




言葉遊び

 小説において最も笑わせやすいのが「言葉遊び」です。

 たとえば「大人気ない」を「おとなげない」と読ませたいのに、登場人物が「だいにんきない」と読んで「違うでしょ」とツッコませる。同じように「人気ない」を「ひとけない」と読ませたいのに、登場人物が「にんきない」と読んでツッコまれる。

「手紙を認める」を「手紙をみとめる」と読ませるのもこのパターンです。

 誤読されやすい表現をあえて誤読して読み手を楽しませるのが「言葉遊び」の大きな手段となります。

「言葉遊び」のよい点は、ルビを振らない小説だけが使える技だというところです。

 アニメやドラマでは漢字が見えないので、登場人物に「だいにんきない」と言わせても、視聴者は誰も気づきません。マンガでも文字を読ませられますが、たいていのマンガではすべての漢字にルビが振ってあります。ただひとつ小説だけが「漢字にルビを振らずに読み手へ見せら」れるのです。

 だから、小説ならではの笑いをとりたければ「言葉遊び」を多用しましょう。読み手も「なぜそう読むんだよ」とツッコミながら読めるため、ひじょうに読みやすいですし、理解しやすい笑いです。

 しかし難点もあります。アニメ化など映像化しづらいのです。

 とくにメディアミックス戦略を旨とする「小説賞・新人賞」では、どんなに「言葉遊び」がうまくても大賞が獲れないのです。

 やりやすくてウケやすいのに「小説賞・新人賞」が獲れない。これでは本末転倒ですね。

 ではどうすれば「小説賞・新人賞」が獲れる「コメディー」を生み出せるのでしょうか。




シチュエーション・ギャップの価値

 ここでもう一度原点に帰ります。「シチュエーション・ギャップ」です。

 つまり笑いが「シチュエーション・ギャップ」でなければ大賞は獲れません。

 安易で書きやすい「言葉遊び」はノリがよく、すらすらと読めます。でも大賞にはなれないのです。

「面白い」からと「言葉遊び」を極めても大賞には届きません。つまり小手先のテクニックでは「笑い」として通用しないのです。

 物語に欠かせないシチュエーションで、その場に合わないことをしたり言ったりする。だからくすりと笑いがとれます。

 そしてこうした「シチュエーション・ギャップ」にこそ、大賞の可能性があるのです。

 たとえば「男女の入れ替わり」のパターンだと、付いているものが付いていない、付いていないものが付いている。それを書くだけで笑いがとれます。

 シチュエーションで「笑いをとる」のはまさにこのパターンです。

 そのシチュエーションでふさわしくない描写ができるかどうか。

 文字だけで説明するのが難しい。ですが「シチュエーション・ギャップ」を極めれば「小説賞・新人賞」に必ず近づけます。

 どちらがすぐれているかと言えば「シチュエーション・ギャップの勝ち」なのです。(ここも言葉遊びをしています)。




真面目にボケる

 物語ではよく「ボケ役」がいて、その人物にボケを担当させます。

 しかし小説ではいわゆる「ボケ役」は必要ありません。ふざけてボケるためのキャラなんて要らないのです。

 小説では「真面目にボケて」ください。

 いつも純真で真面目な人物がふと「ボケて」しまうからくすりと笑えます。

 四六時中「ボケる」キャラなんてお笑い番組の見すぎです。

 笑える小説には、普段笑わないような真面目な人物が多い。そういった人物がズレてギャップを生むから笑えるのです。

 ギャップのない作品では笑えません。

 つまり「笑わせたければ、真面目にボケる」のです。





最後に

 今回は「物語77.コメディーは真面目に書いたほうが面白い」について述べました。

「言葉遊び」の笑いは小説ならではであり、書けばたいていウケます。しかしメディアミックス戦略には乗せられないので「小説賞・新人賞」で大賞にはなれません。

 難しいですが「シチュエーション・ギャップ」での笑いを重視してください。

 追い込まれれば追い込まれるほど「ギャップ」が生じやすくなります。

「真面目にボケる」精神を忘れないようにしましょう。

 次回も「コメディー」についてです。久しぶりの予告ですね。というよりストックがそこまでしかないのです。早めにストックを作らないといけませんね。物語の種類を77個も考えればもう搾りカスすら残らないくらいです。ここからさらにもうひと絞りして何個思いつけるか。これは過去の自分との勝負です。



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