1331.物語篇:物語75.たったひとりの存在

 今回は「たったひとりの主人公」についてです。

 主人公はその世界で「たったひとりの存在」でなければなりません。

 替えがきいてはならないのです。

 だから主人公は試練を課されます。





物語75.たったひとりの存在


 小説には主人公がいます。当たり前ですね。

 しかし「どこにでもいる人物」では主人公として際立ちません。それではモブキャラと大差ないからです。

 主人公はその世界で「たったひとりの存在」だからこそ「主人公」たりえます。




生まれたときから特別な存在

 ライトノベルの主人公は、なぜか「天才」「王侯貴族の子弟」「勇者の末裔」が多い。前世が「魔王」だったは今の流行りですかね?

 いずれにせよ生まれたときから「特別な存在」です。

 まったく特別感のない主人公には憧れを抱けませんから、主人公に特別感を足して惹きつけようとの策だと思います。

 それ自体は昔からありました。桃太郎だって大きな桃から生まれていますし、かぐや姫も光る竹から生まれているのです。

 また古典的な「剣と魔法のファンタジー」なら、主人公は「王侯貴族の子弟」か「勇者の末裔」と相場が決まっています。

 平和を愛する亜人が主人公になるケースもありますが、その場合は三人称視点になりやすいのです。

「特別な主人公」は物語を作りやすい利点もあります。

 特別であるがゆえに、その要素自体が事件を引き起こすのです。

「王侯貴族の子弟」なら誘拐されやすいですし、親が敵を作っているはずですから命を狙われかねません。

「勇者の末裔」なら国家や世界の危機を救ってくれと王様からご下命を受けるのです。

 生まれたときから「特別な存在」であれば、幼い頃からさまざまな試練が待ち構えています。金持ちのボンボンは現代日本ならそれほど事件に遭いませんが、海外ではつねに誘拐や命を狙われる対象となっているのです。

 異世界ファンタジーでもそれは同じ。「特別な存在」は誘拐や命を狙われやすい。長じてもやはり暗殺の対象になります。

 同じような「特別な存在」が他にもいるからです。「特別な存在」の数を減らして自らの価値を高めようと画策する者がいます。

 たとえば「王位継承権二位」なら「王位継承権三位」から命を狙われかねません。そしてもし「王位継承権二位」が暗殺されたら次は「王位継承権一位」つまり「王太子」が危うくなります。

「特別な存在」とは確かに他者から優遇されますが、特権に伴って身の安全は保証されません。だから子供の頃から剣術や馬術などを教え込まれて立派な「騎士」になれるよう躾けられます。

「特別な存在」も案外大変なんですね。




あるきっかけで特別な存在に

 最初は「平凡な存在」でありながらも、あるきっかけで「特別な存在」になる主人公もいます。

 日本では特撮ドラマの円谷プロダクション『ウルトラマン』シリーズが挙げられるでしょう。科学特捜隊に所属するハヤタ隊員が事故に遭い、そこでM78星雲出身の宇宙警備隊隊員「ウルトラマン」が宿って変身できるようになります。

 アニメの富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』なら主人公アムロ・レイが住んでいる宇宙コロニー・サイド7にジオン公国軍のモビルスーツ・ザクが現れて暴れるのです。アムロは操縦マニュアルを手に地球連邦軍が開発した新型モビルスーツ・ガンダムに乗って二機のザクを撃破します。それまでモビルスーツなんて動かしたことのないアムロが、ザクの急襲を受けてパイロットとしてガンダムを操る「特別な存在」になったのです。

 マンガの冨樫義博氏『幽☆遊☆白書』では手違いで死んでしまった浦飯幽助が「霊界探偵」になる条件で生き返り、さまざまな妖怪たちと戦う日々が始まるのです。

 マンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』なら海賊に憧れる「平凡な主人公」モンキー・D・ルフィが悪魔の実を食べて「ゴム人間」という「特別な存在」になります。仲間たちを集めて「ひとつなぎの大秘宝」を探し出し「海賊王」になる物語のはずです。

 このようにごく「平凡な存在」があるきっかけで「特別な存在」になる物語は長年にわたって愛される物語になりやすい。

 問題は「どんなきっかけ」が「特別な存在」となるために必要なのか。それを決めるのが難しいのです。現在はさまざまな「きっかけ」が出尽くしているような状況なので、どうしてもなにかの作品と同じか似た「きっかけ」になりやすくなっています。

 強引に回避したのがマンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『プラチナエンド』です。「平凡な存在」が「自殺しようとしていた」ところに天使が現れて「神候補」に選ばれます。「自殺しようとしていた」が「きっかけ」という斬新な発想です。

 もちろん「平凡な村人」が冒険の旅に出て、さまざまな困難を乗り越え、最終的に「特別な存在」となる物語も定番であり鉄板な展開になります。




特別なのはただひとり

「剣と魔法のファンタジー」ではさまざまな能力者が登場します。

 しかし「特別」なのはただひとり、主人公だけです。

 なぜでしょうか。

「主人公」だからです。

 これで終わったら猛烈な批判がきそうですね。

 さまざまな能力者の中でも「特別」な主人公は、物語の形そのものを決めます。

 たとえばマンガの荒木飛呂彦氏『ジョジョの奇妙な冒険』の主人公「ジョジョ」は特殊な能力を持っています。「波紋」だったり「スタンド」だったり。主人公によって能力が異なり、それが物語全体へ影響を与えます。

 正直な話、脇役がいくら特殊な能力を持っていても、主人公の「特別」な能力のほうが強いのです。ジョジョ第三部スターダストクルセイダースの主人公・空条承太郎のスタンドは速さの「スタープラチナ」、「対になる存在」のDIOのスタンドは時を止める「ザ・ワールド」。どちらが有利かは言わずもがなです。

 しかし主人公は「特別」。どんなに劣っていても必ず逆転します。

 承太郎も「時を止めるほど高速で動く」という「スタープラチナ・ザ・ワールド」へとスタンドを進化させてDIOに勝ちました。第四部ダイヤモンドは砕けない以降「時を止める」際には「スタープラチナ・ザ・ワールド」と宣言して意図的に「時を止めて」いるのです。

 承太郎がスタンドを覚醒・進化させたのだから、他のキャラもできてよさそうなものですが、なかなか見ませんよね。やはり承太郎が「主人公」だからできたのでしょう。

 おそらく荒木飛呂彦氏は承太郎を「ジョジョ」内で最強のキャラにしたかったのかもしれません。ある意味「ひいき」ですね。でもそんな「ひいき」は当たり前。そもそも主人公に愛着がなければ長期連載なんて続けられませんよ。

「こんな最低な主人公の活躍を書こう」なんて考える書き手はひとりもいないでしょう。

「最低の主人公」は「最低の最期」を迎えるものです。

 そうしないと読み手が納得しませんからね。これも一種の「勧善懲悪」です。

「たったひとりの特別な主人公」はほとんどすべての物語で見られます。逆に「特別なものがなにもない主人公」を思いつけるでしょうか。なかなか難しいはずです。

 とくに少年マンガの延長としての「ライトノベル」では「たったひとりの特別な主人公」が合います。少年マンガに「特別なものがなにもない主人公」なんていたでしょうか。たとえいたとしても、たいていが周りにいる人が皆「特別な存在」だった場合だけでしょう。堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』の主人公・緑谷出久は当世珍しい「無個性」でした。しかしヒーローになりたい意気込みを買われて世界一のヒーローであるオールマイトから個性「ワン・フォー・オール」を授かります。この時点ですでに「たったひとりの特別な存在」になってしまったのです。

 少年マンガの主人公は当然のように「たったひとりの特別な存在」になります。やはり少年の夢なのでウケるのでしょうね。





最後に

 今回は「たったひとりの存在」について述べました。

 主人公は物語にたったひとりしかいません。

 たとえ群像劇であっても、メインとなる主人公はひとりと決まっています。

 そんな主人公は「特別」でなければなりません。

 脇役と同じであれば、そもそも主人公にする意味がないのです。

 ちょっと変なところでもよいので、主人公は他とは違う「特別」なものを持たせましょう。



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