1330.物語篇:物語74.異世界召喚
最近は「異世界転生ファンタジー」が人気ですが、それ以前は「異世界転移ファンタジー」ももてはやされていました。
そんな「異世界転移ファンタジー」に近いものに「異世界召喚」があります。
「異世界転移」はなにがしかの超常の力が働いて「偶然」別の世界「剣と魔法のファンタジー」へと飛ばされます。
対して「異世界召喚」は異世界の誰かから呼ばれて連れてこられたパターンです。
物語74.異世界召喚
「異世界転移」に近い物語に「異世界召喚」があります。
「異世界転移」が偶発的な事故であれば、「異世界召喚」は呼び出した者の起こした事件です。
現実世界のような元の世界へ戻るためには、召喚者の力を借りなければなりません。
異世界に召喚される
異世界に召喚されるには、それだけの理由が必要です。
たとえば「最強の剣士」とか「最強の魔術師」とか「最強の勇者」とか。「世界最強」の人物と指定して召喚されます。
しかしその条件で誰が召喚されるかは神のみぞ知る。宮本武蔵氏かもしれないし沖田総司氏かもしれない。誰が選ばれるかはまったくわからないのです。
そもそも異世界と現実世界で時の流れは同じなのかすらわかりません。
もし現実世界と同じ時の流れであれば、今異世界で「最強の剣士」を召喚したら、呼び出されるのは剣道日本一かもしれませんし、フェンシング世界一かもしれませんし、もしかして古武術に長けている藤岡弘、氏や岡田准一氏かもしれません。
では「最強の魔術師」を今召喚されると誰が呼び出されるのでしょうか。
手品師のデビッド・カッパーフィールド氏にしても、メンタリストDaiGo氏にしても、「魔術」を使っているわけではないですからね。召喚魔法を使っても空振りになる確率が高い。
もし普通の高校生が召喚されてしまったら。それこそ事件です。
「最強」の要素なんてまったくない高校生が「最強の○○」で召喚される。周囲の期待が高いぶん、高校生には大きな負担となります。
「なんとしてでも世界最強にならなければ」と焦ってしまうはずです。
しかしある程度分別があれば「自分には実力がないので、先に修行させてくれ」と言ってどこかに弟子入りすることでしょう。
私が構想している長編四部作の三作目「戦記」(仮名)の主人公は、そんな「普通の日本人が異世界に召喚された」物語になっています。かなり構想はできているので、あとは「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の順に送り出せば形になるのです。まぁまだ一作目「神話」の『秋暁の霧、地を治む』をある程度片付けてからスタートしますけどね。
現代日本人は召喚に値しない
現代日本で「剣と魔法のファンタジー」に適した人物がいるとすれば、「剣士」か「政治家」か「商人」か「盗賊」くらいでしょう。「医師」だってほとんどは医療機器がなければ役に立ちませんから。「刀鍛冶」ならかなり重宝がられるでしょうが、今どき「刀鍛冶」なんてほとんどいません。
「空手家」「拳法使い」という手もありますが、魔物相手に打撃技は通じるのでしょうか。それこそ「気功」や「発勁」でも使わなければまったく通用しないはず。
以前ご紹介した雑賀礼史氏『召喚教師リアルバウトハイスクール』がまさにこのパターンで、現代日本で教師をしながら異世界へ召喚されて勇者として戦う南雲慶一郎の日常を描いています。
現代日本人で「異世界召喚」に値する人物なんてほんのわずかしかいません。
そんなごく少数を「異世界召喚」しても多くの中高生には響かない。「へぇ、そんな職業があったのか」くらいの反応です。これで面白い物語になりそうだ、と思うほど単純ではありません。
であれば「平凡な高校生」が「異世界召喚」されたけど、異世界で通用する技能なんてなにひとつ持っていないほうが自然ですし、読み手もすんなり物語へ入っていけます。
主人公に与えられるのは「任務達成」か「死」かです。役に立たない人物は元の世界へ戻してもらえず「死ぬ」まで異世界で暮らさせられます。
野球のバッターなら、剣の握りを教えれば両手剣の使い手にはなれそうですね。弓道をやっていれば長弓や短弓は程なく使いこなせるかもしれません。剣道家なら剣の重さに慣れればある程度役に立つでしょうが、剣術家のほうが日頃から重い真剣を振りまわしているぶん適応は早いはずです。
野球のバッターは別として、武術や剣術や弓術などに精通していないと即戦力にはなりませんし、とてもではないですが「異世界の救世主」にはなれません。
どうにかして「平凡な高校生」を「異世界の救世主」にするのが書き手の務めです。
主人公にどんな役目を課して、どんな技能を身につけさせるか。
これってゲームの育成に似ていますよね。
物語を創るのって「ゲームキャラの育成」のようなものなのです。どんなふうに育てていけば「平凡な主人公」が「最強」になれるのか。先々の展開を見越して必要となりそうな技能を身につけさせます。
小説とくに「異世界ファンタジー」のライトノベルを書きたい方は、最低限「ゲームキャラの育成」能力が必須です。
もし「ゲームキャラの育成」能力が不足していると感じたら、スクウェア・エニックス『FINAL FANTASY』『DRAGON QUEST』、ポケモン『ポケットモンスター』などをプレイして、実際に「キャラの育成」を体験してみましょう。物語を楽しみながら、どうすれば面白くなりそうかを考えられますよ。それに多くの物語に触れられるので、創作意欲も湧いてきますしね。
もっともらしい事実
「異世界召喚」された人の感じ方は、書き手の感じ方がそのまま反映されます。
あなたが「面白そうな世界だなぁ」と感じるのであれば召喚された「平凡な主人公」も「面白そう」と感じますし、「なんとかして現代日本へ帰らなきゃ」と焦っていれば「平凡な主人公」も焦るのです。
あなたが思わないものは主人公も思いつきません。
その意味で「異世界召喚」は書き手の感受性を浮き彫りにします。
どれだけ多様な感受性を持っているかで「異世界召喚」は面白くもつまらなくもなるのです。
小説は「真実」を書くのではありません。「もっともらしい事実」を書くのです。
この「もっともらしい事実」は「根拠のない自信」のようなもの。
どんな屁理屈であろうと「そういうものです」と言い切れれば、すなわち「あなただけの世界観」となります。
これは「異世界ファンタジー」だけでなく「現実世界ファンタジー」や「SF」にも通じる法則です。
たとえば「重力が上に働く世界」という設定を考えた際、「それって上と下がひっくり返るから結局同じなんじゃないの?」というツッコミが必ず入ります。
ですが「ここは重力が上に働く世界ですが、地表に出ると重力は下に働きます」と答えれば「そういう世界観」を生み出せるのです。
鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の主人公・上条当麻は「レベル0」の無能力者とされていますが、右手にはどんな異能も無効にする「
でもちょっと待ってください。「
たとえ「異世界召喚」でとくに秀でた技能を持っていない主人公も、ちょっと特訓すれば達人レベルになる。そんなご都合主義でも書き手が疑いもなく押し通せば「そういう世界観」になります。
すぐれた書き手は「自身の構想」をためらいもなく押し通して「そういう世界観」を創り上げるものです。「科学的にありえない」なんて小説には無用の考え方と言えます。
あなたも、もし今書いている作品で論理的な矛盾が生じてしまっても「ファンタジー」「フィクション」であれば押し通してください。そうすれば「そういう世界観」になります。
変に整合性をとろうとすれば、かえって「世界観がブレている」とみなされるのです。
「世界観を押し通す」意志の強さを持ちましょう。
最後に
今回は「物語74.異世界召喚」について述べました。
現代日本では召喚に堪えうる職業や特技をあまり見ません。「異世界召喚」には不向きな社会なのです。
それでも「世界観を押し通せ」ば「そういう世界観」だと定義できます。
空手道の達人が異世界に召喚され、手刀でゾンビを斬りまくってもかまわないのです。
現実的でなくても、押し通せば「そういう世界観」になります。
変に妥協すると「世界観がブレている」ように見えてしまうのです。
だから「ファンタジー」「フィクション」を書くときは「そういう世界観」だと確信を持って書いてください。そうすればツッコミも怖くなくなりますよ。
ただ致命的な齟齬も生じる可能性がありますから、それだけは回避してください。
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