1296.物語篇:物語40.ボーイ・ミーツ・ガール

 今回は多くの物語が踏襲する「ボーイ・ミーツ・ガール」についてです。

「少年は少女に出会う」

 そこから始まる物語が数多くあります。





物語40.ボーイ・ミーツ・ガール


 これほど多くの作品で採用されている物語も少ないのではないか、というのが「ボーイ・ミーツ・ガール」です。

「ボーイ・ミーツ・ガール」とは「少年は少女と出会う」と直訳できます。

 どんな物語でも「恋愛」要素は不可欠です。しかしたとえ「恋愛」に発展しなくても、少年と少女の出会いから物語は転換するきっかけを与えられます。

 以下は少年が主人公という前提ですが、少女が主人公の場合でも同じような展開を想定できるはずです。




謎の少女との出会い

 少年はある日突然、謎の少女と出会います。

 素性がわからないのは初対面ですから当たり前です。

 どんな裏を持っているのかわからない少女をそのまま受け入れてよいものか。考える時間がない状況もあります。

 少女の追っ手が現れて所在を尋ねてくるなんて状況も頻繁です。

 ではなぜ少年は謎の少女を匿うのか。

 追われているということは、なにか出来事に巻き込まれているのではないか。

 しかもこんなにかわいいのに。追っ手に差し出すなんてできない。

 もちろんそのまま村に住んでいてもかまいませんが、そうなると追っ手と頻繁に会うのです。安心して暮らしていられませんよね。

 あまりにも追っ手がしつこくやってくるので、いつかは村を追い出される日も訪れるでしょう。

 いずれ旅立つ日がやってくるのであれば、逡巡などせずすぐにでも出立したほうがよい。

 小説にムダを書いている余裕はありません。

 意味もなく村にとどまっている理由がない以上、すぐに行動させるべきです。




少女の導き

 少女を匿ったり守ったりすると、そのあともれなく冒険の旅が待ち受けています。

 冒険とは多分に「非日常」「異世界ファンタジー」を連想させますが、「青春」「ラブコメ」などもありうるのです。とにかく今までの「日常」とは明らかに状況が変わります。

 主人公は謎の少女に導かれて、「非日常」へと踏み出すのです。

 ひとりの人物を登場させるだけで、主人公が旅立つ必然的な理由にもなります。

 謎の少女は、素性がわかりませんからなかなか信用できません。しかし「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語では、謎の少女を全面的に信頼しているものです。

 これは「恋愛」もの同様少女に「ひと目惚れ」しているから。

 そもそも「謎の少女」は「かわいい」「美しい」「綺麗」と、なにがしか容姿がすぐれているものです。

 男の子ならそんな「謎の少女」とお近づきになるだけで嬉しくなりますし、そんな少女を捨て置けません。

 そしてそんな少年も平均以上にはカッコいいしイケメンでもある。

 美少女と醜男の冒険記なんて誰が読みたがりますか。傍から見れば「アイドルとオタク」の組み合わせに見えるはずです。

「ボーイ・ミーツ・ガール」少年と少女の物語は、互いを信頼しつつも心が開けない少女とのもどかしい関係が主体になります

 少女が持っている秘密は、世界を変えるなにかかもしれない。

 魔王の弱点を伝えに来たのかもしれません。

 暴走しているコンピュータシステムを停止させるパスワードもありえますね。

 少女は少年を冒険の旅に連れ出すだけでなく、物語の根幹にかかわる秘密を握っているものです。だから少女は何者かに追われていた。そう考えれば辻褄が合いますよね。

 ただ少年を冒険の旅へ誘うだけの役割だったら、そもそも「ボーイ・ミーツ・ガール」である必要はありません。

 少女に導かれ、少女から秘密を打ち明けられ、少女の助力を得て問題を解決する。

 なにかにつけキーパーソンとなり続ける少女だからこそ、「ボーイ・ミーツ・ガール」になるのです。




少女との冒険を経てひと回り成長する

 少年は少女に導かれるまま冒険の旅を行ない、数多く経験を重ねます。

 そして少年はたくましい存在へと成長するのです。

「ボーイ・ミーツ・ガール」の根底にあるのは「少年の成長」物語であり、少女に守られる物語ではありません。

 たとえ少女の能力が高くても、少年には少女を守る気概は持たせたい。

 どんな強敵「対になる存在」が待ち受けようとも、少年は少女を守るため逃げるわけにはいかないのです。

 それだけの覚悟を持って少女を守り切る努力をする。

 だから少年は冒険を通じてひと回りもふた回りも大きく成長するのです。

 一介の村人に過ぎなかった少年が、世界を救う勇者にもなれます。

 その根底こそ「ボーイ・ミーツ・ガール」が持つ「少年の成長」物語の一面です。

 もう一面は謎の少女と少年の心の交流であり、「恋愛」感情になります。もちろん「ラブコメ」にしてもかまいません。少年と少女の心が近寄らなければ、「ボーイ・ミーツ・ガール」である理由はないのです。




ボーイ・ミーツ・ガールの三条件

「ボーイ・ミーツ・ガール」は少年が謎の少女に導かれる、謎の少女に惹かれる、謎の少女を守り抜く。この三点が揃って初めて成立します。

 そして結末で謎の少女と結ばれるのか、離れ離れになってしまうのか、忘れ去ってしまうのか。ここは明確なテンプレートがありません。

 どのような決着をするかで、作品の読後感は大きく変わります。

 ハッピーエンドも、バッドエンドも、メリーバッドエンド(メリバ)も。

「ボーイ・ミーツ・ガール」ではどんな終わり方も許されているのです。

 たとえばマンガの桂正和氏『ウイングマン』は、主人公・広野健太がポドリムス人のアオイと出会い(ボーイ・ミーツ・ガール)、導かれ、惹かれ、守り抜きます。そして最後にはウイングマンのすべてを捨ててでもアオイを助けようとするのです。その後に訪れる物語のラストは「メリーバッドエンド」。見る人によってある程度救いのあるエンディングでした。

「ボーイ・ミーツ・ガール」は謎の少女との出会いによって、少年の成長が強制される物語でもあります。だって謎の少女と出会わなければ、平凡な生活を送れていたのですから。

 アニメの庵野秀明氏『ふしぎの海のナディア』の主人公ジャンは謎の少女ナディアと出会い、大海原の大航海という冒険の旅へ一緒に飛び出します。ジャンは飛行機を作ろうと研究していたエンジニア気質の少年です。とてもナディアを守れるだけの力強い人物ではありません。それでもノーチラス号で世界を渡って精神的にたくましく成長します。

 ナディアと「ボーイ・ミーツ・ガール」して、ジャンは強制的に成長させられたのです。




少女側のボーイ・ミーツ・ガール

 少女が主人公の「ボーイ・ミーツ・ガール」ものは逆ハーレムとなる傾向にあります。

 言わば「ガール・ミーツ・ボーイズ」ですね。

 美内すずえ氏『ガラスの仮面』の主人公・北島マヤは演劇に憧れる少女でした。ある日桜小路優と出会い、演劇の道へと踏み出します。そして大都芸能秘書の速水真澄と出会ってからかわれる日々を過ごします。マヤが芸能界デビューすると里美茂と出会い、交際宣言される事態となるのです。

 このように少女側の「ボーイ・ミーツ・ガール」は魅力的な男性が次々と現れます。

 また少女が主人公でも出会うのも女性だけという「ガール・ミーツ・ガール」の物語もあるのです。誉田哲也氏『ガール・ミーツ・ガール』という作品もあります。

「ガール・ミーツ・ガール」ものだとやはりアニメになったマンガのかきふらい氏『けいおん!』と今野緒雪氏『マリア様がみてる』が挙げられるでしょう。

 どちらも基本的に少女と女性しか登場しません。

 いわゆる「百合もの」も「ガール・ミーツ・ガール」であり、主人公の成長物語となっています。

 男性は「ガール・ミーツ・ガール」ものが苦手で、一般的な「ボーイ・ミーツ・ガール」に魅力を感じるのです。

 女性も基本的には「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語をよく読みます。だから、あえて需要の少ない「ガール・ミーツ・ボーイズ」「ガール・ミーツ・ガール」を書くよりは、単純な「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語を書きましょう。





最後に

 今回は「物語40.ボーイ・ミーツ・ガール」について述べました。

 小説は男性だけのものではありません。

 少年マンガ雑誌を女性が読むように、「ボーイ・ミーツ・ガール」ものを読む女性もたくさんいます。

 亜種として男女立場を入れ替えた「ガール・ミーツ・ボーイズ」や女性だけしか出てこない「ガール・ミーツ・ガール」ものもありますが、需要は少ないです。

 出会いから結末までをドラマチックに書きたければ基本形の「ボーイ・ミーツ・ガール」ものを書きましょう。



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