1295.物語篇:物語39.バトル・ロイヤル

 今回は「パトル・ロイヤル」についてです。

 ゲームの任天堂『大乱闘スマッシュブラザーズ』でもわかるように、勝ち残るためには積極的に戦うか、逃げまわるかを選択しなければなりません。

 それが生存戦略なのです。





物語39バトル・ロイヤル


「バトル・ロイヤル(BATTLE ROYAL)」とは大規模な乱戦のことです。とくにプロレスで行なわれる十名から十五名程度が参加する勝ち残りゲームを指します。

 よく「バトル・ロワイアル」と読まれますが、それはフランス語読みです。高見広春氏原作の映画で深作欣二監督がメガホンをとった『バトル・ロワイアル』が一大旋風を巻き起こしたので、「バトル・ロイヤル」はいつしか「バトル・ロワイアル」と呼ばれるようになりました。でも正確には「バトル・ロイヤル」ですのでお間違いなく。




主人公以外全部敵

「バトル・ロイヤル」の物語は、主人公の生存戦略が鍵を握ります。

 誰を先に潰すべきか、誰と誰を戦わせれば漁夫の利を得られるか、最後のふたりになるまで逃げ続けるのも一手です。

 また他の人と同盟を組んで、共同で強敵に対処するのも立派な生存戦略になります。

 ですが、誰かと組んでいたとしても、最終的には主人公とその仲間だけが残る。そこで仲間同士の潰し合いが始まるのです。

 古代中国では、春秋時代に百を超える国が存在していましたが、戦国時代まで生き残ったは七国のみ。これを「戦国七雄しちゆう」と呼びます。しんせいえんちょうかんです。

 この七国による「バトル・ロイヤル」が行なわれ、最終的に勝ち残ったのはエイ政率いる秦となりました。

 実力では秦が頭抜けていました。宰相に商鞅しょうおうを登用して逸早く法治国家となって治水や農業生産の効率化を図ったのです。君主エイ政も法家の『韓非子』を読み込んでいます。独裁国家としてトントン拍子で国力を高めたのです。兵士を養うにはお金と食糧が要ります。「商鞅の変法へんぽう」と呼ばれる改革を断行します。それにより効率的で安定的な穀物収入を手にし、余りを売ってお金に変えていったのです。これでお金と食糧で国庫が満ち、秦は圧倒的な兵数を運用できる一大国家へと飛躍します。

 秦が台頭するまで「戦国七雄」の筆頭は斉でした。斉は周王朝開祖である文王・武王の軍師を務めた太公望呂尚りょしょうこときょう子牙しがが治水を完成させ、以後中華一の食糧生産国となっています。そして中興の祖・桓公かんこうとその宰相である管仲かんちゅうによって経済的に中華を統べる存在へと高めたのです。残念なことに、すでに国庫が満ちていた斉は武力をにたのんで周辺諸国の迷惑者となりました。そんな中で二人目の孫子である孫ピンが将軍・田忌でんきの軍師となり、学友の龐ケンを馬陵の戦いで葬って、管仲以来の覇権国家となったのです。しかし孫ピン亡き後、軍事面では頼りなくなり、周辺諸国も斉の力を借りて他国に対峙するという戦略がとれなくなりました。そのせいで弱小国家がどんどん潰され併合されていき、七国しか残らない状況を生んだのです。もし孫ピン以後も軍事プレゼンスが効いていたら、弱小国家の多くが存続し、秦の覇権もなしえなかったかもしれません。

 このように「バトル・ロイヤル」は実力者が生き残るとは限らず、戦いながら存在感を高めて勢力を拡大していったものが結果的に勝ち残るのです。

「主人公以外はすべて敵」

 それが「バトル・ロイヤル」の本質です。

 いくら仲がよくてタッグを組んでも、最後まで勝ち残ったら雌雄を決しなければなりません。




乱戦時の生存戦略

「バトル・ロイヤル」で乱戦が発生したら、主人公のとれる策は「最後のふたりになるまで逃げきる」「強敵同士を潰し合わせる」「強いものと組んでより強いものを倒す」だけです。

 古代中国では縦横家しょうおうか蘇秦そしんが六国を統合して一強の秦と対する「合従がっしょう」策をとりました。つまり「斉という強いものと皆が組んで、より強い秦を倒そ」うとしたのです。「合従」策は働きかけた蘇秦が死ぬと瓦解します。そして縦横家で蘇秦とは兄弟弟子だった張儀ちょうぎが秦に働きかけて、六国のうち一国と組んで弱い国をひとつずつ潰していく「連衡れんこう」策をとりました。するとたいてい最後には二番目に強い国が残ると思うかもしれません。しかし地理的に斉がふたをしていた燕が最後まで残ったのです。そして燕を討って秦が中華を統一しました。

 このように史実では「最後のふたりになるまで逃げきる」ことも「強敵同士を潰し合わせる」こともできませんでした。弱小国家が強国を頼って、他の強国を打ち破るのです。

 ですがこれは国家の話であって、個人に置き換えられません。

 個人ならいくらでも逃げられるし、そそのかして強い者同士を戦わせて潰し合わせられます。もちろん他人と組んで強敵を倒すことだってできる。仲間の中で一番になるのではなく、「バトル・ロイヤル」の首謀者を討伐だってできるはずです。

 個人の「バトル・ロイヤル」ならさまざまな駆け引きが演出できる点で、ドラマチックな物語に仕上がります。

 マンガの甲斐谷忍氏『LIAR GAME』や福本伸行氏『賭博黙示録カイジ』などは、大勢を倒して一番を目指さなければならない「バトル・ロイヤル」ものですね。




スポーツものもバトル・ロイヤル

 標題にしましたが、スポーツものも「バトル・ロイヤル」の一種です。

 野球マンガなら県大会緒戦からどんどん強い相手を倒していって、宿命のライバルと決勝戦で戦う。たとえば四千校以上が参加する高校野球神奈川県大会を考えれば、実際には「一対一のノックアウト方式」ですが、俯瞰では「バトル・ロイヤル」と言えなくもありません。

 陸上競技や水泳競技のように、ライバルたちと同時にスタートして速さを競うのも、「バトル・ロイヤル」の色合いが強くなります。

「トーナメント方式」に名が残る「トーナメント」も、中世ヨーロッパで盛んに行なわれた「一対一のノックアウト方式の槍突き試合」ですし、古代ローマの闘技場コロッセオで行なわれた剣闘士グラデュエイターによる試合も「バトル・ロイヤル」の要素が強い。

 今や競技と化したフェンシングだって、元は決闘の手段でした。

「最強」の称号を得るために戦うのか、生き残るために戦うのか。

 目的は異なりますが、最終的に生き残った者だけが「バトル・ロイヤル」の勝者なのです。

 本来ならどうしても戦いたく相手とも戦って勝たなければならない。この状況はまさにドラマです。

 無常観を抱えて「バトル・ロイヤル」の仕掛け人へ仕返しをするのも、ひじょうにドラマチックだと思います。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』の「浮遊城アインクラッド篇」は、一万人のプレイヤーの誰かがゲームをクリアしないかぎりログアウトできない、という意味で変則的な「バトル・ロイヤル」とも言えます。実際に攻略プレイヤーを騙し討ちにする連中まで現れていますからね。

 いちおうスポーツなどの「トーナメント」や『ソードアート・オンライン』のような作品は「攻略と生存」の物語として次回に書きます。





最後に

 今回は「物語39バトル・ロイヤル」について述べました。

 大勢が一斉に戦って雌雄を決するのが「バトル・ロイヤル」の物語です。

 場合によってはひとり対多数という状況かもしれませんが、主人公はあらゆる手段を尽くして最後のひとりになるまで勝ち抜かなければなりません。

 その手段のひとつひとつが読み手をワクワクさせるのです。



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