1290.物語篇:物語35.歴史と改変

 今回は「歴史」ものに挑戦してみましょう。

 ですが単純な「歴史」ものではなく「歴史ファンタジー」ものですね。

 単なる「歴史」ものは普通に書けばよいので、あえて一項設ける必要もないですしね。





物語35.歴史と改変


 主人公が過去や未来へ行って活躍する物語があります。

 タイムトラベル、タイムスリップ、タイムリープの三種類が一般的です。




タイムリープ

 まず「タイムリープ」から見ていきます。

「Time Leap」とは「時間跳躍」のことです。

 つまり単に過去へ行く、未来へ行くだけならすべて「タイムリープ」に当たります。

 これではタイムトラベルと同じような意味合いになってしまい、差が出しにくいですよね。

 そこでさまざまな定義が作られました。

 1. 勝手に時間が移動する。しかし任意で移動できるようになる者もいる。

 2. 科学的ではなく超常の力で時間を移動する。

 3. 体ごと移動せず意識だけが時間を移動して、過去や未来の自分の体に乗り移る。

 とだいたいこの三つのうちいくつかを満たしたものを「タイムリープ」と呼びます。

 筒井康隆氏『時をかける少女』が代表作です。ゲームの『STEINS;GATE』は意識だけの移動ものにあたります。

「ループ」ものは「タイムリープ」が主流です。今アニメが放送されている長月達平氏『Re:ゼロから始める異世界生活』も「タイムリープ」ものになります。




タイムスリップ

「タイムスリップ」は意図しないで勝手に時間を移動するものを指します。

 和製英語とされていますが、英語圏でも使われることがあります。おそらく日本の作品から逆輸入されたのでしょう。

「1. 勝手に時間が移動する」点では「タイムリープ」と同じです。

 また「2. 科学的ではなく超常の力で時間を移動する」ですが、これは科学的なものでも主人公にとっては偶発的な時間移動であれば「タイムスリップ」に該当します。

「3. 体ごと移動せず意識だけが時間を移動して、過去や未来の自分の体に乗り移る」のであれば「タイムリープ」、体ごと移動するなら「タイムスリップ」です。

「タイムスリップ」が「タイムリープ」と明確に異なる点もあります。

「タイムリープ」が同じ時間同じ場所に何度でも巻き戻れる「ループ」があるのに対して、「タイムスリップ」は偶発的に過去や未来へ「時空軸がズレて」行ってしまうのです。つまり帰りの手段は別途見つけ出さなければなりません。

 半村良氏『戦国自衛隊』のような「時空軸のズレ」がもとで過去へやってきてしまえば「タイムスリップ」と言えます。

「タイムリープ」は科学の力よりも超常の力が働いて時間を移動しますが、「タイムスリップ」は普通に歩いているだけで過去や未来へ移動してしまうのです。

 この「時空軸がズレた」先が「剣と魔法のファンタジー」世界であれば「異世界転移ファンタジー」になります。




タイムトラベル

「タイムトラベル」とは主に科学の力によって、時間軸を自由に行き来できるものを指します。マンガの藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』に登場する「タイムマシン」のように、明確に機械が存在するのです。

 ただし超常の力によって、時間軸を自由に行き来する場合も「タイムトラベル」と呼ぶことがあります。

「なにかの力によって自由に行き来できる」のが「タイムトラベル」なのです。

「トラベル」つまり「旅行」であるため、自由に行き来できます。

「タイムリープ」は「同じ時空へ巻き戻る」ものが多く、「タイムスリップ」は「時空軸の連続していないところへ飛ばされる」ものが多い。それも「タイムトラベル」との大きな差です。




未来を変えるために時空を超える

 なかなかに少ないのですが、未来になにか大きな出来事が起こると知った主人公は「未来を変える」ために時空を超えるパターンも考えられます。

 たとえば百年後に地球へ小惑星が激突すると科学的に導き出されたとします。

 そこで主人公は百年後の未来を救うために、小惑星との激突を回避するあらゆる手段を講じて未来へと旅立つ(タイムトラベル)のです。

 この物語のよい点は「未来を変える」ので、タイム・パラドックスが起こりません。

「SF」では付き物の科学的考証をする必要がないのです。

 もし科学的考証が発生するとしたら、百五十年後の人類が五十年前の小惑星激突を成功させたいと思って「タイムトラベル」してくるとき。主人公にはタイム・パラドックスは発生しませんが、百五十年後の人類には発生します。

 そうなると途端に難しい物語になるのです。

「お手軽SF」を目指すなら、さらなる未来人は登場させないでください。

 あくまでも現在の主人公と、百年後の未来人との関係を主軸におけば、難しいタイム・パラドックスは起こりません。主人公とその子孫が結婚してもまったく問題はないのです。まぁ近親間では奇形児の発生率が高まるとされているので、そちらの問題はあります。でもそれは現在の主人公と子どもが結婚しても同じ問題は発生するので、取り立てて考える必要はありません。

「SF」をやりたいなら最初はこの「未来を変える」ための「タイムトラベル」ものにしましょう。

 未来の日本はどうなっているのか。それだけを考えれば物語が成立する「お手軽さ」が売りです。




過去を改変すると現在にどんな影響が

「SF」の中でも最も人気があるのは「過去を改変する」物語です。

 たとえば「もし織田信長が本能寺の変で生き延びたら」という仮定から物語が一本作れます。明智光秀を返り討ちにして天下布武を成し遂げるだけにとどまらず世界征服さえも着手していたかもしれません。「もし太平洋戦争で日本がアメリカに核兵器を用いていたら」という仮定も面白いですね。

 中国三国時代でもし蜀が天下を取るとするならどんな物語になるのか。そこから出発したのが周太荒氏『反三国志演義』です。日本では光栄(現コーエーテクモ)がそれまでの難しい物語をわかりやすくまとめ、今戸栄一氏『超三国志』として和訳しています。

「蜀を勝者とする」改変のために、どれだけ手を入れなければならないのか。その難しさが物語の改変度合いに表れています。もう完全に別ものの世界観です。徐庶は劉備のもとを去らないし、関羽も張飛も馬超も生き残る。とにかくやりたい放題です。タイム・パラドックスなんてまったく考えていない、完全に「創作」として面白い。

 このようなタイム・パラドックスが発生しない完全創作もよいのですが、どうせ歴史を改変するならば、その後の世界がどう変化するのか。そこを読ませてさらに度肝を抜くくらいしたほうがよいでしょう。

 映画のロバート・ゼメキス氏監督『BACK TO THE FUTURE』では主人公マーティ・マクフライが三十年前にタイムトラベルして、両親の結婚を邪魔するような振る舞いで、自身の存在が消滅しそうになります。そこでなんとかして両親をくっつけようと奔走するのです。

 主人公の両親が結婚しないように歴史を改変したら、それを行なった主人公はタイム・パラドックスによってどうなってしまうのか。もし若い頃の母親と主人公が結婚して子どもをもうけたらどうなってしまうのか。

 この「if」こそが「歴史改変」ものの醍醐味です。

 タイム・パラドックスがどのように働くのかは、実際に起こらないかぎり証明できません。

 だからこそ、さまざまな「歴史改変」小説が誕生し、独自解釈のタイム・パラドックスも出来あがったのです。

「歴史」そのものが主人公による改変を拒否し、排除しようとするかもしれません。

「歴史」に触れただけで主人公が消滅するかもしれません。

 実はすでに現在こそ主人公が「歴史改変」した成れの果てなのかもしれません。だからいくら主人公が「歴史改変」をしても「歴史」はすでに織り込み済みなのです。





最後に

 今回は「物語35.歴史と改変」について述べました。

 主人公が「歴史」を「改変」したら、現在にどんな影響が及ぶのか。

 その答えは書き手の数だけあります。

 だからこそ「歴史と改変」の物語は、多くのSFファンを虜にするのです。

 過去ばかりでなく、人類が太陽系の外へ進出していく「未来」の「歴史」を作り上げるのも書き手の醍醐味と言えるでしょう。



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