1271.物語篇:物語16.種族と格差

 今回は世界的な潮流となっている問題に切り込みました。

 久しぶりの時事ネタですね。

 人種と民族によって起こる差別や格差。

 それが物語の根本にある作品も多くあります。





種族と格差


 異世界ではエルフやドワーフなど人型の異種族が数多く登場します。

 彼ら彼女らはヒューマンとはさまざまな面で異なるのです。

 ヒューマンが多数派の世界がほとんど。ですがエルフの世界に数少ないヒューマンが現れたとなれば、ひと騒動起こりそうですよね。




人種と民族

 人種と民族つまり「種族」が異なれば社会で格差が生じます。

 現実世界を見ても、白人至上主義が組織の上位を占め、黒色人種が底辺に追いやられているものです。黄色人種はその中間に位置します。

 アメリカ合衆国の前大統領バラク・オバマ氏は、初のアフリカ系大統領として歴史に名を刻んでいるのです。その反動からか、白人至上主義のドナルド・トランプ大統領が誕生してしまいました。

 また現在世界中で流行している新型コロナウイルス感染症において、アメリカでは黒色人種の死亡者が圧倒的に多いのです。これは黒色人種に免疫がないというより、低賃金で医療保険に入っていない方が多いからだと言われています。これも「格差」と呼んでよいでしょう。

 このように現実世界でも人種や民族による「格差」や差別は存在します。

 異世界ではヒューマンの他にエルフとドワーフが代表的な「種族」です。

 格差の順位をつけるならヒューマンとエルフは「エルフ>ヒューマン>ドワーフ」、ドワーフは「ドワーフ>ヒューマン>エルフ」の順になります。

 自分たちの「種族」が一番になるのが当たり前なのに、なぜヒューマンはエルフを上に置いているのか。ヒューマンよりも長命であることへの敬意かもしれませんが、そのほとんどは「美しいから」です。まるで「神が生み出した芸術品」のようにとらえているため、ヒューマンはエルフを上に置くのです。ドワーフはそれが鼻持ちならず、エルフを下に格付けしています。

「種族」は自然と「格差」が生じるものなのかもしれません。

 小説で「種族と格差」を正面から書いた作品はあまり見られないのです。

 それだけ難しい「テーマ」です。

 どう書いてもある程度は非難の声が上がります。

 難しい「テーマ」だからこそ、正しく書ければその評価は絶大です。

 たとえば黒色人種を奴隷のように扱った作品を書けば、黒色人種の方々から批判されます。逆に黒色人種を王族に据えたら白人至上主義の方々から酷評されるのです。

 もはや理不尽以外のなにものでもありません。

「異世界ファンタジー」では「エルフは高貴なもの」と相場が決まっており、もしドワーフの王がエルフを奴隷にしていたら「エルフはそんなことしない」との声があがるでしょう。




種族と敬意

 どのように書いても批判されるのが「種族」問題です。

 ですが、それこそ「テーマ」に据えたいと考える挑戦的な書き手もいらっしゃると思います。

 たとえば古代中国なら。中華王朝に属する漢民族と、周辺の蛮国たとえば夷・狄・姜などの民族とは戦時下にあり、互いを捕まえては奴隷のように扱っていました。

 そこに現代の黒色人種差別問題を投影しようとする書き手もいるのです。

「BLACK LIVES MATTER」通称「BLM」は、アフリカ系アメリカ人を取り押さえた白人警官が首を押さえ続けて失神させ、死亡に至らしめた「事件」に端を発する「人種差別撤廃」運動です。

 この運動を小説に活かせないか。今多くの「プロ」の書き手は考えています。

 時事ネタを小説に取り込む「プロ」の書き手はかなり多いのです。なにせ「話題性」のある時事ネタですから、興味を持つ読み手も相当数いると思われます。実際に時事ネタを入れた作品はよく売れるのです。

 もし「異世界ファンタジー」であるなら、ヒューマンからの扱いが悪いドワーフの人権(ドワーフ権と呼ぶべきかはさておき)を向上させるような物語が発想できますよね。

 実は「剣と魔法のファンタジー」の始祖であるJ.R.R.トールキン氏『ホビットの冒険』『指輪物語』に代表される「中つ国」の物語は、立場の低い「ホビット族」の活躍を通して人種差別と戦った小説でもあるのです。意外な話だと思います。

 トールキン氏が最も腐心したのは「立場の低い種族」への「敬意」です。

 ホビット族を主人公とし、それが人々からどんなに手酷く扱われているのかを丁寧に描き、それでも誠実に生き抜いていく姿を読ませています。

 ホビット族への「敬意」すら感じさせるのです。

 つまり奴隷となりがちな黒色人種やアラブ人などへの「敬意」が反映されます。

 そもそもなぜトールキン氏は「中つ国」の物語を生み出したのか。

 単純に北欧神話やケルト神話、民間伝承などを集めて構築した世界観かもしれません。

 しかしトールキン氏はいちばん立場の低い「ホビット族」を主人公にした物語を書き続けています。巨人はただの兵器、エルフは傲慢、ドワーフは頑固。それに比べれば底辺のホビット族は誠実なのです。頭を悩ませるような問題にも誠実に立ち向かいます。だからこそ『指輪物語』で魔王サウロンの力の源である「ひとつの指輪」の破壊を任務として授けられたのです。

 底辺が天辺を倒す物語。下剋上とはひと味違う、価値観の転換、パラダイム・シフト。

 その願いが込められた世界こそ「中つ国」であり『指輪物語』であり「剣と魔法のファンタジー」なのです。

「剣と魔法のファンタジー」は生まれたときから底辺への「敬意」によって支えられていました。

 あなたの小説では「種族」つまり人種や民族に対する「敬意」は含まれているでしょうか。

 そんな崇高なものでなくても、児童や社会人でもどんな学校どんな職業の人へも「感謝」や「敬意」を示せているでしょうか。

 ときに小説の書き手は、自身の生み出した人物への「敬意」を表せていません。

 主人公が対峙する「対になる存在」だから、思いっきり憎らしい人物にしてやろう。

 そんな安易な発想で人物を生み出すと、「敬意」が抜け落ちてしまいます。

 登場人物には最低限「敬意」を払ってください。「敬意」が感じられないと質の悪い小説に思われるのです。

 どんな人物も物語では重要な役割を負っています。たとえワンシーンしか登場しない村人Aでも、そこに存在する理由は必ずあるはずです。

「一寸の虫にも五分の魂」

 どんな弱小なものにも意地や考えがあるのでバカにしてはなりません。

 物語によっては「一寸の虫」こそが鍵を握っていることさえあります。

 創作者たるもの、生み出したすべてを愛する心が必要です。

 究極の敵役なので、徹底的に憎まれるような人物としよう。それは確かに憎まれるような存在にはなります。しかし単に倒されるためだけの存在にしかなりません。

 なぜ憎まれるような振る舞いをしているのか。その行動原理が単なる破壊衝動によるものなのか。心の奥底になにかを潜ませているのではないか。

 行動原理を規定して、なぜ憎まれるような振る舞いをするのか考えてみる。

 それは「究極の敵役」が持つ心根を知ることにもつながります。知れば単なる敵役ではなく、考えを持つひとりの人間として、魔王として見られるようになるのです。

「敬意」はそこからでしか生まれてきません。





最後に

 今回は「種族と格差」について述べました。

 取り立てて背骨バックボーンのない人物が物語には多数登場します。

 しかし彼ら彼女らにも行動する理由が存在するのです。

 そんな人たちに「敬意」を払って書いてください。

 単なる「優越感」から見下した書き方しかできない人に「小説賞・新人賞」は獲れませんよ。



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