1269.物語篇:物語14.予言と改変

 小説ではよく「運命」がテーマになります。

 ここでは「運命」を「予言」と呼び、それを覆す「改変」の力を描いた物語として検証していきましょう。





物語14.予言と改変


「予言」は超常の力であるため「ファンタジー」でよく用いられる物語の形です。

 人々はある日「予言」を告げられます。それにはよい「予言」もあれば悪い「予言」もあるのです。

 よい「予言」はいつか叶えられるために順調な道が開かれます。

 しかし悪い「予言」は絶望して受け入れる人と、あがいて「予言」を「改変」しようとする人に分かれるのです。




予言を受け入れる

 よい「予言」は素直に受け入れる方が多いと思います。あえて歯向かっても得るものはありません。かえって人々から爪弾きされるのがオチです。

 たとえば「三年以内に理想の結婚相手が現われる」と「予言」されたら、その三年間は「理想の結婚相手」が現われるまで待つと思います。「予言」どおりに待っていれば、幸せな結婚ができるとわかっているからです。

 しかも高名な占い師や予言者の言葉であれば、なおさら従うと思います。

 物語で「予言」は絶対的な意味を持ちます。

 すべての筋書きは「予言」の成就に向けて展開されるからです。「三年以内に理想の結婚相手」も、それに向けて魅力的な男性が幾人も登場します。そのうちの誰が「理想の結婚相手」なのかが主人公にはわからない。そこから始まる恋愛ものやラブコメものもあるでしょう。女性向けの作品で多く見られるパターンです。「逆ハーレム」を正当化するために「理想の結婚相手」の「予言」はひじょうに使い勝手がよい。

 だからよい「予言」は素直に受け入れる方が多いのです。

 よい「予言」なのに抗おうとするのも変な話だと思います。

 ただし偏屈な主人公を演出したくて、あえてよい「予言」に逆らってみせる、という演出は「あり」です。

「理想の結婚相手」が現われると知ったら、とにかく異性に会わないように引きこもる主人公がいたってかまいません。

 ですが「予言と改変」の物語では基本的に「予言」は素直に受け入れられるものです。




予言を改変しようとする

 しかし「予言」は「改変」されるために存在します。

 魔王に支配された世界で「魔王を倒す勇者が生まれる」という「予言」が下ったとしたら。

 人々は「勇者」を探し出して魔王退治の未来を託すはずです。

 しかしこの「予言」が魔王の耳に入ってしまうと、「勇者」狩りが行なわれます。まだ幼いうちに殺してしまえば憂いがなくなるからです。

 ギリシャ神話で天空神ウラヌスが子どものゼウスらが生まれたら片っ端から飲み込んでいったのも、「子どもがお前を追い払う」という「予言」があったからとされています。

 基本的に物語で「予言」は絶対視されるのです。たとえ神であろうと「予言」には抗えないと決まっています。

 そんな中、抗えない「予言」を「改変」するために立ち上がる人が現れるのです。

 人々はそれを「英雄」と呼びます。

 逆転不可能な絶体絶命のピンチに陥っても、たった1パーセントの勝機しかなくても、「予言」を覆す「英雄」は現れるものです。

 たとえば野球で九回裏九点差ツーアウト、ランナーなしの状況。誰も逆転できるとは思っていません。それでも「英雄」は道を切り開いてしまうものです。

 物語は「予言」という「運命」に沿って進みます。主人公たちは抗おうとしますが、人間の力では「予言」「運命」は変えられない。これは凡人の主人公です。

「英雄」であれば、どんなに困難で苛烈な「予言」「運命」にも敢然と立ち向かいます。そして苦戦しながらも鮮やかに「予言」を「改変」してみせるのです。

「改変」する「英雄」を際立てるために、あえて凡人に失敗させる手もあります。いわゆる「噛ませ犬」です。

 もし『桃太郎』を現代小説にするなら、鬼退治に失敗した凡人を登場させましょう。そのほうが鬼退治に成功した桃太郎が際立ちます。失敗した凡人が桃太郎に「鬼に敵うはずがない。俺だって負けたんだから」のように忠告するのもひとつの「予言」です。

『桃太郎』にはあいにくと直接的・間接的な予言者は登場しません。だから物語として底が浅いのです。

 現実世界ではなかなか占い師や予言者を登場させるのは難しい。とくに「予言」がピタリと当たるほどの人物はなかなかいません。先が読めてしまって物語の面白みに欠けるからです。

 しかし「予言」の「改変」に挑む主人公はひじょうに強力な吸引力を生じます。

 ウイリアム・シェイクスピア氏『ロミオとジュリエット』だって、敵同士の家に生まれた主人公が、結ばれない「運命」(「予言」とも言えます)を「改変」しようと奔走するのです。だから物語に惹き込まれて深い感動を覚えます。もし「結婚できない」という「運命」にそのまま従うのでは、物語になりませんからね。

 たとえ成就しなくても、主人公が「改変」の努力をするから、より面白い物語になるのです。

 あきらめのよい主人公では盛り上がりません。




賢者の予言

「ファンタジー」世界では占い師も予言者も「神託」を授かる司祭もいますが、賢者が過去の書物をひもといて「予言」するパターンがあります。

 先ごろお亡くなりになった五島勉氏は『ノストラダムスの大予言』を著して一大ムーブメントを生み出しました。「ノストラダムスが遺した書物」をひもといてそれを「予言」として人々に広めていったのです。皆様も「1999年7の月、空から恐怖の大王が来るだろう。アンゴルモアの大王を復活させ、その前後の期間、マルスは幸福の名のもとに支配するだろう」といういわゆる「人類滅亡の日」についてのフレーズを聞いたことがあるかもしれません。まぁ今の大学生以下は聞いたこともないでしょうね。まだ生まれていないか、生まれていても理解はできなかったはずですから。

 なぜ『ノストラダムスの大予言』は大ヒットしたのか。

 当時の日本はオカルトブームで、ツチノコやネッシー、UFOの存在がまことしやかに語られていたのです。そんな中で科学でオカルトを否定した大槻義彦元早稲田大学教授の存在も、かえってブームに火をつけていた感もあります。

 人類は『ノストラダムスの大予言』が示す「1999年7の月」をどのように乗り越えたのでしょうか。

 どこかに存在する超越者が、人知れず恐怖の大王と戦っていたのかもしれません。

 深く考え始めると、小説がまるまる一本生み出せるくらいネタになりますね。

 異世界を舞台にして「この日に人類は滅亡する」と「予言」されている。人類はすぐれた技能を持つ六人を集めて、人類滅亡を阻止する旅に赴かせた。どんな脅威が待ち受けているか誰にもわかりません。そこで賢者が個展を読み解いて「きっとこのような存在に違いない」と当たりをつけるのです。たとえば冥界の魔王が現実世界に姿を表してすべてを焼き払うのかもしれない。人々の行ないが悪徳に染まっているため、天界から天使が送り込まれ、「人類滅亡」を企図して国々や大陸をひとつずつ消し去っていくのかもしれない。

 いずれにせよ「予言」には強いインパクトが発生します。とくに過去の「予言」が高確率で的中する人物の「予言」なら信じて疑わないのです。


『ノストラダムスの大予言』が信憑性を伴っていたのは、著者の五島勉氏が「過去のこの出来事は、ノストラダムスによって「予言」されていた」と対照していった点にあります。つまり構成が抜群にうまかったのです。

 小説の書き手としても、この信憑性を増す「構成術」は参考するに値します。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』がなぜ近年も再アニメ化・再マンガ化されているのか。冗長に過ぎる第一章で描かれている「本編までの人類が歩んだ歴史」によって歴史の対照を当てはめていったからです。不要と思っていた「本編までの人類が歩んだ歴史」も、「ライトSF」の信憑性を増すための「構成術」だと今では判断できます。ムダに思えた第一章が、実は物語に信憑性を与えていたのです。

 もしあなたが「異世界ファンタジー」を書いていて、どうにも物語のインパクトが弱いなと感じたら。いっそ「本編までの人類が歩んだ歴史」を書き出してみるのも一手です。信憑性を増す「構成術」によって、フィクションである「異世界ファンタジー」が俄然と信憑性を持ち始めます。

 私が構想中で執筆間際までで止めている『秋暁の霧、地を治む』も、登場人物に信憑性を持たせるため、あえて「主人公が生まれる前からの歴史」も考えてあるのです。

「異世界ファンタジー」はいきなり始めて読み手を巻き込んでのドタバタ劇になりやすい。しかしそれだと楽しくはなるかもしれませんが、信憑性は薄らいでしまいます。

 ここまで「信憑性」という言葉を使ってきましたが、もっと簡単に言えば「リアリティー」です。「現実性」と訳される「Reality」という単語には、「真実性」つまり「信憑性」の意味合いも含まれています。

 読み手を物語へ強く惹き込みたいのなら、「信憑性」を高めましょう。「リアリティー」が高まれば物語は厚みを増して格段に面白くなります。





最後に

 今回は「物語14.予言と改変」について述べました。

「予言」は時限爆弾です。物語が進むにつれ、「予言」された方向へと主人公たちは向かってしまいます。

 誰かが「改変」を担わなければ予定調和の終わり方しかできません。

 それでは小説は面白くないのです。

 では誰が「改変」を担うのか。それができるのは主人公しかいません。

 主人公には「予言」を「改変」する明確な役割があります。

 すでに定められた「予言」に従って物事が進むのでは面白くなりません。「改変」しようと主人公が奮戦するから物語は魅力を増すのです。



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