1265.物語篇:物語10.略奪と救出
前回の「喪失と復讐」物語の変形として「略奪と救出」物語があります。
復讐するついでに取り戻すのです。
前回で「毎日連載1,200日」を達成していました。今日は「1,201日目」です。我ながらよくここまで書いたものだと感心してしまいます。おそらく終わりは近いはず。今しばらくお付き合いいただければと存じます。
物語10.略奪と救出
「復讐」のついでに「奪還」する物語もあります。
奪われたものを「奪還」する物語はRPGでは定番ではないでしょうか。
コンピュータRPGの始祖『Wizardry』は魔術師ワードナに奪われたアミュレットをプレイヤーが「奪還」する物語です。もちろんそれを持ち帰ればゲームが終了します。しかし冒険をいつまでも楽しむために、あえてアミュレットを城に持ち帰らないでダンジョンにいる仲間へ渡したり捨てたりするプレイヤーも多かったのです。
「略奪と奪還」はその一種になります。
略奪
物語が始まってすぐに「略奪」されます。そうしなければ話が始まらないからです。
略奪には「魔道具」「シンボル」「人間」など対象をいろいろと設定できます。
それを奪われたら生活していけないもの。不便になるもの。目の前からいなくなる人。
そういった「困る」ものを奪われなければ、勇者も「奪還」「救出」する気になりません。
たとえば「上水道」を奪われてしまったら。
人々は飲み水にも事欠くようになります。これでは不便このうえありません。
もし地下水を汲み上げていたとしたら。規模は異なりますが、その井戸を奪われてしまえば、生活用水は手に入らないのです。
逆に規模を大きくすればどうなるか。
豊かな水量を持つ河川から生活用水を引いていたとします。その河川がなんらかの理由で枯れてしまったら国中が「困る」はずです。敵は天候を操って雨や雪などを降らせなかったのかもしれません。もし天候すら操れる敵だとしたら、相当苦戦すると思いますよね。
大風呂敷を広げた連載小説にしたいのなら、できるだけ大規模で影響のある「略奪」を「対になる存在」に行なわせてください。
対決
たとえば「隕石落とし」の魔法で国がひとつ滅んでしまう。多くの人命が奪われました。隕石を落とす魔法が使える「対になる存在」とどう戦えばよいのでしょうか。とんでもない魔法で一国の軍勢が丸ごと葬り去られるかもしれません。なにしろ「隕石落とし」なんていうインパクトのある魔法が使えるのですよ。どんな魔法を持っているのか、想像するだけで恐ろしくなります。
隣国の王から「勇者」はそんな魔術師を倒すよう依頼されるのです。どう倒せばよいのでしょうか。そもそも剣だけで立ち向かって勝てるものなのかどうか。そこからして怪しい。
強大な魔法は使えるけれども、引き換えに金属製の鎧を着用できない。多くのRPGはそのような解釈で魔術師を劣化させてバランスを調整しています。もし防御力の高い魔術師が存在したら、倒すのにかなり手こずるでしょう。
どんなに強い存在でも、どこかに弱点がある。読み手に知られないまま戦闘が始まれば、読み手は焦ると思います。このまま戦っても勝てる見込みがありませんからね。
物語には、戦いながら「対になる存在」の弱点を探すタイプと、戦う前から弱点がわかっているタイプがあります。
戦いながら探すタイプは、不安を感じながら読み進め、弱点を見出だした途端希望を覚えるのです。希望が芽生えた途端にワクワクしてきます。この弱点をどう攻めて逆転するのかが気になるからです。
戦う前からわかっているタイプは、最初から「この弱点を突けば勝てる」と思っていますから不安は覚えません。むしろ圧勝するのが当たり前とすら思っています。そこで「その弱点を突くにはさまざまな条件を整えなければならない」ように組み立てるのです。すると「ひとつ目の条件はクリアした。次の条件は〜だったよな」とパズルを解く感覚で読み進められるようになります。
どちらにしても、一定の間は均衡して手に汗握るバトルが繰り広げられるでしょう。
具体的にどんな弱点があればよいのか。
それは魔術師が「奪った」もの「略奪」したものにヒントがあります。
魔術師にとって「それが欲しいから奪った」というだけではお手軽な物語です。
もし魔術師にとってそれが致命傷となりうるものだから人々から取り上げたのなら。魔術師との対決の場に存在する「奪われたもの」を手にしたときに勝利の女神が微笑むでしょう。
それが偶然か必然かは問いません。
主人公がそれを手にして魔術師が狼狽したら、それが弱点だとわかります。
魔王が銀製品を人々から奪っていったのは、銀で攻撃されたら致命傷を負うから。そう気づけば、主人公は手近にある銀製品を武器にして戦えばよいのです。それがフォークとナイフでもかまいません。銀製品を手にされたら魔王は確実にうろたえます。
いかに「隕石落とし」の魔法が使えようとも、銀製品にはかなわない。
どんなに強い存在でも、どこかに弱点がある。
勇者が「偶然」で勝ってはなりません。確信を持って勝つべきです。
ある「物語」が人々の記憶から奪われたとします。その「物語」には魔王攻略のヒントが描かれていたからです。となれば勇者は奪われた「物語」を取り返し、それに従って戦い、そして勝ちます。もちろん賢者から「物語に魔王攻略の鍵がある」という情報を得ておく必要はあるのですが。
奪還と救出
「奪還」は奪われた「もの」を取り返す物語です。世界に一つだけのものかもしれませんし、国宝かもしれませんし、前述したように弱点なのかもしれません。少なくとも「奪う」に足る理由があるはず。
「救出」は奪われた「人」を取り返す物語です。これは世界にひとりしかいませんし、たいていはお姫様で国中から愛されているでしょう。「対になる存在」が独占したくなるのもわかるかもしれません。
主人公はそれらを「対になる存在」から取り返す任務を帯びます。
先ほども書きましたが、それがあると「対になる存在」が困るから人々から奪ったのであれば、それこそが弱点でしょう。
ただ欲しかっただけなら、ある程度ダメージを受けたら「返すから見逃してくれ」と言い出すかもしれません。
主人公としては「どこまで許せるか」で手加減のほどが変わってきます。
「不倶戴天の敵」とまで思っていれば、たとえ囚われの姫が赦しを請うても死ぬまで手を緩めません。それで姫から嫌われるかもしれないのですが。
「奪還」「救出」には「対になる存在」の手から取り返したらそこで終わる物語と、王都へ凱旋して「勇者」と褒め称えられて終わる物語があります。
前者はとくに「冒険者パーティー」に多い。パーティー・メンバーは「対になる存在」を倒す一点で組まれているからです。だから「対になる存在」を倒して「奪還」「救出」したらそこで物語を終えてもかまいません。
後者はとくに「勇者パーティー」に多い。パーティー・メンバーとくに主人公である勇者は王様から直接「奪還」「救出」を依頼されています。だからその依頼を果たして褒美を授かるまでがひとつの物語なのです。
物語の中には、奪われてもいないのに持ち帰ってくるものがあります。その典型が『桃太郎』ですね。桃太郎は鬼退治をして金銀財宝を村へ持ち帰ってきます。その金銀財宝がどこから奪われたものなのかはわからない。それなのに持ち帰ってくるんですよね。見方を変えたら鬼に対する強盗殺人事件ですよ。
最後に
今回は「物語10.略奪と奪還」について述べました。
奪われたものを取り返す物語は、世界中で見られます。
中には「名誉を奪われて、失った名誉を取り戻す物語」もあるのです。これも「略奪と奪還」と言えなくはありません。
主人公はなにを取り返しにいかなければならないのでしょうか。
それを決めれば、簡単に物語がひとつ出来あがる。
それが「略奪と奪還」の物語です。
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