1260.物語篇:物語5.王女と騎士

 なにも男性が上位で、女性が下位の物語だけとはかぎりません。

 女性が上位で、男性が下位。その典型が「王女と騎士」の物語です。

 この形で純愛ものもあるのですが、たいていは逆ハーレムものになります。





物語5.王女と騎士


 前回は「王子と姫」で男性のほうが上の立場の場合を取り上げたので、今回はその逆「女性のほうが上の立場」の場合です。




王女が主人公なら

 基本的に「王女」が主人公なら恋愛ものになります。

 女性が主人公だと、どうしてもラブロマンスの需要が高くなるからです。

 しかも自分のほうが立場が上という状態なら、逆ハーレムにしやすい。

 配下の「騎士」たちは皆「王女」に忠誠を誓っています。

 どんなに不良な「騎士」でも「王女」の意志が絶対であり、それが嫌なら騎士団から追い出されるのです。

 私があまり恋愛ものを読まないので類例は出せませんが、たとえばゲームからアニメに進出したブロッコリー『うたのプリンスさまっ♪』は「王女と騎士」ものだと思います。

 主人公の七海春歌は、アイドルのHAYATOに憧れて作曲家を志し、早乙女学園に入学。学園の卒業オーディションでパートナー申請してきた六人の男子生徒全員と組んで「ST☆RISH」を結成します。一十木音也、聖川真斗、四ノ宮那月、一ノ瀬トキヤ、神宮寺レン、来栖翔のちに愛島セシルも加わります。まさに逆ハーレム。

 逆ハーレムもののゲームとしては光栄(現コーエーテクモゲームス)『アンジェリーク』が初出とされています。ネオロマンスシリーズの第一弾で、普通の女子高生だったアンジェリークが、宇宙を司る女王の後継者候補となります。神秘的な雰囲気を持つ、女王に仕える九人の守護聖の力を借りながら女王を目指す物語です。この守護聖が全員イケメンで、全員が主人公に思いを寄せるので「王女と騎士」の構図が明確になっています。

 ちなみにネオロマンスシリーズは『遥かなる時空の中で』『金色のコルダ』『ネオアンジェリーク』と続いていく、女性に人気のあるシリーズです。ゲーム業界でいち早く女性をターゲットに据え、現在も経営が安定しているコーエーテクモゲームスは、ゲーム業界でいちばん体制が盤石と見られています。同社は男性向けの『信長の野望』『三国志』『真三國無双』『戦国無双』『仁王』などの大ヒット作を抱えていますが、それだけで経営が盤石とはなりません。世の半数は女性なのですから、女性も取り込めてこそ盤石なのです。同社プロデューサーのシブサワ・コウこと襟川陽一社長の慧眼だと言えます。

 ひねった見方をすれば、捨て猫に餌をやる不良と、それを見てしまった女の子の物語は「王女と騎士」の構図になりやすい。関係を持ってしまうと女の子が別の不良から目をつけられて、「騎士」の不良が救い出す物語に発展します。

 以上のように「王女」が主人公になると、ラブロマンスに発展しやすいのが「王女と騎士」物語の特徴です。




騎士が主人公なら

「騎士」が主人公になるパターンもあります。

 私が真っ先に思い浮かぶのは、若干ズレますが水野良氏『ロードス島戦記』の第三期主人公である騎士スパークと、宮廷魔術師の息女ニースの関係です。

 こちらも結果的には恋愛関係に発展しています。「王女と騎士」物語はどうしても恋愛ものになりやすい傾向にあるのです。

「王子と姫」のような「守る者と守られる者」との関係でありながら、立場は守られる側のほうが上。「権威と忠誠」の世界です。なのでどうしても守る側に最低でも思慕の感情がないとやっていけません。

 だからこそ「王女と騎士」は恋愛ものになりやすいのです。

 もちろん「王女」よりも上の「王妃」や「女王」であっても、この構図は使えます。

 最も有名な「王妃と騎士」の物語は『アーサー王伝説』に出てくるアーサー王の妃グィネヴィアと“湖の騎士”ランスロットとの不義の愛ですね。円卓の騎士が二手に分かれてつぶしあいに発展するほどの火遊びとなりました。それが元でアーサー王も死んだのです。

 こちらもややズレますが渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のヒロイン雪ノ下雪乃を奉仕部部長つまり「王女」に、主人公の比企谷八幡を部員つまり「騎士」にしてラブコメに仕立てたのもよい着眼点だと思います。




恋愛ものにしたくなければ同性にする

「王子と姫」「王女と騎士」のように、関係性として「恋愛」ものになりやすいパターンがあります。

 しかし純粋に「王子」と「姫」、「王女」と「騎士」の物語にしたいときは苦労するでしょう。

 そんなときは「ふたりを同性にする」と解決します。

「王子と騎士」「王女と女騎士」なら「友情と忠誠」の物語になるからです。

「王子と騎士」なら田中芳樹氏『銀河英雄伝説』の主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムと親友のジークフリード・キルヒアイスの関係が最も腑に落ちると思います。同じく田中芳樹氏『アルスラーン戦記』のアルスラーン王太子と万騎士マルズバーンのダリューンも「王子と騎士」の関係です。こちらも「友情と忠誠」の物語になっています。

 しかし小説投稿サイトでは「王子と騎士」よりも「王女と女騎士」の物語のほうが有名なようです。男くさい雰囲気が駄目なのでしょうか。それとも小説投稿サイトの多くの読み手は男性で、男同士の「友情と忠誠」よりも、女同士の「友情と忠誠」のほうが楽しめるからでしょうか。

 私は『アーサー王伝説』で育ちましたので「国王と騎士」の物語に親しみがあり、『秋暁の霧、地を治む』も「王子と騎士」のような作品を目指しています。外形は多少崩してはいますが。そのせいで恋愛要素がまったくありません。無骨な戦争小説として構想しています。元となる中編小説『暁の神話』でも女性っ気がほとんどありませんでしたからね。それに気づいて王国側に姫を出したり、帝国側に皇女を出したりと無い知恵を絞りましたが。でも基本は「王子と騎士」の物語なので、いくら周りに女性を並べても恋愛要素にはならないんですよね。

 だから恋愛要素を強めたいのなら、「王女と騎士」のように同性ではなく異性にしたほうが単純な構造になって書きやすいと思います。

 そして「王女と騎士」「王子と女騎士」のほうが作品のウケもよいのです。

 同性で恋愛ものにしてしまうと、薔薇ものか百合ものになりがち。どちらかといえば成年向けです。

 だから「王女と騎士」「王子と女騎士」のほうが格段にウケるのかもしれませんね。




最後に

 今回は「物語5.王女と騎士」について述べました。

 前回の「王子と姫」同様「恋愛」ものになりやすい関係です。

「恋愛」を避けたければ同性にする手もあります。しかしややもすると同性愛に発展しかねないので、読み手を選んでしまうかもしれません。

 そこで最初から「恋愛」ものを書こうと決めて、その中で「王子と姫」を用いるか「王女と騎士」を用いるか考えればよいと思います。

 ちょっと応用すれば「女の子と不良」のように現代ドラマへ置き換えられるのです。

 あくまでも理解しやすいように「異世界ファンタジー」の「王女と騎士」と定義しただけですので、いろいろと応用も考えていただければと存じます。



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