1258.物語篇:物語3.勇者と魔王

 今回は「勇者と魔王」の物語です。

「異世界ファンタジー」では定番中の定番。この物語がなければ「異世界ファンタジー」である必然性すらなくなります。

「勇者と魔王」の物語に必要なものを書き出してみましょう。





物語3.勇者と魔王


 勇者と魔王が最終的に対峙する物語は、とくに異世界ファンタジーでは鉄板の展開です。

 魔王は世界を征服しようとし、勇者はそれを阻止しようとする。

 規模によっては全宇宙の存立を懸けた最終決戦ともなります。

 今回はそんな王道に焦点を絞りました。





勇者と魔王は両極端

「勇者と魔王」の物語は、基本的に性質が両極端です。

 世界を壊す者と救う者。支配する者と解放する者、征服する者と阻止する者。闇に飲み込もうとする者と光を取り戻そうとする者。

 この両極端な存在こそが「勇者と魔王」に表されます。

 気をつけていただきたいのは、言葉に惑わされないことです。

「勇者」と「魔王」という言葉には「選ばれし血族の勇者」と「強大な魔力を持つ魔王」というテンプレートなイメージがついてまわります。

 しかしこの物語篇での「勇者」と「魔王」にそれを適用しないでください。発想が縮こまってしまいます。

 あくまでも「両極端な存在」であるという程度に受け取ってください。

「いじめっ子」と「転校生」の組み合わせでも「勇者と魔王」は成り立ちます。

 暴力でクラスを支配しようとするいじめっ子が「魔王」で、それに立ち向かう転校生が「勇者」としてもよいのです。

 要は、いかに「支配する者」と「解放する者」の構図を創り出せるか。それだけです。




勇者が主人公なら

 主人公が「勇者」であれば、強者への反逆として物語が展開していきます。

 人々が「魔王」に支配されて圧制を強いられている。

 彼らを解放するのが「勇者」の仕事です。

 主人公は基本的に一般人ではなく「選ばれし血族」が多い。

 しかし絶対に一般人では駄目なのかと言われればそうでもありません。

 中には一般人が「勇者」へと成長して「魔王」を倒す物語もあるのです。

 たとえば水野良氏『ロードス島戦記』の主人公パーンは、父親が聖国ヴァリスの聖騎士だったという経歴は持ちますが、ザクソンの村で暮らす一村人にすぎませんでした。それが「立派な騎士になりたい」という思いから幼馴染みの神官エトとともに冒険の旅へ出かけます。最終的に「魔王」である「灰色の魔女」カーラを倒して物語は終わりです。

「選ばれし血族」は王族であったり勇者の子孫であったりします。こちらは「勇者ロト」シリーズのエニックス(現スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST』の主人公を真っ先に思い出すでしょう。

 主人公には、自分の力では抑えられないような「とてつもないパワー」が宿っていることも多いですね。そのパワーこそが「魔王」を倒す鍵となります。代表格はJ・K・ローリング氏『ハリー・ポッター』シリーズの主人公ハリーですね。今ならマンガの堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』の主人公・緑谷出久もこのパターンでしょう。

 そして多くの「勇者」がたどるのは「挫折」です。

 仲間の誰かが死んだり、家族が殺されたり、冒険に失敗したり。

 序盤から順調に成長してそのまま「魔王」に勝つ「勇者」はまずいません。必ずなんらかの「挫折」を味わい、それを克服する過程で身につけたものを用いて「魔王」に打ち勝ちます。

「勇者」と言ってもそのあり方は人それぞれです。

 物語の中で対極に位置する「魔王」を倒す者。それが「勇者」なのです。




魔王が主人公なら

 反対に「魔王」が主人公になる物語もあります。

 橙乃ままれ氏『まおゆう魔王勇者』、和ヶ原聡司氏『はたらく魔王さま!』、丸山くがね氏『オーバーロード』などが代表作でしょうか。

 こちらは基本的に世界征服を企んでいない「魔王」が「勇者」と対峙する形になります。

 まぁ魔族を率いて世界征服を企み、成功させる「魔王」の物語だと「勧善懲悪」の逆になるのでウケにくい、という弱点もあるからです。

 そういう意味では「銀河を統一しよう」とした田中芳樹氏『銀河英雄伝説』の主人公ラインハルト・フォン・ローエングラム、「新世界の神になろう」としたマンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』の主人公・夜神月も「魔王」になりますね。どちらも順調に計画を進めていて、大詰めに入ってから逆転負け(病死も覇者からすれば負けでしょう)、という展開でした。

「魔王」は特別な力を持っています。多くの場合は権力です。世界征服を「魔王」ひとりで成し遂げるのは相当な労力を強いられます。それより四天王なり八部衆なりに各地域の攻略を任せたほうが手っ取り早いですし、危険も少ない。彼らを操るためにはカリスマと権力が必要です。

「魔王」として特別な力「魔力」を有している場合もあります。夜神月は名前を書かれた人は死ぬ「死神のノート」を所有している。だから夜神月は「魔王」と呼んでかまいません。

 現代劇でも「勇者と魔王」の物語が作れるひとつの見本ですね。




さまざまな世界観

「勇者と魔王」は主に「異世界ファンタジー」「剣と魔法のファンタジー」として書かれます。

 しかし『銀河英雄伝説』は「SF」ですし、『DEATH NOTE』は「現代ファンタジー」です。

 別のジャンルでも「勇者と魔王」は構成できます。

「推理」なら江戸川乱歩氏の小説が有名です。「魔王」が怪人二十面相、「勇者」が明智小五郎という形で実現しています。

「ロボットアニメ」でも富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』で、地球圏の覇権を握ろうとするジオン公国総帥ギレン・ザビが「魔王」で、彼らに脅かされる地球連邦軍のアムロ・レイが「勇者」です。しかし実際に「勇者」が戦うのはジオン軍のシャア・アズナブルであり、「魔王」を倒したのは「魔王」の妹キシリア・ザビ。そのキシリアを殺したのはシャアです。ちょっと複雑な形をしているので、肝心の玩具を売る相手であるちびっ子にはウケませんでしたが、少し上の世代にはおおいにウケました。





最後に

 今回は「物語3.勇者と魔王」について述べました。

「勇者と魔王」は「対決構図」の最たるもので、ひじょうにわかりやすい物語です。

 その利点を活かせば大ウケ間違いなし。

 ですが『機動戦士ガンダム』のように複雑化してしまうとまったく響かなくなります。このあたりのさじ加減が難しいのです。

 数多く書いて「勇者と魔王」の物語に慣れてください。

 多くの「小説賞・新人賞」授与作が踏襲している鉄板のパターンだからです。



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