1247.学習篇:受賞作は掲載された小説投稿サイトで分析する

 今回は「紙の書籍」版ではなく「応募原稿」版を分析することについてです。

「紙の書籍」は出版社レーベルの担当編集さんが口を出して悪いところを直しきった「完成原稿」です。この「完成原稿」で受賞したわけではありません。

「応募原稿」の段階ですでに大賞が獲れたのですから、分析するなら「応募原稿」版です。





受賞作は掲載された小説投稿サイトで分析する


 たいていの「小説賞・新人賞」受賞作は「紙の書籍」化されます。

 だから「紙の書籍」を買って勝因を分析しようとする方が多いのです。

 しかし大賞が獲れた勝因は、応募された小説投稿サイトに載っている原稿がすべて。

 いくら出版された「紙の書籍」を分析しても、どこに勝因があるのかなんてわかりません。




紙の書籍はじゅうぶんに編集されたあと

「紙の書籍」は書き手が担当編集さんと二人三脚で作り上げた「完成原稿」です。

 それを読んでいると「私にはこんな作品は書けないなぁ」と落胆するかもしれません。

「ここまで完成度が高くないと受賞できないのか」と慨嘆するかもしれません。

 しかし受賞した原稿を読むと、実はそれほど完成度が高くなかった場合も多いのです。

 そもそも「紙の書籍」は「買って読ませる」作品であるため、最低限の質を担保しなければなりません。そのため担当編集さんが書き手へ徹底的に指示を出して書き改めさせています。

 そんな「紙の書籍」は質や完成度が高くて当たり前。もし質や完成度が低い「紙の書籍」であれば、もはや「反面教師」です。

 だから「小説賞・新人賞」受賞作は、あくまでも小説投稿サイトに残っている「応募原稿」を分析してください。

 最初から「紙の書籍」レベルの作品も中にはあります。

 しかしほとんどの受賞作はどこか拙く粗い。そのどこがよかったのか。最終選考で賞を勝ち取ったのか。

 それを分析すれば、あなたにも「小説賞・新人賞」が獲れるはずです。

 もちろん「紙の書籍」にも価値はあります。

 しかし分析には「応募原稿」版との差を見つけるときだけに限られるのです。

「小説賞・新人賞」を獲りたければ、受賞作の「応募原稿」を分析しましょう。

「紙の書籍」版を読んでも、実力差にへこむだけです。

「応募原稿」を分析してもだいじょうぶなのだろうか。そう思いますよね。

 心細くなってしまうでしょうが、安心してください。その「応募原稿」こそが受賞作なのですから。このレベルまで拙く粗くてもよいのだと知れば、肩の荷が下りる方も多いと思います。

「小説賞・新人賞」を獲りたいからと、目標を高く持つのは悪くはありません。しかしあまりにも高すぎる目標は萎縮を招きます。「こんなに素晴らしい作品でなければ、小説賞・新人賞が獲れないのなら、私には無理だ」と思ってしまうのです。




連載小説よりも一巻完結の長編小説を分析する

「小説賞・新人賞」を獲るためには、基本的に一巻の長編小説が書けなければなりません。

 中には十万字以上なら無制限に受け付けている「小説賞・新人賞」もあります。

 ですが、参考になるのはあくまでも原稿用紙三百枚・十万字の長編小説です。

 なぜ連載小説が駄目で、一巻の長編小説がよいのでしょうか。

 物語の展開を無理なく読ませる最適な分量だからです。

 こうなった原因はどこにあるのか。つまりどこに伏線が張ってあるのかを記憶できるのも十万字程度だと思います。このあたりは読み手の記憶力にもよりますが、八割の人数をカバーするなら十万字程度がベストです。

「しかし、紙の書籍化するときに連載小説にさせられるのだから、最初から連載小説を分析したほうがよいのではないか」

 そう考えたくなるのもわかりますが、それは杞憂です。

「取らぬ狸の皮算用」

 まだ「小説賞・新人賞」すら獲っていないのに、今から「紙の書籍」化されたときを考えても、よい作品など書けません。

 まずはきっちりと十万字の作品を書きあげましょう。

 もし受賞して「紙の書籍」化されて連載作品となった場合は、十万字の外に出したエピソードを再び組み込めばよいのです。

「本来こんなエピソードがあって書きたかったのだけれど、十万字を大きく超えてしまうから書けなかった」

 そんなエピソードを連載時に復活させれば済む話です。

 まさかとは思いますが、十万字ぶんのエピソードしかない、なんてことはありませんよね。

 長編小説を募集する「小説賞・新人賞」では、連載化できるかも受賞の目安になっています。つまり「あ、ここは省いているな」と選考さんに気づかれる必要があるのです。

 たとえば春夏秋冬の順に書いていく物語で、それだと十万字をはるかに超えてしまうとします。

 このときあえて「夏」を省いて書いたらどうでしょうか。

 選考さんは「あれ? 夏が書いていないけどどうしてなんだろう?」と思うはずです。そこで「十万字に収めるためにあえて飛ばしたんだろうな」と察します。

 このように「連続しているはず」のものがところどころで飛び飛びになっていると、「あえて省いているんだな」と見られるのです。

 よい例が川原礫氏『ソードアート・オンライン』でしょう。ブログに書いてあった作品からかなりのエピソードを省いて、たった二巻に詰め込んでいます。メインの物語は第一巻だけで収まっていますから、かなり大胆なカットが施されているのです。

 そのため内容を補完するために『ソードアート・オンライン プログレッシブ』が連載される運びとなりました。

 それも『ソードアート・オンライン』が単巻で記録的なヒットを飛ばしたからです。

 サブエピソード集の第二巻、次なる舞台へとつながり、都度ヒットし続けたからこそ、原点である「浮遊城アインクラッド篇」を再構成するに至りました。

「小説賞・新人賞」を獲りたければ、十万字をはるかに超えるエピソードを泣く泣く削りました、くらいの「時間的飛躍」が不可欠です。本来ならここに書くべき物語がある。それを匂わせている作品は連載化させやすいのです。

「小説賞・新人賞」を獲りたければ、作品の完成度がある程度高くあるべき。ですがさらに改良の余地がある、差し込めるエピソードがある。そういう作品は評価が高くなりやすい。

 そこまで計算に入れて原稿を書くのは難しいのですが、計算でやれないと賞は獲れないと思ってください。

 十万字できっちりと完結した作品を書く。それもたいせつですが、「書かれていないものがまだある」と選考さんに思わせなければ連載はつかみとれません。

 いかに「のりしろがある」と思わせられるか。

 案外そんなところに受賞のきっかけは転がっているものです。





最後に

 今回は「受賞作は掲載された小説投稿サイトで分析する」について述べました。

「小説賞・新人賞」の受賞作はたいてい「紙の書籍」化されます。

 そのために開催しているのですから当たり前ですよね。

 ですが「紙の書籍」版は分析には役立ちません。プロの担当編集さんが作品のアラを取り除き、魅力を引き立ててブラッシュアップしてくるからです。

「小説賞・新人賞」が開催された小説投稿サイトに「応募原稿」は残されています。

 この「応募原稿」版を分析するのです。すると見えてくるものが必ずあります。こんなに雑でも獲れるんだと思えたら気が楽ですよね。



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