1237.学習篇:読む力が学びの始まり

 今回は「読解力」についてです。

 小説の場合は「なにを指しているのか」「それをどう表現しているのか」を読み取る力が求められます。





読む力が学びの始まり


 あなたは小説をどれだけ読んでいますか。

 小説投稿サイトなら読み放題ですよね。それなのに動画を観たりSNSをチェックしたり。それが悪いとは言いませんが、それだけの時間があるのなら、小説をもっと読みましょう。できれば「プロ」の「紙の書籍」をたくさん読むべきです。

 古語だらけですが「文豪」の作品なら「青空文庫」に無料で所蔵されています。

 なぜ小説を読まなければならないのでしょうか。

 どんな書籍でも読めば身になるのではないか。そう思いますよね。

 実用書には「テーマ」がありません。唯一「○○ができるようになります」とだけ。小説のような「テーマ」は望むべくもないのです。




読まなければ書けない

 小説を書きたいなら、たくさん「小説を読む」べきです。

 どのような文章が「小説」なのか。それを知らずに「小説」は書けません。

 知らずに書いた「小説」が「小説賞・新人賞」を獲るなんて離れ業は誰にもできないのです。

 芥川龍之介賞最大のヒット作となった『火花』を書いたお笑い芸人コンビ・ピースの又吉直樹氏はバラエティー番組『アメトーーク』において「読書芸人」で登場するくらいの読書家。番組で周りが引いてもお構いなしに小説を語り尽くしています。

 それだけ読み込んでいれば、あれだけの作品が書けるのです。

 又吉直樹氏最大の強みは「読書量」だと言えます。

 過去芥川龍之介賞を授かったどの書き手よりも、小説をたくさん読んできたはずです。

『火花』は「読書量」に裏打ちされた、確かな文章力・表現力で書かれた傑作。同時受賞の羽田圭介氏『スクラップ・アンド・ビルド』は売上の面では『火花』の十分の一程度。それほど『火花』は頭抜けていたのです。

 では、なぜ傑作を書くために他人の小説を数多く読まなければならないのでしょうか。

「読書量」が担保するのは前出しましたが「文章力」「表現力」です。

 とくに論理破綻していない物語を書く「文章力」は、どの書き手も持っていなければなりません。

 小説をたくさん読めば、「テーマ」をどのように提起すればよいのか構成すればよいのかが実例でわかります。こう書けば「テーマ」が伝わってくる。この書き方では「テーマ」が訴えてこない。その差は小説を数多く読まなければ見えてこないのです。

 小説は読み手へ「テーマ」を投げかける芸術です。

「テーマ」が伝わらない小説は、「小説」ではありません。ただの文章です。

 本コラムでも「テーマ」の伝え方をあれこれ書いてあります。

 しかし「テーマ」の伝え方を身につけるには、実例を数多く体感するしかないのです。

 どんなにすぐれた「小説の書き方」であっても、「テーマ」の伝え方は人それぞれ。

 どんな書き方をしても、結果的に「テーマ」が伝わればよい。

 極端な話、「テーマ」をそのまま一文で書いて終わっても、それで読み手に伝わればよいのです。

 たとえば孫武氏『孫子』の「兵は拙速を尊ぶ」という一文。これだけで言いたいことが伝われば、孫武氏は名筆家なのです。『孫子』は解説本が今でも多数出版されているほど著名な古典でもあります。この「兵は拙速を尊ぶ」の一文も孫武氏の真意が表れている、つまり「テーマ」が明確に表れているのです。

 この「テーマ」を体現した名言があったからこそ、中国三国時代・魏で曹操の軍師となった天才の郭嘉は「兵は神速を尊ぶ」と語りました。郭嘉は『孫子』を深く読んでいたのです。それだけでなく、当時手に入った兵法書はすべて読んでいたでしょう。天才とは「温故知新」で古典に学び、いかに「テーマ」の真意を見抜いて現在へ応用できるか。その才能を指すのではないでしょうか。




読解力がないと小説は書けない

 小説をただ読めばよいわけではありません。意味を正確に理解して、その文章のどこがどのような意図で書かれているのか。それを見抜けなければ、あなたの小説へフィードバックできません。

 このような、文章の意図を見抜く能力を「読解力」と呼びます。

 小説をたくさん読めば、知らぬ間に「読解力」はみるみる高まる。読まずに「読解力」は得られないのです。

 最近「マニュアル(取扱説明書)が読めない」方が増えました。

 会社の新入社員に「マニュアル」を配布しても、それがどういうときに役立つのかわからないのです。まさに「わからないことがわからない」状態。

 社会では基本的に「マニュアル」は読めて当たり前。とくに日本は高度な「マニュアル化社会」です。会社が規定している「マニュアル」を逸脱すれば上司から怒られ、給与や昇進の査定に響きます。

 であれば「マニュアル」の「読解力」を高めればよさそうに思えるかもしれません。

 しかし「マニュアル」の「読解力」なんてものは存在しないのです。

 では「読解力」を高めるにはどうすればよいのでしょうか。

「小説をたくさん読む」。これに尽きます。

 実は小説を楽しめる方でないと、「マニュアルになにが書いてあるのか」は理解できないのです。

 つまり文章の一文一文になにが書いてあるかを正確に理解し、それがどのような順番で書いてあるのか。手順どおりにするとどういった効果があるのか。

 これは「物語を理解する」力を持っていないと、いくら「マニュアル」を渡しても理解できません。

 本コラムを読んだだけでも「小説が書ける」ようになります。

 ですが「伝わる小説」が書けるかどうかは、あなたの「読解力」次第です。

 テクニックや心構えを書いてきましたが、それがどういった効果をもたらすのか。それを知らなければ「伝わる小説は書けない」のです。

 だからこそ「小説を書きたい」のなら「小説を数多く読む」のが最適解とされています。

 多くの「小説の書き方」書籍に共通する「書くために読め」の原則。

「手本」とする小説を見つけ出すためにも、数多くの小説を読みましょう。

 小説を楽しんで読めない方が、他人を楽しませる小説など書けません。書きようがないのです。

「読み専」がいるから「書き専」もいるのか。

「書き専」など存在しません。「文豪」も数多くの小説を読んできたからこそ名作が書けたのです。

 又吉直樹氏の例から「読み専」が執筆すると、大ヒット作品は書けます。

 これから「小説を書こう」とする方は、とにかく名作を数多く読んでください。

「文豪」の名作だけに限りません。ライトノベルの名作だけを数多く読んでも、質の高いライトノベルは書けます。

 数多く存在する小説投稿サイトのほとんどが「ライトノベル」を主力としているのです。そこで開催される「小説賞・新人賞」は「ライトノベル」がほとんど。一般文芸の「小説賞・新人賞」を開催している小説投稿サイトはなかなか見当たりません。せいぜい「日常もの」「恋愛もの」の「小説賞・新人賞」が開催されているくらいです。

 これから小説を書いてプロデビューしたいのであれば、小説投稿サイトで「ライトノベル」の「小説賞・新人賞」を獲るか、一般文芸誌の「小説賞・新人賞」に応募してインパクトを残すか以外に道はありません。

 どちらにしても「あなただから書ける作品」が大賞を射止めます。他の誰かも書けそうなものを大賞にしようとすれば、候補作が多くなりすぎるのです。受賞作は必ず「差別化」されていなければなりません。誰もが思いつきそうなネタでも「展開が斬新である」という理由だけで大賞は獲れるのです。

 最近の小説投稿サイト開催の「小説賞・新人賞」を獲った作品の多くは、テンプレートなタイトルを付けています。にもかかわらず大賞が獲れたのは「展開が斬新である」という「差別化」がなされているからです。

 あなたがこれから書く作品が、他の書き手と「差別化」を図れているのか否か。

 同じような作品を数多く読まなければ、その作品が「差別化」されているかなんてわかりません。

 まったく読まずに「差別化」された作品が書けたら、天才というより「鬼才」です。

 恐ろしいまでの幸運を手に入れた「バケモノ」以外のなにものでもありません。

 私たち非才の身は、たくさん読んで、それらとは異なるものを書くのが最善手です。

 あまり読まずに苦労を重ねて書いた作品が、実は普遍なもので誰もがこぞって書いていた。なんて小説の世界ではよくあります。

「あなただから書けた」作品を執筆するためにも、既存の小説を数多く読むべきなのです。





最後に

 今回は「読む力が学びの始まり」について述べました。

「マニュアル化社会」の日本において、「マニュアルが読めない」方が増えました。

 これは「小説を読んでいない」から、が過言ではないのです。

 あなたが狙う「小説賞・新人賞」では、過去どのような作品が受賞したのかだけでなく、どのような作品が応募されたかもチェックしてください。

「あなただから書けた」作品は、似た小説を数多く読まなければ「差別化」できないのです。

 過去の作品を読まずに、次の「小説賞・新人賞」は狙えません。

「差別化」はあなたにとって最強の武器となります。

 だから正しく「読む」力が求められるのです。



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