1220.技術篇:変態になれ

 今回は「変態」についてです。

 先に断っておきますが「変質者になれ」ではありません。

 あまりに凄すぎて「変態」レベルに達してしまった人を指しています。

 そんな「変態」はいつの時代にも求められているのです。





変態になれ


「変態」という言葉から、変質者や性的異常者を連想する方も多いでしょう。「変態」は英語で「HENTAI」として「日本製の成人向けアニメ・漫画・ビデオ」を指す言葉として用いられています。

 しかし『Google検索』によると「1. もとの姿から変わった形態。転じて異常な状態。 2. 形態を変えること。」とあります。

 ですがここで言う「変態」は「極め尽くした人」を指す言葉です。

「異常な状態」は「究極まで到達した状態」にも用います。英語の「FREAK」「INSANE」が近いでしょうか。




ひとつを極めた変態

 小説界での「変態」といえば時代小説家の池波正太郎氏が挙げられます。

『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』『真田太平記』『雲霧仁左衛門』など戦国時代・江戸時代を舞台にした歴史小説で一世を風靡しました。

 それらの作品のなにが「変態」だったのか。

 食事です。

 当時の食事なんて、今と比べれば粗食もよいところ。

 なのに池波正太郎氏は、とてもおいしそうに書くのです。

 とにかく執拗なまでに粘着するくらい「おいしそうに」感じられます。

 重ねて書きますが、当時の食事なんて、今と比べれば粗食もよいところ。

 それをとても「おいしそうに」書ける。これって料理に惚れ込んでいないとなかなか難しいと思います。

 池波正太郎氏は江戸時代のレシピ本を所蔵していたそうです。美食家としての一面もありますので、実際に江戸時代の料理を作った経験があるのではないでしょうか。だからこの料理がどんな味わいで、どんな香りで、どんな歯ざわりで。なぜ「おいしい」のか、どこが「おいしさ」を引き出しているのかを知っていたのです。

 この域に達すれば、すでに「変態」と呼んでかまいません。

「江戸時代料理」の「FREAK」「INSANE」に違いないのです。


 もうひとり小説界での「変態」といえば推理小説家の西村京太郎氏が挙げられます。

 代表作は『トラベルミステリー・十津川警部』シリーズで、「時刻表」を巧みに使った推理小説を量産しているのです。

 西村京太郎氏は「時刻表」をくまなく読み漁り、「空白の数分間」が存在する路線や駅を好んでトリックに利用しています。

 そんな西村京太郎氏は最近の時刻表を読んで「最近の列車は殺しにくいね」と語っているそうです。ダイヤグラム(ダイヤ)の過密化とそれに伴う電子化によって「空白の数分間」がほとんど見当たらなくなってきたからです。

 さまざまなものが電子化され、ダイヤを組むのも人手ではなくコンピュータが調整する時代となりました。突発事態が発生しても、コンピュータが即座にダイヤ調整を行ない、短時間で正常化するようになったのです。

 そんな「時刻表の電子化」と今も戦っている西村京太郎氏の執念は、まさに「変態」の一語に尽きます。


 私たちには池波正太郎氏の「江戸時代料理」、西村京太郎氏の「時刻表」並みにハマっているものがあるでしょうか。

 私は大のコンピュータオタクで、小学二年からコンピュータに親しんでいますので、「コンピュータ」に関してはかなりの「変態」だと思います。

 だから「異世界にスマートフォン」という発想も「是」としているのです。動力が電気である必要も、部品が半導体である必要もありません。

 コンピュータの仕組みを単純に表せば「0と1」です。これを元にしてコンピュータは成立しています。魔力やオリハルコンで動こうとも、「0と1」を元にしていればコンピュータ。それが小型化されれば「異世界にスマートフォン」があっても不思議はないのです。

 究めたからこそ到達できる発想は必ずあります。

 野球を究めてメジャーで大活躍した選手なら、それに伴う知識や発想が必ずできるものです。だからこそイチロー氏はマリナーズの「GM補佐」に就任しました。彼の類い稀な知識や発想がチームに還元できると判断されたのです。


 皆様にも人には負けない「知識」や「発想」がきっとあります。

 それこそがあなたを「変態」にさせる鍵です。

「剣と魔法のファンタジー」小説ばかりを山ほど読んできた方なら、「剣と魔法のファンタジー」の知識や発想では誰にも負けないのではないでしょうか。

 それなら「剣と魔法のファンタジー」こそがあなたを「変態」にしてくれます。

 たとえば剣や魔法の種類にとても詳しかったら、余人が考えつきそうもない剣や魔法を登場させられるのです。

「変態」には一般人にない知識や発想が必ずあります。

 これは英語にもなった性的な意味での「HENTAI」にも言えるのです。

 一般人にはとても理解できないようなものを総称して(一部尊敬の念も込めて)「変態」と呼びます。




変態と天才は紙一重

「変態」になるとひとつを究めますから、その分野では第一人者となれます。

 池波正太郎氏にとっての「江戸時代料理」、西村京太郎氏にとっての「時刻表」はそれぞれを尊敬されるべき「変態」へと押し上げているのです。

 そして「変態」なほどに究めれば、いずれ「天才」へと評価は変わります。

 そもそも「変態」と「天才」は読んでみても明らかに似ているのです。

「HENTAI」と「TENSAI」は「△EN△AI」とほぼ同じ。子音がふたつ違うだけです。

 徹底的にこだわるものをひとつ持てば、まさに千人力。誰もあなたを止められません。

 女性の美しさを精緻に書き分けたり、モテる男性のイケてる部分を全面に押し出したり。

「天才」とは尊敬するべき「変態」なのです。

「相対性理論」のアルバート・アインシュタイン氏、「発明王」トーマス・アルバ・エジソン氏はともにとてもオチャメな一面がありました。

 偉大な発見をするには、あらゆるものを適度にカバーする「オールラウンダー」よりも、ひとつの分野を究める「スペシャリスト」であるべきです。

 体操選手では、最後の「オールラウンダー」として絶対王者の内村航平氏がいます。新しい選手としては谷川翔氏ですね。それに対して床と跳馬の「スペシャリスト」白井健三氏や、鞍馬の「スペシャリスト」萱和磨氏などがいます。東京オリンピックでは体操は四名の選手で団体競技に臨まなければならず、欠点の少ない「オールラウンダー」を必要としているのです。だから故障明けとはいえ内村航平氏の復帰と、谷川翔氏の成長が待たれます。大会が一年延期となったので、内村航平氏の練習量と谷川翔氏の成長が見込めるぶん体操では団体金メダルが狙えるでしょう。

 しかし「オールラウンダー」ばかり揃えると、種目別のメダルをあきらめざるをえません。日本代表の目指すところは団体、個人総合、種目別の完全制覇です。そのためには六種目でメダルを狙える選手構成にしなければなりません。種目別に出られるのは各国一種目二名です。団体出場四人と種目別要員の二名の六名で挑まなければなりません。各種目の「天才」をいかに集めて構成するのか。ここが水鳥寿思監督の腕の見せどころです。

 一芸を究めた「変態」が「天才」へと開花すれば、日本体操も安泰でしょう。白井健三氏も床と跳馬だけでなく、その他の種目でも得点力を身につけなければなりません。そうすれば谷川航氏か萱和磨氏が「オールラウンダー」となったときに、「全種目制覇」を目指せそうです。頑張れニッポン!





最後に

 今回は「変態になれ」について述べました。

 名作を安定して書くには、なんでもよいので一芸を究めてください。

 他の追随を許さない一芸を持っていれば、他人に後れをとらなくなります。

 その一芸が「変態」と呼ばれるほどのレベルに達したら「スペシャリスト」となり、それが昇華して「天才」へと開花するのです。

 池波正太郎氏や西村京太郎氏だけでなく、歴史小説なら司馬遼太郎氏や宮城谷昌光氏くらい「変態」を究めれば、誰もが「天才」と見てくれるようになりますよ。



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