1209.技術篇:自分の頭で考え、自分の言葉で表現する

 小説投稿サイトでランクインしたいから、トップランカーになりたいから。そんな理由で他人が作ったテンプレートに手を出すのは凡策です。

 そういう作品は掃いて捨てるほど満ちあふれています。

 小説投稿サイトは、なにより書き手本人が考えて表現する力を養う場として活用するべきです。





自分の頭で考え、自分の言葉で表現する


 小説は必ず「自分の頭で考え」「自分の言葉で表現」しなくてはなりません。

 他の誰かの知恵を借りるだけでは、あなたが書く必要はない。

 他人の言葉を引用するだけでは、あなたが書く必要はない。 

 いずれも書き手があなたである理由にはならないのです。




自分の頭で考える

 小説には「時節による流行り」が確実にあります。

 小説投稿サイト『小説家になろう』ではハイファンタジージャンルの「主人公最強」「俺TUEEE」「チート」「無双」や「追放」「復讐」「ざまぁ」といった類いが今の流行りです。

 ではこれらをただ踏襲するだけで「小説賞・新人賞」は獲れるのでしょうか。

 まず獲れません。

 それはあなたが「自分の頭で考えた」物語ではないからです。つまりオリジナルティーがない。

 ちょっとした不可思議な物語。そんなファンタジー小説があってもよいのです。

 なにもハイファンタジージャンルがすべて「剣と魔法のファンタジー」でなくてもかまわない。

 現実世界とはなにが違うのか。なにかが違っていればそれは「幻想」つまり「ファンタジー」です。

 主人公がライトセーバーを使ってもよいし、宇宙へ飛び出してもよい。

 なにもハイファンタジーは「剣と魔法のファンタジー」でなければと固定観念にとらわれなくても書ける時代なのです。

 またたとえ「主人公最強」になるとしても、最初から「主人公最強」を狙って書く場合と、書いた結果「主人公最強」になっていた場合とでは結果に雲泥の差があります。

「自分の頭で考え」て書きたいように書いてみたら「主人公最強」だった。これは先に「主人公最強」であるわけではなく、「自分の頭で考え」た結果、書きあげてみたら「主人公最強」になってしまった。それならよいのです。

 少なくとも「自分の頭で考え」て物語を構築し、整合性をとりながら「あらすじ」を仕上げていく。だからバランスのとれた「主人公最強」になります。

 先に「主人公最強」ありきだと、どうしても主人公の強さを見せようとしすぎて、戦闘シーンが多くなるのです。

 原稿用紙三百枚・十万字の中ではよくて三回の戦闘が精いっぱい。四回以上になると「ただ戦っているだけ」の作品になってしまい、人間関係が希薄になってしまいます。

「剣と魔法のファンタジー」の魅力は確かにバトルシーンなのですが、それしかないのであれば、なにも面白くありません。読み手が主人公へ感情移入するには、平穏な日常シーンが欠かせません。ここでどれだけ共感を得られるかで、感情移入できるかどうかが分かれます。

 考えもなしに流行りに飛び乗るのではなく、自分の書きたいものを書いた結果として流行りの展開に近づけていくのが正しい手順です。

 小説を書きたいなら、まずは「自分の頭で考え」ましょう。

 そこからでしかウケる小説は書けませんよ。




自分の言葉で表現する

 小説を読んでいて「なんか他の作品に似ているような」と思ったことはありませんか。

 もし同じジャンルなら「このジャンルだとこういう表現になってしまうのかな」と感じるかもしれない。

 ですがまったく異なるジャンルでも、同じような表現になってしまう方がけっこういらっしゃいます。

「今流行りの表現で書いたほうが評価される」と思い込むのだけはやめましょう。

 どの作品を読んでも、まったく同じ表現で書かれているとしたら、その作品を読む必要なんてありません。書き手によって作品によって表現が異なるから、自分にピタリと合う表現を求めて読み手はさまよい続けるのです。それなのにどの作品を読んでも同じ表現ばかり。これでは読む気もなくしてしまいます。

 表現は本来ジャンルによって異なるものですし、書き手によっても違っているべきです。

 どんなジャンルにでも言えますが、とくに書き手は「自分の言葉で表現する」力を身につけてください。

 まずはあなたの「鉄板の表現力」を身につけましょう。それをもとにジャンル別、作品別で表現を工夫するのです。

 この表現はこのジャンルに合っていると感じるからこそ、読み手はスラスラと先を読み続けられます。

 たとえばハイファンタジージャンルの「剣と魔法のファンタジー」なら、「勧善懲悪」もので善の主人公目線の一人称視点が基本です。そしてどのくらい主人公の心の声を取り入れるか。語り口自体を主人公の口調に委ねてしまうか。語り口は文語体にして客観性も付与してみるか。ときどき脇役にも視点を授けて多彩にする方もいますが、これは神の視点になりやすいので基本的には却下です。

 また「慣用句」「故事成語」をどれだけ文章に使うかも決めなければなりません。

 なにせ舞台は異世界です。異世界に現実世界の「慣用句」「故事成語」がそのまま使えるはずはありません。


 たとえば「呉越同舟」という言葉を異世界ファンタジーで使ってよいものか。これは書き手の裁量次第です。基本的にはNGですが、異世界語を転生した主人公の知っている単語に置き換わる能力があるのなら、まぁ「あり」かもしれません。でもかなりのご都合主義ですよね。

 ちなみに「呉越同舟」は孫武『孫子』九地篇が出典です。中国春秋時代に仲の悪かった呉の国と越の国の人たちが同じ舟に乗り、難事に遭遇すると両の手のように助け合う意です。これにより「中の悪い者同士でも同じ災難や利害が一致すれば、協力したり助け合ったりする」たとえとなりました。

 正直「呉越同舟」の言葉を使わずに同じ表現をするのはかなり難しいと思います。しかし別の表現を求められるのが「異世界ファンタジー」なのです。


 では「逆鱗に触れる」はどうでしょうか。異世界ファンタジーならドラゴンは必須だから「逆鱗に触れる」ならよいのではないか。そう考えてしまいますよね。ですがこれも中国の「故事成語」です。韓非『韓非子』説難篇が出典で、「龍が持つといわれる、触られると激しく怒る『逆鱗』に触って龍を怒らせる」意になります。これが一般化して「天子や目上の人を怒らせる」意となりました。

 こちらも「逆鱗に触れる」を用いずに同じ表現をするのはかなり難しいはずです。ですが「呉越同舟」と同じく「異世界ファンタジー」なら別の表現にしましょう。


 このように見てくると、私たちがどれだけ無意識に「慣用句」「故事成語」を用いているかわかってきませんか。

 すると書き手は疑心暗鬼に陥ります。「この表現ってもしかして慣用句や故事成語なのでは?」と。

 実はその考え方が語彙を増やし、表現力を磨くのです。

 今使おうとしているこの言葉は「慣用句」「故事成語」で、原典を知らない方が使うはずがない。だから「異世界ファンタジー」で書いては駄目なんだ。

 そう思うから似た意味の語彙を増やせるのです。

 つまり「言葉に敏感」になります。

 本来なら「慣用句」「故事成語」かもしれない言葉すべてを独自に表せないと書き手として失格です。

 実際「小説賞・新人賞」の一次選考でも「慣用句」「故事成語」は厳しくチェックされているようです。

 ここでウルトラCがあります。

 それは「異世界ファンタジー」であっても「主人公を異世界転生・異世界転移させ」て、現代日本人を主人公にしてしまうやり方です。

 近頃とみに「異世界転生」「異世界転移」の作品が増えたのも、実は「書き手が言葉に自信を持てない」からです。

 異世界人を主人公にすると「慣用句」「故事成語」の壁が立ちはだかります。しかし現代日本人が主人公なら、書き手が知っている表現を制限なく使えるのです。

 おそらく「異世界転生」「異世界転移」はそのうち下火になります。

「小説賞・新人賞」を獲る作品に「異世界転生」「異世界転移」が選ばれなくなると想定するからです。

 なぜそんな想定が可能なのか。

 供給過剰だからです。

「異世界ファンタジー」はけっして「異世界転生ファンタジー」でも「異世界転移ファンタジー」でもありません。「異世界を舞台にしたファンタジー」を指しているはずです。

 であるなら、いつまでも「異世界転生」「異世界転移」が幅を利かせていられると思うほうが浅はか。時代はいずれ純粋な「異世界ファンタジー」へと回帰するでしょう。

 そのとき「慣用句」「故事成語」に詳しい書き手が大賞を射抜きます。





最後に

 今回は「自分の頭で考え、自分の言葉で表現する」について述べました。

 どこかの誰かが書いたものを、あなたが書いたところで正当には評価されません。

 あなたが自分の頭で設定を考え、あなた自身の言葉で表現するから、あなたが書く意義も生じます。

 他の誰かでも書ける作品なんて、「小説賞・新人賞」には値しません。

 少なくとも数年内に潮目は来るはずです。



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