1204.技術篇:読ませるのはひとりでよい

 今回は「万人ウケを狙わない」ことについてです。

 最初から狙ってできるよなら、あなたはとっくに「プロ」になっています。

 これから書き始める人は、特定の個人に物語を伝えるつもりで書いてください。





読ませるのはひとりでよい


 小説は万人に読まれる作品が強い。

 これは結果論に過ぎません。

 最初から「万人ウケ」を狙うとたいてい失敗します。八方美人になって、尖った作品にはならないからです。




万人ウケを狙わない

 万人が読みたがる作品がわからない。だから「小説賞・新人賞」でも大賞を獲れない。

 そう思い込んでいる方が殊のほか多いものです。

 そもそも「万人が読みたがる作品」なんて存在しません。

「でもあの作品はミリオンセラーになった。絶対に万人が読みたがる作品は存在する」と信じて疑わない。

 日本人は現在およそ一億二千万人います。読書に適さない方をざっくり除くと約一億人です。

 では「万人ウケ」とはいったい何人にウケたらよいとお考えでしょうか。

 それは「ミリオンセラー」つまり百万人に読まれれば「万人ウケ」だ、と勘違いしている方が大多数でしょう。

 しかし「万人ウケ」を文字どおり「一万人にウケる」と解釈すれば、一万人が読めば「万人ウケ」なのです。

 一億人のうち一万人が読めば「万人ウケ」。どうですか、達成できそうですよね。なにせ読者推定人口の一万分の一つまり〇.〇一パーセントでしかないのですから。

 日本人の〇.〇一パーセントが読めば「万人ウケ」と言えます。

 それでも「いや百万人に読まれる作品でなければ小説賞・新人賞は獲れない」と思っている方もいらっしゃるでしょう。

 しかし芥川龍之介賞受賞作でもミリオンヒットした作品は数少ない。お笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』、村上龍氏『限りなく透明に近いブルー』、柴田翔氏『されどわれらが日々──』の三作だけです。

 どうですか。これでも「ミリオンセラー」が「万人ウケ」だと断言できますか。

 芥川龍之介賞でも売れる作品は十万単位がせいぜいです。

 ライトノベルの「小説賞・新人賞」で「百万部」売るなんて不可能だと思いませんか。

「シリーズ累計百万部」の作品ならいくつかあります。そういう作品はたいていマルチメディア展開されており、けっして原作小説だけの力で「シリーズ累計百万部」に到達したわけではないです。

 当初の予定どおり「百万部」を目指すのか。「万人ウケ」を求めて「一万人」に読まれることを目指すのか。

 もちろん目標は高いに越したことはありません。しかし桁がふたつも異なると書き手が受けるプレッシャーは格段に異なります。

 それなら、より手軽に書ける「一万人」を目指したほうが建設的ですよね。




たったひとりに読まれる

 あなたの親族・仲間・友人・知人は全部で何人いらっしゃるでしょうか。おそらく一万人はいないはずです。

 親族だってあなたが知っているのはせいぜい二十人いればよいほうでしょう。

 仲間は職場仲間やサークルなどで同じ目標を持っている方です。こちらは会社や学校の規模にもよりますが、あなたが直接接するのは五十人くらいではないでしょうか。

 友人は旧友、級友がほとんどで、生涯で百人いたら楽しいでしょう。唱歌にも「友達百人できるかな」とありますからね。

 知人は親族・仲間・友人に含まれない、ただ知っているだけの人で、多くて千人いるかいないか。

 つまりあなたの人脈はせいぜい千人程度しかいないのです。


 ということは、あなたとゆかりのあるひとりに読まれる作品を書けば、全体の千分の一には読まれます。そして同じ価値観を持つ十万人も読んでくれるのです。

 どうですか。「万人ウケ」を狙うより「たったひとりにウケる」作品を書こうとしたほうが、格段に書きやすいと気づけますよね。より読まれる作品になるとわかりますよね。

 ゆかりのある人の集団が十万個あるのですから、たったひとりのために小説を書けば、結果的に十万部は売れるのです。

「万人ウケ」を狙って頭をひねり続けるより、あなたにゆかりのある特定のひとりに向けて書けば、より多くの方に読まれます。

 小説投稿サイトで人気のあるジャンルを書こうとすれば、ランキングの研究を続けて今の流行りを捉え、速筆で書くしかありません。少しでも出遅れると致命的です。

 この手のハイエナ商法は、流行り始めたときに似たような作品を大量生産して物量で圧倒するしかありません。

 しかし「たったひとりのため」ならば、自分のペースで書けますし、伝えたい相手も明確ですから文体や盛り込む知識も調整しやすいのです。

 書きやすさの点からも、「たったひとりに読まれる」ほうがすぐれています。


 あなたはそれでも「ミリオンセラー」を目指しますか。「万人ウケ」を狙って頭をひねり続けますか。

 伝えたい相手は、あなたにゆかりのある「たったひとり」でよいのです。その方に読んでもらって、訴えたいことがきちんと伝わればそれだけで「よい小説」になります。

 最も「悪い小説」は、伝えたい相手が見えていない作品です。誰に伝えたいのか明確でないため、結果誰にも伝わらない作品になってしまいます。

 小説は誰かになにかを訴えたいから書くものです。訴えたい「テーマ」をはっきりさせていないと、小説を読んでもなんの「テーマ」も受け取れません。

 ムダに時間を費やされたと感じた方々が、あなたの作品を高く評価するでしょうか。ブックマークするでしょうか。あなたが読み手だとしたら、そんな作品を評価したりブックマークしたりなんてしませんよね。それが小説の真実です。

 繰り返しますが「ミリオンセラー」は狙わなくてよい。「万人ウケ」も気にしない。

 明確に浮かぶ「誰かひとり」へ「テーマ」を伝える努力をしましょう。





最後に

 今回は「読ませるのはひとりでよい」について述べました。

「ミリオンセラー」も「万人ウケ」も、狙って書くのは案外難しい。

 しかも狙って書いて本当に百万部売れるか、万人ウケするかはまず無理です。

 それなら「たったひとり」に「テーマ」が伝わるように書きましょう。

「たったひとり」にさえ「テーマ」が届けば、評価とブックマークは必ず集まります。

 伝えるのは「たったひとり」のあの人にだけ。

「ラブレター」と同じです。恋する相手「ただひとり」にだけ、あなたの気持ちが伝わればよい。

 あなたはまさか百万部売れる「ラブレター」を書きたいのですか。

 それなら百万人を魅了する「ラブレター」を書く努力をしてください。

 私たちは「たったひとり」に思いが伝わる「ラブレター」を書くだけです。



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