1181.技術篇:苦手には手を出さない
今回は「苦手を克服する必要はない」ことについてです。
「剣と魔法のファンタジー」がいちばん「紙の書籍」化されている。だから苦手だけど書くしかない。そう思っていませんか。
苦手なものをあえて書く必要はありません。
苦手には手を出さない
小説投稿サイトの連載や「小説賞・新人賞」への応募では、けっして「苦手には手を出さない」でください。
たとえどんなに「剣と魔法のファンタジー」が人気でも、あなたが「苦手」だと思っているのなら書くべきではないのです。
実績から苦手を克服する必要はない
ランキングにも載りやすいし紙の書籍化の実績も多いのが「剣と魔法のファンタジー」です。
『小説家になろう』でも『カクヨム』でも、「剣と魔法のファンタジー」は紙の書籍化の実績が最も多い。だから「剣と魔法のファンタジー」を書けなければ「プロ」になれないと思い込んでしまいます。
そう、思い込みなのです。
実際には「推理」や「日常」でも紙の書籍化された作品はあります。単に総量が多いから「剣と魔法のファンタジー」が書けなければ、と思い込むだけです。
そもそも「推理」も「日常」も「小説賞・新人賞」のお題としては定番で、ノンジャンルも含めれば、つねにどこかの小説投稿サイトで募集されています。
ただ「剣と魔法のファンタジー」向けの「小説賞・新人賞」の開催数やそれに強い小説投稿サイトが多いだけなのです。
たとえば「剣と魔法のファンタジー」は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』ではダントツです。しかし『エブリスタ』『ピクシブ文芸』『魔法のiらんど』では「恋愛」がダントツで、「剣と魔法のファンタジー」はそれより数段劣ります。
だから「恋愛」で「小説賞・新人賞」を獲って紙の書籍化したいと考えておいでなら、『小説家になろう』『カクヨム』などにこだわらず、『エブリスタ』を主戦場にしましょう。
本来なら、数ある小説投稿サイトは得意なジャンルがすべて異なるべきなのです。
しかしそれだと販売数が多いドル箱の「剣と魔法のファンタジー」を出版できなくなります。だからたとえ「恋愛」が強い『エブリスタ』でも「剣と魔法のファンタジー」には一定の需要はあるのです。逆に『小説家になろう』でも「恋愛」には一定の需要があります。
だから無理して「剣と魔法のファンタジー」を追いかける必要はありません。
苦手を克服しようとしてなくてもよいのです。
個人的な話ですが、私は小学生の頃に梅干しが大好きで、食べすぎるくらい食べていました。もう塩分過多が甚だしかっただろうなと。しかし中学生になるとあれだけ大好きだった梅干しがまったく食べられなくなったのです。食べようにも体が受け付けません。食べようとすると吐いてしまうくらいに。これで兄が私を「梅干し」と呼び始めました。もう反発心しかありませんよ。ですが三十歳を過ぎてからはまた普通に食べられるようになっていました。一時的に「塩分が危ない」状態だったから、体が拒否反応を起こしていただけで、それが改善されたら苦手でなくなっていた。
これ、小説でも同じだと思います。
最初に読んだ小説が「剣と魔法のファンタジー」だったので、それが好きで小説を書き始めた。それはよいのですが、ある程度書けるようになってきたら、とたんに「剣と魔法のファンタジー」が書けなくなるのです。好きなのに書けない。似ていますよね。
で、無理に克服しようとしてもがいてみるのですが、どうやっても克服できません。「私には才能がないのかな」と思い始める時期です。実際には理想が高すぎるだけ。
最初に読んだ「剣と魔法のファンタジー」が傑作であればあるほど、それが壁となって立ちはだかるのです。
壁が立ちはだかったときは、無理に克服しようとしないでください。
回り道をして別の書けるジャンルを書けばよいのです。それで小説は書き続けられます。書き続けていれば、いつか「剣と魔法のファンタジー」にもう一度挑戦してみようかなと思うものです。そのときにまた挑戦してみればよい。まだ書けないようなら、また時間をおくのです。そうしているうちにそれまで書けなかった「剣と魔法のファンタジー」がまた書けるようになります。
苦手だけど挑戦しなければ成果がつかめない。「プロ」の書き手にはなれない。
そんなときは焦らないでください。
書けるものを書けばよいのです。
「剣と魔法のファンタジー」が書けなくて「プロ」になれないのではありません。
「剣と魔法のファンタジー」が書けないと「プロ」になれない、と思い込んでいるから書けないのです。
書店のライトノベルコーナーへ行ってみてください。そこに並べてある作品を見れば、「恋愛」「ラブコメ」「日常」の類いがかなり多いと気づけます。最近では鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の影響から「現代ファンタジー」も人気がありますし、川原礫氏『ソードアート・オンライン』の影響から「VRMMOゲーム」の需要も相当多い。
そうなのです。「剣と魔法のファンタジー」が書けないと「プロ」になれない、なんてことはまったくありません。他のジャンルでもじゅうぶんに「プロ」を目指せます。
無理に「剣と魔法のファンタジー」を書こうとしなくてもよいのです。
書ける物語が面白ければ、その他のジャンルでもじゅうぶん戦えます。
苦手を克服するには
とはいえ、どうしても今すぐに苦手な「剣と魔法のファンタジー」を書かなければならない。今募集している「小説賞・新人賞」は「剣と魔法のファンタジー」だけ。
そんなときは、要素を分けて書きましょう。
「企画書」の段階では「異世界」だけを設定して、他は「恋愛」「ラブコメ」「日常」などあなたが書けるものにしてください。
そこに「戦闘シーン」をひとつだけ入れ込めるのです。たったひとつでかまいません。勝とうが負けようがどちらでもよい。ただ単に「戦闘シーン」があればよいのです。
その「戦闘シーン」の「箱書き」に、使わせたい「魔法」をひとつだけ決めます。こちらもひとつだけでかまいません。
はい、これだけで「剣と魔法のファンタジー」の完成です。
思わず「えっ?」と思いませんでしたか。「こんな子どもだましが通用するとでも?」と思ったかもしれませんね。
だいじょうぶです。これだけでじゅうぶん「剣と魔法のファンタジー」を名乗れます。
そもそも「剣と魔法のファンタジー」はなにをもって規定されているのか。
まず「戦闘シーン」が必要です。
「戦闘シーン」がなければ「剣と魔法」である必要はなく、単に「異世界ファンタジー」になるだけ。「戦闘シーン」があるから「剣と魔法のファンタジー」なのです。
そもそもたかだか三百枚・十万字の長編小説で三回も四回も「戦闘シーン」を書いてしまうと、どうしても対称となる「日常シーン」が手薄になります。「ただ戦っているだけの小説」になってしまうのです。それでは「小説」としてのバランスに欠けます。最低でも「戦闘シーン」と「日常シーン」は一対一くらいの比率でないと、人物の深堀りができません。つまり「ただ戦っているだけの小説」になります。
いくら「剣と魔法のファンタジー」の華が「戦闘シーン」でも、「ただ戦っているだけの小説」にはなんの魅力もありません。
次に「魔法」が必要です。
「剣と魔法のファンタジー」では「剣」はなくてもかまわないけれども、「魔法」は必ず盛り込む必要があります。「魔法」がなければ「時代小説」を書いたほうがはるかにラクです。吉川英治氏『三国志』のような作品を書けば、歴史・時代小説好きを取り込めて売上もじゅうぶんに見込めます。それに吉川英治文学新人賞も狙えますからね。もちろん「時代小説」としてある程度歴史的な事実を下敷きにしなければなりません。しかしその程度は今の時代インターネットでいくらでも手に入ります。
それに比べて「異世界ファンタジー」は、世界をまるごとひとつ生み出さなければならないという高いハードルがあるのです。たとえ「魔法がない」としても、決めておかなければならないことが多すぎます。
だから「剣と魔法のファンタジー」なら少なくとも「魔法」がなければなりません。
ではなぜ「剣」はなくてもかまわないのでしょうか。「魔法」に万能性があれば、あえて「剣」で戦う必然がないからです。そして超常の力である「魔法」は、たいていの「剣」よりも強いはず。であれば「剣」がなくても物語は創れますよね。
寓話『白雪姫』『シンデレラ』も「魔法」はあるけど「剣」は出てきません。日本でも『浦島太郎』は亀が人間を龍宮城へ運ぶという「超常の力」で進めています。『桃太郎』は「剣」も出てきますが、犬・猿・雉と人間の桃太郎が会話をする。これも「超常の力」が働いていますよね。日本の童話は人間と動物が会話している作品が多いのです。これらも、対象が児童というだけで「異世界ファンタジー」のようなもの。
そう考えたら、なんだか書けるような気がしてきませんか。
「戦闘シーン」と「魔法」をひとつずつ使えば、「剣と魔法のファンタジー」の完成です。
もし「剣と魔法のファンタジー」が苦手な方は、この二点を意識して物語を作ってみてください。きっと書けるはずですよ。
同じ要領で「恋愛」が苦手でも「恋愛」小説が書けるようになります。「告白シーン」と「相手を意識する動機」をひとつずつ付け加えればよいのです。
最後に
今回は「苦手には手を出さない」について述べました。
基本的に「苦手」なら無理して書く必要はありません。
もしあなたが「苦手」なジャンルでしか「小説賞・新人賞」が開催されていないのなら別ですが。その場合でも「得意」なジャンルの「小説賞・新人賞」は年一回以上開かれています。また小説投稿サイトをこだわらなければ、通年開催されているものです。
だから無理に書かなくても、たいていなんとかなります。
それでも無理をしたいなら、コツを見つけて織り込んでいきましょう。
「剣と魔法のファンタジー」ならひとつの「戦闘シーン」とひとつの「魔法」さえあればよいのです。他は「恋愛」でも「ラブコメ」でも「日常」でもかまいません。このふたつがあれば「剣と魔法のファンタジー」の完成です。
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