1170.技術篇:異国情緒
今回はちょっと変わって「異国情緒」について。
なぜここに行き着いたのか。
「剣と魔法のファンタジー」で読み手が「今、異世界にいるんだ」と感じられなければ、「異世界ファンタジー」である必然性はありません。
数少ない語彙を漁って、思いついたのが「異国情緒」でした。
異国情緒
現在流行りの「異世界ファンタジー」ですが、そこが異世界だという雰囲気、情緒は書けているでしょうか。
「今、自分は異世界にいるんだ」と改めて認識できなければ、舞台が異世界である必然性はありません。
単に「剣と魔法のファンタジー」だから「異世界」が舞台だ。というのであれば、なんの根拠にもならないのです。
異世界って現実世界の一部ですか?
そもそも「異世界ファンタジー」の「異世界」は現実世界の一部なのでしょうか。
気候や風土が異なる世界。だから「異世界」のはずです。
でもよくよく考えると、気候や風土が異なる世界はなにも「剣と魔法のファンタジー」である必要はないんですよね。
それこそ「アマゾンの奥地」なんて日本とは気候や風土がまったく異なる「異世界」そのものだと思いませんか。
「エジプト」でピラミッドが立ち並ぶ砂漠地帯だって「異世界」ですよね。同じアフリカなら「サバンナ」だって日本とはまったく気候や風土が異なります。北極圏・南極圏だって白夜があったり日が昇らない時期があったり。
それらを舞台にしても「異世界ファンタジー」は書けるのではないでしょうか。
「現実世界」ではない場所だから「異世界」という定義なのかもしれません。それなら「アマゾンの奥地」「エジプト」「サバンナ」「北極圏・南極圏」は「現実世界」に類するものでしょう。
では肝心の「異世界ファンタジー」の「異世界」とは、どのような世界なのか。あなたは文章で読み手へ明確に示せているのでしょうか。
ただ単に「異世界」だと書いていませんか。「中世ヨーロッパ風の剣と魔法のファンタジーで、ドラゴンとエルフが存在している世界」。だから「異世界」。そんなふうに考えていませんか。
これでは「異国情緒」いえ「異世界情緒」がないですよね。
せっかくやってきた「異世界」なのに、それがどんなところなのかをじゅうぶん説明できていない書き手が存外多い。
試しに小説投稿サイトで掲載されている「異世界ファンタジー」の作品をいくつか読んでみてください。舞台がどんな「異世界」なのか書いていない作品が多いと気づくはずです。
「異世界情緒」のない「異世界ファンタジー」に魅力はありません。
少なくとも「異世界」である必然性がないのです。
それこそ「アステカ」であっても「メソポタミア」であってもかまわない。
馴染み深いところでは「ギリシャ」でもよいはずです。マンガの車田正美氏『聖闘士星矢』はギリシャ神話の世界観が舞台の「異世界」でも成立する話を現代の「ギリシャ」で描きましたよね。「異世界ファンタジー」を創作するのなら舞台は「異世界」でなければ書けない物語にするべきです。「現実世界」で書ける物語を、あえて「異世界」にする必然性がありません。
それなのに小説投稿サイトの「異世界ファンタジー」は、そこが「異世界」である必然性のない物語が多いのです。
「中世ヨーロッパ風の剣と魔法のファンタジーで、ドラゴンとエルフが存在している世界」だから「異世界」。
そんなステレオタイプな発想が、読み手に「どれも同じような異世界だな」と感じさせます。
「小説賞・新人賞」へ応募する作品の舞台がステレオタイプな「異世界」だったとしたら、それだけで評価は大幅に下がると思ってください。
「小説賞・新人賞」はコテで判を押したような、凡百の「異世界」では駄目なのです。
なぜ「異世界ファンタジー」の世界観は皆「中世ヨーロッパ風の剣と魔法のファンタジーで、ドラゴンとエルフが存在している世界」なのでしょうか。
書き手が好きな作品がそんな世界観だったから。そんな方も多いでしょう。
しかしひとつの大ヒット作品が多くの書き手に多大な影響を与えた場合。まったく同じ世界観の作品が「小説賞・新人賞」に殺到します。
それが本当に「小説賞・新人賞」で有利になるのでしょうか。構想力不足が前面に出てしまいませんか。私なら同じ世界観だというだけで「落選」にします。
だからといって、あなたに「今からJ.R.R.トールキン氏になれ」とは言いません。ですが「オリジナルな要素をひとつ加えたり減らしたりした世界観」を創る努力はしましょう。
それが凡百の「異世界ファンタジー」の世界観から脱する第一歩となります。
異国情緒を醸し出そう
では他人とは異なる「異世界」の「異国情緒」はどう書けばよいのでしょうか。
つぶさに書きましょう。
世界の有り様や国々の体制、支配階級や奴隷階級の有無、国民や市民の生活や思想。
そういった「現代日本」とは異なる点をひとつずつ取り上げてつぶさに書いていくのです。
その際「○○が違う」のように書かないでください。比較するのではなく、事実をそのまま書けばよいのです。
「石造りの強固な城壁に囲まれた城塞都市マルメルは、アトス山の麓に築かれていた。」
私としては「城」が二回出てくるので不満ではありますが、たとえばこう書きます。
都市が城壁に囲まれているのであれば、日本式のお城の風景ではないですよね。日本はお城と城下町が分かれて存在しています。城壁に囲まれているのは京都や奈良のような中国唐代の首都・長安をモデルにした古都だけです。
さらに「アトス山」と書くだけで「ギリシャ神話っぽい」雰囲気が出せます。
たった一文。これで「この作品は古代ギリシャのような世界観なのだろう」と判断できますよね。
そこに服装や食事などの習俗を書いて、さらに雰囲気を固めていくのです。
街では焼き鳥の屋台があるかもしれない。いきなり和テイストが加わりますが、単なる「ギリシャ神話っぽい」世界観が独自色を帯び始めますよね。また屋台があるというのも活気のある街なんだなと思わせる。クレープ屋台とかケバブ屋台とか。いろんな文化を寄せ集めれば「国際交流が盛んな街」つまり「国際都市」という印象も与えられます。
ほら、どんどん世界観が顕になってくるではありませんか。
どんな「異世界」なのかが見えてきて、「異世界情緒」が醸し出せますよね。
「異国情緒」の書き方を知りたいなら「旅行ガイド誌」「旅行パンフレット」はとても参考になります。
どんな歴史を持っていて、それに根ざした文化があり、どんな人たちがどんな様子で暮らしているのか。名所旧跡にも工夫ができますね。
現在の小説とくに小説投稿サイトの作品には、この「異国情緒」が圧倒的に足りていません。
ライトノベルは「キャラクター小説」。だから人物描写に重きを置くのはわからないでもないのです。しかし人々がどのような世界でどのような立ち位置で生活しているのかがまったく不明な作品が多い。本来キャラクターはそういった背景のうえで確立されたもののはずです。
「異国情緒」「異世界情緒」あふれる作品は、それだけで「観光ガイド」のように読み応えがあります。
人物だけを書いても、世界観がわからなければ、どんな立場の人たちなのかが伝わりません。
ぜひ「異国情緒」「異世界情緒」が感じられる描写を増やしてください。
最後に
今回は「異国情緒」について述べました。
ライトノベルは「異国情緒」を感じない作品が多い。
しかし小説はどのような世界観で起こった出来事なのかを明確に示さなければ、面白いかどうかわからないのです。
「異世界ファンタジー」だとしても「異国情緒」「異世界情緒」が感じられる文章を目指しましょう。
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