1169.技術篇:小説の偶然は必然
今回は「偶然」についてです。
本コラムでは何回か取り上げているテーマです。
しかし、小説投稿サイトではまだ「偶然」を使いこなせていない作品が多いのも事実。
そこで今一度「偶然」について考えてみましょう。
小説の偶然は必然
文章としていくらすぐれた「偶然」の出来事を書いても、読み手はそれを「必然」だと思ってしまいます。
なぜなら、すでに文字となって読まれるのを待っている状態だから。
「偶然彼女に出会ってしまった。」なんて出来事があっても、書き手の仕業なのは誰の目にも明らかです。
小説の中で起こる「偶然」は、書き手が企図した「必然」なのだと理解しておきましょう。
たまたま起こるから偶然
「偶然」を小説で表現するのは難しい。
もちろん「あれ? 彼女って昨日駅のホームで落とし物をした子だよな?」という「偶然」を演出することは可能です。
でもちょっと「あざとさ」を感じませんか。
そもそもふたりが出会うのは、書き手が「あらすじ」の段階ですでに決めてあったはずです。「あらすじ」に書いていないで出会ってしまったのなら、それは確かに「偶然」かもしれません。
でもそんな行きあたりばったりな展開にしてしまうと、後々のストーリーに大幅な変更が求められます。これまで築き上げてきた「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」が通用しなくなってしまうのです。
でもこういった書き方をする書き手もかなりの数いらっしゃいます。中には「偶然」の力を信じて、作品を書き進める方もいらっしゃるのです。まぁよほど筆力があるか、それこそ「偶然」が働くかしなければ、物語は破綻してしまいますけどね。
書き手は「あらすじ」を作る段階で、すでに「偶然」を起こす場所と人を限っておくべきです。それ以外の「偶然」なんて起こしてはなりません。「プロット」まで仕上げたのに、清書する段階で思いついた「偶然」をなんの準備も用意もなく組み込んではならないのです。
どうしてもその「偶然」を起こしたほうが物語は格段に面白くなる。
そういう「ひらめき」が働くほど筆力が高まっているのなら、いっそ「偶然」に身を任せてもよいかもしれません。その後に発生する物語の修正の嵐を乗り越えるだけの筆力があなたにあるのならです。
また「偶然」が面白くなる秘訣だと感じて、毎回「偶然」を起こしてしまう書き手も多い。
しかし「偶然」とは「たまたま起こる」から「偶然」なのです。「たまたま」を漢字で書くと「偶(もしくは偶々)」になります。毎回起こるものを「たまたま」とは言いません。
では何回に一回の割合で「偶然」を起こせばよいのでしょうか。
基準はいっさいありません。
毎回起こすのは「偶然」ではありませんが、百回ほど連載して一回だけ「偶然」が発生するというのも現実にはありえません。
絆は偶然から生まれる
人と人との出会いは、多くの場合「偶然」によって起こります。
学校にたとえて考えてみましょう。
あなたは一年A組に割り振られました。そこには三十人の生徒が在籍しています。中には小学生時代からの幼馴染みがひとり含まれているかもしれません。しかし他の多くの生徒は、今回初めて出会った人ばかりでしょう。
つまり幼馴染みがいるのも、初めて会った二十八人がいるのも「偶然」の産物なのです。
出会いはつねに「偶然」によって生まれます。
もちろん、その「偶然」は先生・教師たちによる「必然」の積み重ねです。
ですが生徒たちにとっては「偶然」だと思います。
あなたは新しく出会った人たちと、手探りで関係を築いていくのです。そうやって生まれた人間関係は、やはり「偶然」の産物だと感じます。
人によっては「運命」さえ感じるでしょう。
人間関係つまり「絆」は「偶然」から生まれるのです。
小説にとって、出会いはすべて「偶然」。そう割り切っていれば、登場人物が増えたり減ったりするのが、たとえ書き手の意図どおりだったとしても、読み手は「偶然」や「運命」を感じ取ります。
あざとくない偶然
「あざとさ」を感じてしまうような「偶然」は面白くなりません。
いかにして「あざとさ」が出ないような「偶然」を書けるのか。それが「筆力」の一部分を構成しています。
では「あざとくない偶然」とはどのようなものでしょうか。
いつも私が先に回答を述べていますので、今回はここで手を止めてご自身の頭で考えてみてください。
どんな「偶然」なら「あざとくない」のか。
どうですか。「あざとくない偶然」は思い浮かびましたか。
では答え合わせです。
実は「あざとくない偶然」なんてありません。すべての「偶然」は「あざとい」のです。
そんな答えだとは思わなかった。もっとちゃんとした答えがあるはずだ。
もしそういうものが思い浮かんでいれば、それはあなたにとっての正解です。
思い浮かばなかった方が真実を射抜いているとはかぎりません。
あくまでも私の答えが「あざとくない偶然」はない、なのです。
ちなみに「あざとい」ってどういう意味かわかりますか。
Google検索によると「1. 押しの強い。どぎついやり方だ。2. 小りこうだ。」とされています。
つまり「強引さを感じさせるやり方」が「あざとい」のです。
よく考えてみてください。
小説に人物を登場させる。たったそれだけのことですが、初めて登場する際は前置きなしにポンと出しますよね。
ときどき人物Aから紹介されて人物Bが登場することもある。でもそう何度も使える手ではありません。
毎回紹介されて登場を繰り返すと、かえって「あざとさ」が目につきます。
「偶然」出会った形にしたほうが「あざとさ」は薄いのです。
つまり紹介されてもいいですが、基本的に「偶然」出会ったほうが「あざとくない」と言えます。
これが「あざとくない偶然」はない、という答えの解説です。
最後に
今回は「小説の偶然は必然」について述べました。
出会いに限って話を進めてきましたが、他の事象についても同じです。
いかに「偶然」を装っても、それは書き手にとっての「必然」であり、書いているときはどうしても「あざとさ」を感じてしまいます。
ですが「あざとくない偶然」なんてありません。
だから堂々と「偶然」を「必然」として書いていきましょう。
読み手にとって、書き手の「必然」は「偶然」に映ります。
「偶然」を変に意識するほうが「あざとく」なりがちなのです。
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