1161.技術篇:リストアップの効用

 今回は「リストアップ」です。

 どんなものを並べ上げるかで、いろんなことを説明できます。





リストアップの効用


「小説を書く」行為は創造的なものです。

 対して「リストアップ」行為は現実を直視するものです。

 物語の中で、あえて目の前にあるものをひとつずつリストアップしていく過程は、一見不要にも思えます。しかしあえてリストアップすることで、物語の具体性つまりリアリティーがぐんと上がるのです。




リストアップで見えてくるもの

 あなたが今椅子に座って机へ向かっているとします。

 机の天板にはどんなものが載っているでしょうか。

 それをリストアップしていくだけで、あなたの人柄や職業などが見えてきます。

 現役の受験生なら、机の上には参考書、辞書、ノート、シャープペンシル、消しゴム、ペンケース、蛍光ペン(カラーマーカー)などがずらりと並んでいるはずです。人によってはノートパソコンひとつで受験勉強に励んでいる方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、机の上にノートパソコンしか載っていない可能性もあります。ノートパソコンしか載っていない受験生はとても効率重視なのかもしれません。いちいち参考書からノートへ転記して蛍光ペンで色を着けていく手間を、ノートパソコンでインターネットの受験対策サイトを利用するだけで代用できる。時代を数歩先取りしていると思いませんか。

 実は私、中学の中間試験や期末試験、また高校受験の際、SHARPの『X1turboII』というパソコン(当時はマイコンと呼ばれていました)を使って勉強をしていました。問題は教科書から拾って作り、答え合わせもパソコン上で行なっていたのです。おかげで学校で習ったことの八割以上を記憶できるようになりました。ただし英語に関してはまったく通用しなかったのです。そもそも英語に興味がなかったのと、プログラム言語である『BASIC』を先に憶えたせいで、文法がさっぱりわからなかった。またたいせつな時期に入院してしまい、文法を習うところの授業を受けられなかったせいでもあります。独学で英文法を憶えようとパソコンを相棒に格闘しましたが、苦手意識は残ったまま。高校受験では英語だけが及第点で、残り科目は余裕で八割以上正解しています。高校へ行けば改善するかなとも思ったのですが、一度苦手意識がつくと、なかなか払拭できるものではありません。結局高校では五段評価で英語以外は五、英語は三か四といういびつな評価をもらい続けました。

 このように机の上になにが載っているかで、どのような人物なのかを読み手へ伝えられるのです。どんな性格なのか、どんな職業なのかは机の上が教えてくれます。

 以上は机の上をリストアップしましたが、そもそも部屋にあるものでもどんな性格なのか、どんな職業なのかもわかります。

 ホステスの部屋ならクローゼットがたくさんあって、その上にブランドバッグの箱が山のように積まれている。あとはベッドとテーブルとテレビ、あと冷蔵庫と電子レンジがあれば、ワンルームでもたいていのことはできます。

 大手商社のサラリーマンと、定年間際の公務員では部屋にあるものは大きく異なるはずです。

 そういったものをリストアップしていけば、リアリティーが高まります。

 読み手にとってリストアップはアイテムの羅列にしか見えません。しかしアイテムの羅列によって読み手の脳内で映像化されるのです。だからリアリティーを感じます。




性格を直接書かずリストアップしてみる

 どんな人物なのかを読み手へ伝えようとするとき、性格や気質をそのまま書いてしまいがちです。

 たとえば「彼は優しい心の持ち主だ。」なんて書いてみたりする。

 それで読み手へ伝わるのかといえば伝わりません。

 最善手はエピソードやシーンをひとつ用意して、そのときの対処法を読ませることです。こうすれば読み手は自然と人物の性格を理解できます。

 それ以外の方法として、部屋の中にあるものをリストアップして「猫」がいたり「鳥かご」があったりすれば「動物好きなのかな」と読み手は思ってしまうのです。ここで冷蔵庫を開けて、中身をリストアップし「猫缶」があれば「猫が可愛くて仕方ないんだろうな」と思わせられます。

 リストアップは、単なるアイテムの羅列です。しかし、そこには勝手に意味合いが生じてくるものなのです。

 短編小説やショートショートのように、文字数に限りがある場合は、リストアップをうまく活用して性格や気質を読み手へそれとなく伝えてみてください。

 マッド・サイエンティストを演出したいなら、机の上はフラスコやビーカーや試験管の山にしてしまう。部屋の中には怪しげな実験器具やホルマリン漬けもたくさんあるかもしれません。いつも白衣を着ているので、白衣が大量に干してあるのも面白い演出です。替えが何枚あんねん! というくらい。




あくまでも補助として

 こんな利点のあるリストアップですが、あくまでも「補助」として使ってください。

 リストアップはけっして万能ではありません。

 長編小説や連載小説では、性格をエピソードやシーンを使って見せる工夫をしましょう。そのほうが読み手の心に強く残ります。

 リストアップはあくまでも推測する手段でしかなく、断定するに及ばないからです。

 また、アイテムだけでなく動作や状態の羅列もよくされます。その場合でも、推測の幅を広げるだけで、断定するに及びません。

 小説は限られた文字数で表現しなければならない場合と、際限のない文字数で表現できる場合とに分けられます。

 文字数が限られているのであれば、リストアップによる推測効果を徹底的に利用するべきです。文字数が際限なく使えるのなら、エピソードやシーンで読ませましょう。そのほうがダイナミックかつ脳裏に焼きつきやすいからです。

 たとえば「海、空、白、青。」という羅列を憶えるのは結構難しい。まぁ四つくらいなら憶えられる方が多いでしょうけど、これが十とか二十とかになるとまず憶えきれません。そこで「夏のある日、湘南の海を訪れた。空は抜けるように晴れていて、白い砂浜には人々の足跡が至るところに残されている。そこにはひときわ目を惹く女性がいた。青いビキニを着たグラマラスな人で、ナンパ目的と思われる男たちが次々と群がっている。」と、このように文章にしてみる。すると「海、空、白、青。」という単語の羅列だけでは憶えきれなかったものが、文章を読むだけで頭にすっと入ってくるのです。

 記憶力のよい方は、憶えたいものを物語ストーリーにして頭に入れていると言います。よく「蒸し米炊いて祝おう大化の改新」「いい国作ろう鎌倉幕府」のような、年号を語呂合わせで憶えるやり方です。語呂合わせしてひとつの物語ストーリーに仕立てると、格段に憶えやすくなります。「一夜一夜に人見ごろ」「人並みにおごれや」「富士山麓オウム鳴く」なんていうのもありましたね。

 中には円周率を物語ストーリーで憶えてしまうほどの達人もいます。


 このように単語のリストアップには「推測」の効果がありますが、「記憶」には適していません。読み手に強く記憶してもらいたいものは、リストアップではなくエピソードやシーンなどの物語ストーリーで読ませるべきです。





最後に

 今回は「リストアップの効用」について述べました。

 リストアップすれば「推測」してもらえますが、挙げられたアイテムはそう憶えていられません。憶えてほしいものは物語ストーリーにしてエピソードやシーンで読ませてください。

 これを見誤らなければ、リストアップにはさまざまな効用があると気づけます。

 ぜひ効果的に用いてみてください。



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