1128.鍛錬篇:ないものねだりしていませんか

 今回は「ないものねだり」についてです。

 すべてが自由になる人などほとんどいません。

 どこかに所属し、職責を持ち、成績を出さなければならないのです。

 小学生でも会社員でも皇帝でも。

 ないものだからこそ求めてしまいます。





ないものねだりしていませんか


 小説を書きたいけど時間がない。小説を書く時間はあるけどそれだけで生活していくだけの資金がない。静かに執筆したいのに家族がうるさくて集中できない。

 あなたの周りにも「○○したいのに××がない」はありませんか。

 ないものが手に入れば、もっとうまく書けるのに。

 そう思っているうちは、うまく書けないでしょう。




時間か資金か教養か

 人が快適に生活するには、三つのものが必要となります。

「自由に使える時間」「自由に使える資金」「人生を楽しめる教養」です。


 皆様には小説を書く時間はおありでしょうか。おありでしたら、ぜひ小説を書きましょう。

 時間がない場合はどうすればよろしいのでしょうか。

 たいていの時間はお金で買えます。お金があれば人を雇って代わりに動いてもらえるからです。パッと思い浮かぶだけでも、家政婦やベビーシッター、デイサービス、便利屋などの代行業がありますよね。

 でも、人を雇うだけのお金がない方は多いのです。

 その場合「働く時間を抑えて、執筆する時間に回し」てください。

 これも立派に「お金で時間を買っ」ています。

「働く時間を抑える」と収入が減る。減った収入で執筆する時間を手に入れた。

 そう考えるのです。

 すると「せっかく買った時間をムダにできない」と考えて、小説を書こうという意欲が湧いてくる――とよいのですが、現実にはなかなか難しい。

 たいていの方は、時間がとれたら「趣味」に時間を費やしてしまいます。

 ビデオゲームが好きな人は、ゲームに時間を使ってしまう。アニメが好きな人は、録画したままの番組を観てしまう。

 空いた時間に「小説を書く」人は、それが「趣味」だからできるのです。

 あなたにとって「小説を書く」のは「趣味」になっていますか。

 なにがしかの野望があって、その実現のために「小説を書く」人も、空いた時間で執筆する人です。

「小説を書く」のが楽しい人、書かなければ生きていけない人は、ちょっとした時間があれば「小説を書い」ています。

「小説」が「趣味」だとして、「小説を読む」のが好きな人は、「小説を書こう」とは思わないものです。だって読んでいるのが楽しいのであって、誰かに自分の創った物語を読んでもらおうとは考えません。

 多読家だからといって巧みに「小説を書ける」わけでもないのです。

 読むのが好きでも書くのは別。


 では「時間はいくらでもある」方は「小説が書ける」ものでしょうか。

 確かに時間をかければ、誰にだって「小説は書け」ます。

 しかし「小説は書け」ても生活が成り立つかは問題が異なります。

 それこそ「小説賞・新人賞」で賞金稼ぎをして暮らす人もいることでしょう。

 しかしそんな「セミプロ」なんて今はほとんどいません。

 出版不況の昨今、賞金稼ぎができるだけの「セミプロ」は、出版社レーベルから見れば「安定した稼ぎ手」に映るからです。

「小説賞・新人賞」で安定して佳作以上が獲れる書き手は、なにを書かせても一定数以上の売上が見込めます。そんなおいしい果実を放っておく出版社レーベルなんてありません。今はそれだけ小説離れ、出版不況が根強いのです。

「小説賞・新人賞」で賞金稼ぎできるほどの実力がない方は、なんらかの手段で生活資金を工面する必要があります。

 学生なら親からもらうお小遣いをどう使うかに腐心すればよいのです。

 しかし社会人になったら、自ら働かなけれはなりません。しかし主にやりたいのが「小説賞・新人賞」への応募であるなら、正社員では都合が悪い。多くの時間を会社に奪われてしまうからです。となればアルバイトやパートタイマー、派遣社員といったあたりが現実的な選択肢でしょう。

「小説を書く」のと「生活資金を工面する」のと。バランスをとらなければなりません。

「小説を書き」すぎて「生活苦になる」のでは元の木阿弥。「生活を楽にする」ために働きすぎて「小説を書く」時間が減ってしまうのでは本末転倒です。

 どちらの優先順位が高いかを、あらかじめはっきりさせておきましょう。


「教養」はどんな小説を書くにしても必要となります。

 たとえば空手の達人を登場させて活躍させたければ、空手について詳しくなければなりません。正拳突きや回し蹴りなどの技はもちろん、間合いや飛び込むタイミングなどにも精通していなければ、不自然な戦闘シーンを書いてしまいます。

 数学者を登場させたいのなら、数学に詳しくなければなりません。書き手が数学に詳しくないと、証明できない問題を解いてしまうような事態が発生しかねないのです。

 小説に盛り込める「知識」は、書き手の「教養」にすべて収まります。

 逆に言えば、書き手の「教養」が、物語の多彩さ奥深さを決めてしまうのです。

 空手に詳しくないのに空手の達人を出したり、剣術に詳しくないのに剣術の達人を出したりしても、「小説のウソ」が強く前面に出ます。

 小説投稿サイトで「剣と魔法のファンタジー」に人気が集まるのは、剣術に詳しくなくても、魔法の知識がなくても、それなりの雰囲気だけで白熱したバトルが描けるからです。書くほうも楽ができますし、読むほうもよほどの矛盾がないかぎり楽しめます。

 ライトノベルでは「異世界ファンタジー」が強いのに、マンガやアニメでは「異世界ファンタジー」はそれほど人気はありません。少なくとも小説以上の人気はないのです。

 なぜかといえば、ライトノベルつまり小説は文字だけで表現するため、細かで具体的な構えや魔法エフェクトなどを考える必要がありません。対してマンガやアニメでは細かで具体的な構えや魔法エフェクトを考えなければならないし、そこに現実味リアリティーが伴わなければ冷めてしまうからです。

 深い知識もなしに書けるし、前提条件もなしに読めるのが「剣と魔法のファンタジー」。だからこそ小説投稿サイトで一大勢力を築くに至ったのです。

「現代ファンタジー」は現代の知識の上に「フィクション」が存在するため、「現代の知識」がそれなりにないと読み手に違和感を与えてしまいます。

 空手も剣術も数学も。すべて現実の「知識」に依拠していなければ、せっかく時間をかけても台なしです。





最後に

 今回は「ないものねだりしていませんか」について述べました。

 時間がない、資金がない、教養がない。

 ないなら生み出せばよいではありませんか。

 それを口実にして行動しないことこそが、最も成長を阻害します。

 どうしても教養が手に入らないのなら、なんでもありの「異世界ファンタジー」を書けばよいのです。

 しかし教養があるのなら、現実世界やSFや推理にも挑戦してみましょう。

 書き手の教養のほどは「異世界ファンタジー」以外のジャンルを書かせるとすぐに見破れます。

「異世界ファンタジー」しか書けない程度の教養しかお持ちでないのなら、仮に「小説賞・新人賞」が獲れても、その作品を残して文壇を去ることでしょう。



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