1116.鍛錬篇:効率化を図る

 今回は「効率化」についてです。

 集中して行ない続けるよりも、弛緩を挟んだほうが成績がよくなります。

 脳内の「プログラム」を整理するのも、弛緩したとき無意識に行なっているのです。





効率化を図る


 週に何時間「小説を書く」時間がとれますか。

 一週間で十時間とれると仮定します。

 週一日たとえば日曜日に十時間すべてをつぎ込んでしまうと効率が落ちるのです。

 週五日で一日二時間ずつ配分したほうが断然効率はよくなります。

 これは休んでいる間のほうが「文章の表現」の「プログラム」のストックを無意識に整理できるからです。その結果「アフォーダンス」で「文章の表現」を引き出しやすくなります。

 なにごとものめり込んではなりません。




分散して訓練する

 一回に集中して行なってしまうと、途中から疲労が襲ってきて生産性が著しく落ちます。

 疲れを感じたらすぐにトレーニングを切り上げてください。

 そして疲れがとれたらトレーニングを再開すればよいのです。

 人間の集中力はだいたい学校の授業時間と同じくらいしかもちません。

 成人なら一時間を執筆五十分、休憩十分の配分で振り分ければ効率が上がります。

 一日二時間なら準備五分、執筆五十分、休憩十分、執筆五十分、整頓五分の配分にしましょう。

 慣れてくると休憩時間中に「さっき書いたあそこ、こんな表現のほうが伝わるんじゃないかな」というひらめきが引き出せます。それは休憩している間に「アフォーダンス」が働いて、最適な「文章の表現」の「プログラム」を選び出してくれるからです。

 この観点からも、集中と弛緩の組み合わせはとてもたいせつになります。

 一日に執筆を詰め込むよりも、間隔をあけて執筆したほうが「アフォーダンス」が働きやすいのです。たとえば月曜・水曜・金曜に執筆して日曜に推敲する。これなら休んでいる火曜・木曜・土曜に「アフォーダンス」がひらめきをもたらしてくれます。毎日連載をしているのなら一日に二、三投稿ぶんを執筆すればよいのです。


 これが日曜に執筆して推敲までするのであれば、月曜には「アフォーダンス」が働くでしょうけれども、残る火曜から土曜までに「アフォーダンス」はほとんど働きません。これではせっかくの「文章の表現」の「プログラム」が錆びついてしまいます。

 一度ストックが錆びついてしまうと、「アフォーダンス」を働かせようとしても錆が邪魔をしてうまく引き出せません。いったん錆びついた「プログラム」を力任せに取り出し、研ぎ直して再びストックに収める必要があります。時間をムダにしていると思いませんか。

 分散して執筆するメリットは、「アフォーダンス」を働かせやすくすることにあります。「文章の表現」の「プログラム」を錆びつかせず、必要に応じてすらりと取り出せるのです。


「プロ」の書き手は毎日小説を書いているイメージがあると思います。

 実際には、講演に呼ばれていたり「小説賞・新人賞」の下読みをさせられたりで、毎日執筆していないのです。

 そんな雑務をこなしている間に「アフォーダンス」で「プログラム」を自動的に整理して、ひらめきをもたらしています。

 もし無職で時間が有り余っている方がいらっしゃいましたら、毎日執筆するとしても「一日中」はやめましょう。

 執筆は一日二時間なら二時間、一時間なら一時間と区切れば、集中力が高まりますし「アフォーダンス」も無理なく発揮できます。

 空いた時間は「アフォーダンス」が脳内を整理するのに必要な時間なのだと割り切ってください。そのほうが豊かな表現力は身につきやすいのです。

 それなのに一日十時間も連続で「小説を書い」てしまいます。とくに「絶対プロになりたい」との思いが強いほど、猛特訓しなければと思い込むのです。


 まず引き出しを増やす。次に引き出しから自在に取り出せる「アフォーダンス」を鍛える。

 これができていれば、自然と筆力はつきます。

 猛特訓しなければ「プロ」になれない。そんなこと、誰に言われましたか。おそらく誰もそんなことは口にしていないはずです。

 あなたが一流の「プロ」の仕上がりを見て、「こんなすごい表現は今の私には無理。きっと猛特訓しなければ使いこなせないだろう」と思い込んだだけ。

 実際に必要なのは訓練だけではありません。休憩時間をしっかりとるほうが重要なのです。

 訓練する、休憩する、訓練する、休憩する。

 休憩している間に「アフォーダンス」が勝手に働いて「あそこはこう表現したほうが伝わるのではないか」とアドバイスしてくれます。

 自分の内なる声となる「アフォーダンス」を侮ってはなりません。

 効率を求めるなら「あえて休憩を挟む」ようにしてください。




訓練しているより休憩しているほうが上達する

 多くの方が「訓練しないと上達しない」と勘違いしています。

 訓練をしなければ技術を体や脳に叩き込めないのは事実です。

 ただ、やみくもに「訓練至上主義」に陥ると、休憩をとらずに訓練に明け暮れてしまいます。結果体や脳が疲れてしまって、それ以上のパフォーマンスを発揮できなくなるのです。本末転倒もよいところ。

 休憩にはよい面がたくさんあります。

 いちばんの利点は「疲労を回復する」ことです。それだけではありません。

 実は「休憩」しているときに、「アフォーダンス」で機能させる「プログラム」の最適化が図られるのです。つまり「ムダなく最大効率を発揮できるプログラム」が仕上がります。

 たとえば野球でバッティング練習をするときに素振り千回する方がいますが、これなどナンセンスでしかありません。素振りをする目的を履き違えているからです。

 素振りは「ボールが手元にくるイメージ」で、そのボールを「的確にスイートスポットに当ててバットを振り抜く」という一連の動作を「プログラム」化してストックするために行ないます。

 つまりただ単に千回バットを振ればよいわけではないのです。

 ど真ん中のストレートであっても一三〇キロと一六〇キロでは、バットを振るタイミングが異なります。そのボールをイメージしてバットを振る練習をするから、優秀な選手は打率が高いのです。

 もしひと振り目でイメージしたボールを的確に捉えるスイングができたら、素振りはそれだけでじゅうぶん。あとはそのスイングのイメージを体や脳へ「プログラム」としてストックするために「休憩」をとるのです。

 傍からは「怠けている」ように映ります。しかし本当は高度なトレーニングを行なっているのです。

 来る球をまったくイメージせず、ただひたすらにバットを千回振るだけで打率が上がるのなら、今頃すべての野球選手は打率十割でしょう。

 しかしそんな選手はいませんよね。

 素振りよりティーバッティング、ティーバッティングよりトスバッティング、トスバッティングよりフリーバッティングがよいとされているのは、実際のシチュエーションに近いからです。

 ですがイメージ力が強ければ、素振りだけでも打率はじゅうぶんに上がります。


 小説にも似たようなものがあります。

 脳内にイメージを思い描いて、それを文章で表していく。

 イメージと出力を一致させるよう努力するのです。バッティング練習と同じですよね。

 文章が出来あがって、それで脳内のイメージを再現できれば、見事にスイートスポットでボールを捉えています。成功していますので、「休憩」をとってイメージと出力の一致を「プログラム」化してストックさせるのです。

 ひとつ成功したからといって、やみくもに次々と「脳内にイメージを思い描いて、それを文章で表していく」訓練をしていては、「プログラム」として定着する間もなくなってしまいます。つまりストックされる前に消えてしまうのです。

 だからこそ、成功したら必ず「休憩」してください。そして「こういう表現ができるようになった」と噛みしめましょう。そうすれば「プログラム」として脳内にストックされます。「プログラム」がストックされていれば、「アフォーダンス」でいつでも呼び起こせるのです。


 あなたの周りに「要領のよい方」はいませんか。

 その「要領のよさ」。実は「アフォーダンス」を活用した訓練なのです。一度でやり方を理解できる方の脳は「アフォーダンス」に特化しています。

 どんな文章が「脳内のイメージを正確に表せるか」を「プログラム」としてストックしてあるのです。だからすらすらと筆が走ります。

「文豪」は数をこなして「文章の表現」の「プログラム」を大量にストックしていたのです。

 あなたが本気で「小説賞・新人賞」の大賞を授かりたいのなら「アフォーダンス」を最大限に活用してください。

「血の汗流せ、涙をふくな」の根性論では、いつまで経っても大賞を授かりません。

「要領のよさ」「アフォーダンス」こそが大賞を呼び寄せるのです。


 あなたは「素振り千回」のようなムダな努力をしていませんか。





最後に

 今回は「効率化を図る」ことについて述べました。

 効率化には訓練もたいせつですが、「休憩」も必要です。

 休まず頑張れば結果がついてくる、などという根性論はとうに昔の話。

 今は汗をかいたら水分を補給する時代です。

 動かしたら「休憩」を挟みましょう。

 そのとき「アフォーダンス」が勝手に「プログラム」を最適化してくれますよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る