1097.鍛錬篇:難しいと感じさせない

 今回は「わかりやすさ」についてです。

 あなたは難解な小説が好みですか。私はご免被りたい。

「わかりやすい」作品はそれだけ多くの読み手に読まれます。





難しいと感じさせない


 小説投稿サイトで人気のある作品は、概して「わかりやすい」ものです。

「あらすじ(紹介文・キャプション)」を読んで主人公が動き出すくらいの「わかりやすさ」があると、本文も期待してもらえます。

 読み手は理解できれば読みますが、理解できないと興味が湧かないのです。

 ではどのレベルの「わかりやすさ」が求められるのでしょうか。




文学小説は難しい表現を見せつける場

 タレントの伊集院光氏が提唱した「中二病」。ライトノベルの読み手は中高生つまり「中二病」真っ最中の方々です。

 文学小説は深みを出すために「高い年齢層」がターゲットとなっています。

 芥川龍之介賞・直木三十五賞を授かった作品を読むと「よくわからない」と感じませんか。

 それ、あなたではなく作品が悪いのです。

 文学小説は読み手を大学生・社会人に据えていますから、中高生にはとんと響きません。大学生・社会人が読んでも「この小説は深みがある」と思わせるために、あえて難しい言い回しをしています。そう「あえて」なのです。

 著名な文学賞を獲るには、難しい表現を使いこなさなければなりません。「こんな表現もできるのか」と選考さんが思わないかぎり、受賞はおぼつかないからです。

「中二病」でもわかる表現には深みがありません。だからライトノベルが芥川龍之介賞・直木三十五賞を授からないのです。

 では文学小説を書くべきなのか。

 これはあなたの目標によります。

 あなたが芥川龍之介賞・直木三十五賞を本気で狙っているのなら、大学生・社会人が読んでもうなるほどの難しい表現を使いこなせなければなりません。そのためには、とにかく過去の受賞作をひたすら読んで、表現を吸収するしかないのです。古めかしい表現を現代に合うように改めるくらい。あとは「文豪」の文体をとことん真似て「誰それのような文体」というものを吸収します。ただしひとりの「文豪」の文体を真似るだけでは、「あの文豪のような文体の人」という評価にしかなりません。それでは芥川龍之介賞・直木三十五賞は獲れないのです。

 村上春樹氏が芥川龍之介賞候補にノミネートされながらも受賞できなかったのは、海外文学の文体で書いていたからだとされています。

 だから、ただ真似ればよいというものでもないのです。

 しかも、現在文学小説は売れなくなりました。お笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』が三百万部のベストセラーになりましたが、以後百万部に迫るような受賞作は現れていません。また又吉直樹氏の『劇場』『人間』も百万部がおぼつかないのです。




中二病でもわかる

 しかしライトノベルは異なります。

 ヒットすれば続巻が発売され、連載を十巻も続けば累計三百万部は固いのです。

 しかも求められるのは「中二病」でもわかる文章。つまり間口がひじょうに広く、内容だけで勝負できるのです。

 小説投稿サイトを利用しているのは主に「中二病」の方々。

 であれば文学小説を書くよりも、ライトノベルを書いたほうがウケるのです。

 事実『小説家になろう』ではライトノベルの評価の総計は純文学の百倍をかるく上回ります。

 小説投稿サイトを利用するなら「中二病」でもわかる文章を書くべきなのです。


 小説投稿サイトに掲載されている作品の特徴として「ひらがなで書くべき言葉を漢字で書いている」作品がひじょうに多い。漢字で表記しているから読みづらさを与えていると気づいてください。

 たとえば「接続詞」「副詞」は基本的に「ひらがな」で書きます。

「然し」は「しかし」、「寧ろ」は「むしろ」、「偏に」は「ひとえに」、「一層」は「いっそう」、「一向に」は「いっこうに」といった具合です。

 書く側が「中二病」だと「漢字を使いたがる」傾向にあります。

 しかし読み手が「中二病」なのですから、「難しい漢字は読めない」のです。

 だから「ひらがな」書きするべき語句は極力「ひらがな」で書きましょう。


 また和語を中心としつつも、学校で習わない和語は用いない工夫をするべきです。

 何回も書いていますが、「阿る」も「論う」も、漢字自体は小学校で習います。しかし読みは高校生になっても教えられません。こういう和語を漢字で書かれると、読み手はまったくわからないのです。

「おもねる」「あげつらう」はひらがなで書けばわかる方がある程度います。

 しかし「諂う」はどうでしょうか。常用漢字ではありませんから学校では習いません。これを作品内で漢字書きすると、読み手は「わからない」から逃げてしまいます。

 ひらがな書きして「へつらう」と書けばわかる方は多いでしょう。

 漢字で書いて「ルビを振る」方法もありますが、頻出するとかなり鬱陶うっとうしい。(この「鬱陶しい」も読みづらいと思います)。

「漢字で書くとカッコいい」と思っても、極力ひらがな書きしてください。

 もし「漢字で書くとカッコいい」とお思いなら、魔法の詠唱のときに限定して難読漢字を用いましょう。そうすれば魔法が「カッコいい」と思われます。

 読み手の「中二病」をくすぐりたいのなら、使い方を工夫しましょう。

 魔法の詠唱シーンは「中二病」をくすぐります。ここでいかに難しい単語を使えるか。それが「カッコいい」言い回しにつながります。結果として「カッコいい」作品に見えるのです。


 心しておきたいのは、読み手が「中二病」なのであって、書き手まで「中二病」では作品はウケません。

 書き手は必要に応じて「小学一年でもわかる」表現を心がけましょう。

 けっして難読漢字を用いて、書き手自身が「中二病」をこじらせてはならないのです。

 極力わかりやすい表現を心がけ、物語そのものの「面白さ」にのみ集中できるよう図らいます。

 小説投稿サイトを利用する読み手は凝った表現など求めていません。物語が「面白い」かどうか。ただそれだけです。

 凝った表現を求めているのなら「純文学」ジャンルはもっと人気があっておかしくない。他にも「歴史」「推理」ジャンルも凝った表現を多用するジャンルです。これらも小説投稿サイトでは映えませんよね。

 小説投稿サイトで一番人気は「ハイファンタジー」つまり「異世界ファンタジー」です。二番人気は「ローファンタジー」つまり「現実世界ファンタジー」になります。「純文学」「歴史」「推理」は下位集団を形成しているのです。

 これだけとっても、小説投稿サイトの読み手は凝った表現を求めていないことがわかります。

「中学二年でもわかる表現」を目指しましょう。





最後に

 今回は「難しいと感じさせない」ことについて述べました。

 なぜ小説投稿サイトでは文学小説がウケないのでしょうか。

 難しいからですよね。読んでいて「面白い」と思えないからですよね。

 それならできるかぎり「わかりやすく」しましょう。

 難読漢字を使わず、中学二年でも理解できるように書くのです。

 せっかく本文へ読み手がたどり着いたのに、本文が難しそうならそれだけで去られてしまいます。

「わかりやすく」て「面白い」作品が結果を残すのです。



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